12月の読書日記

mteraが12月に読んだ本。

『西遊記1』 呉承恩/小野忍訳 岩波文庫
悟空が生まれてから騒ぎを起こしてつかまり五百年経つまで。なるほど猿だと納得する
ほど単純で、力を得て偉くなったと勘違い。そこがいい。[角力]斗雲を得たり、如意
棒と出会ったり、毛を分身にしたり、昔いろんなところで見たままの活躍というのは、
痛快無比ってもの。詩歌があまり巧くないように思う。訳は俗っぽいほど平易になって
いる。さて三蔵はどんな造形か、それはお次の回で。(12/01)
「そちはわたしの手のひらから出ておらぬではないか」

『堕天使殺人事件』 二階堂黎人他 角川書店
ミステリ作家11人が打ち合わせしないで一つの連作長編を書いた企画もの。アイデア
としては面白いが、作品の出来としてはいかがなものか。ミステリはもともとお約束が
ないと成り立たないがその約束をどこまで破るかに作家の個性みたいなものが出ている
ので、このような形は、読む方としては、約束がころころ変わるので混乱する。各人の
違い自体は面白いんだけどね。(12/04)
「人間ほど非人間的な存在もまたないとは思いませんか」

『西遊記2』 呉承恩/小野忍訳 岩波文庫
三蔵の情けなさが際立つが度胸愛嬌坊主は説教でいいのかもしれない。今回特筆すべき
は太宗皇帝。飲めないと言う三蔵にはなむけの盃を渡すと、酒の中にひとつまみの土を
拾い取り入れる。意味の分からないでいる三蔵に向かって、天竺は遠くて、いつ帰って
これるかわからないなと笑って下の台詞。色気が迸っている。さすが皇帝。自分の国に
対する凄烈なまでの絶対を見た。(12/06)
「寧ろ本郷の一捻の土を恋うとも、他郷の万両の金を愛する莫れ」

『マークスの山』 高村薫 早川書房
走る凶器だな合田(<ごうだ>。ずっと<あいだ>だと思っていた)。山に登るという
観念をまるで山男が自分であるかのように書いている。スゴイ。尖っている山、荒れて
いる山肌、刺さるけど気持ちいい空気、そんなものが人間関係から見えてくるような気
がする。凄絶で安らぎのほとんどない犯人と刑事の生き様をリアルだと感じる自分が不
思議だ。それは私の現実とは違うところにある、山<非日常>のリアル。(12/10)
罪の意味が分かったときには、あんた死んでるのよ。

『西遊記3』 呉承恩/小野忍訳 岩波文庫
猪八戒の調子の良さも結構気に入っている。それにしてもうまくできている話だ。八戒
の讒言で追放される悟空の信じてもらえない悔しさ・お師匠様を守るのに力の及ばない
ところに行かねばならない苛立たしさとか、八戒たちの意地とか、それでも悟空に助け
を求めに行くところとか。お約束なのに、ドキドキしちゃう。すっごい好きだ、このバ
ランス。三蔵の情けなささえバランスのうち。(12/13)
「たとえ十万里離れていても、わたくしは頭が痛くなります」

『有栖川有栖の密室大図鑑』 有栖川有栖/磯田和一 現代書林
古今東西の密室を図解つきで紹介した本。見事にその解は一つも載っていないので、気
になる密室が出たら読まねばならない。『五十一番目の密室』を知らなかった。どこま
で本歌取りしているのだろう。ああ思うつぼ。普段読まないような西村京太郎とかまで
が密室を書いていてしかも面白そうに思える。図は、古風な方は雰囲気があるが、新し
い方はイマイチだ。特にFとかはだかの太陽とかSF系。(12/19)
<密室>は不滅だ。

『照柿』 高村薫 講談社
前作と人間が違うのではないか、というぐらい脱線している合田さん。というよりも、
疲れが先に来ていて、脱線するために一目惚れをしたのではないか。青と臙脂の補色の
対比が鮮やかなので、どの場面にどの色が割り当てられているか注意して読みたいもの
だが、合田刑事がいかにも精彩に欠けるのでちょっと苦しい。でも事件を起こしも解決
もしないのにこれだけの枚数を読ませる筆力は衰えを知らず。(12/21)
君が暗い森で目覚めたときに出会った人は誰だろう。

『西遊記4』 中野美代子訳 岩波文庫
訳者が変わって孫悟空復活の巻。詩が口語になってしまってそれは幻滅。漢詩っぽい方
が無意味に装飾的で好きなのに。金角銀角は、有名なわりにはあっさり退治されてしま
った。悟空が一度三蔵の元を離れたからか、たいへん大人になってお守りも板について
きた。三蔵の方はなし崩し的に化け物退治を容認・歓迎して、しかもさらわれまくり。
悟空の方が悟りの道に近そうだ。(12/23)
「この孫さまの目から見れば、……、天地はそのままでかい邸なんだ」

『亜愛一郎の狼狽』 泡坂妻夫 創元推理文庫
短編集。これはホームズ的探偵だな。あたってラッキー!という推理なところが。飄々
と雲の写真を撮っているかと思えば、宝に興味を示したり、ときにはゆすりまがいのこ
とも企んだり、掴めない性格のところも同じ。すごく感心するということはなかったけ
ど、舞台と脇キャラは豊か。三角の顔の婆さんは何者だ。推理にまったく関係なく挿入
童話がとても好きだ。(12/27)
「偶然に起ることを予測するとき、人間はだいたい三通りの思考方法をとるようです」

『西遊記5』 中野美代子訳 岩波文庫
四人のコンビネーションがうまく機能するようになってきたね。三蔵がさらわれる。八
戒が事態を悪化させる。悟浄が待つ。悟空が暴れる。これにさまざまなバリエーション
がつくが、基本的に働くのは悟空だけ。ときどき別の人が活躍。今回は三蔵が座禅合戦
で勝ったり、ちょっといいところを見せています。最近はねぎらいの言葉をかけたりし
て、悟空はますます働いてくれることでしょう。(12/29)
「あんたは生きているときも師匠、死んでからも師匠、だなあ」

『西遊記6』 中野美代子訳 岩波文庫
ひでえ三蔵。いくら盗賊を殺したからってその態度はないだろう。悟空が反発するのも
無理ないわーと思っていたら、追放された後、なんと菩薩を前に堰を切ったように泣き
出しちゃうのだ、あの悟空が! そのへんの機微をうまーく誘導しているので読む方は
いじましくてたまらん。今回女だけの国を訪れたり鉄扇公主がでてきたり、女の脂粉が
ちらちら匂うのが特徴的。なのに妊娠騒動は三蔵八戒かい。(12/31)
「あなたが西天へお経を求めに行かなければ、おれさまだってあなたの弟子にはならなかった」

今年の総括〜。読んだ本は190冊でした(足すと189冊だけどペパーミントがどっかで抜けているから)。ばりばりに国内新本格にハマった一年でした。おまけにキャラ萌えだらけ。ミーハー読書が爆発した感じです。アリスにハマったのがすごい昔のような気がする……。今年のベスト5やってみます。

1.ゴッホ星への旅 弟テオは兄が死んで狂ってしまった。今度ゴッホ展に行きます。
2.バトル・ロワイアル 青春。比喩とか考えないでそのまま、死のゲームを戦うように読め。
3.西遊記 六冊進んでもちっとも飽きません。
4.軽いつづら これだけ私と生活・文化が違っているのにおもしろかった。
5.ハサミ男 久しぶりに意味もなく死にたい気持ちに同調。

文句なし1位にノンフィクションがきました。ゴッホはもう。テオが死んだ後に初めて出てくる彼の部屋の描写で、黄色が目に刺さって胸が詰まる。キャラものがほとんど入らないのは、作品としては評価しにくいからです。だから別にキャラ萌えベスト5。

1.孫悟空 やんちゃ爆発のうえにおいしすぎる言動の数々。無敵。
2.猫丸先輩 実はビジュアルイメージはニャースだったりする。
3.火村英生 今はおさまっているんだけど、相当騒いだし。
4.ニッキイ・ウェルト 続きが出ていれば絶対集めた。
5.石川啄木 作品よりひととなりに惹かれたのでキャラってことに。

西遊記は絵につられてゲームを買い、ゲームにつられて本を読んだというメディアミックスな展開をしているけれど、いちばん惚れ込んでいるのは本家の本。くらくらしっぱなし。

来年はも少し文学方面読みましょう。弱いので。たぶんミステリとSFはほっといても読むし。あ、それと文豪カップ&ソーサーをいただく。引越で相当数の積読を見つけたので、これも片付けたい。11月の1日1冊運動が自分でおもしろかったので、またやる。だから来年の目標は大台200冊!!


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