9月の読書日記

mteraが9月に読んだ本。

『ローマ帽子の謎』 エラリー・クイーン 創元推理文庫
レーンの方とどちらが好きかと問われれば、現時点ではレーンに軍配。Q側は勿体ぶる
というより、茶化されながらのらりくらりと躱されている、という印象が拭えない。正
直に言おう、これを書くために見返したとき、犯人も筋もぼんやりとしか思い出せなか
った。だがしかし華は確実にこちらの方がある。何しろ覚えていたのは親子の仲の良さ
ばかり。それで続編を読もうと思えるかは人による。私は読める。(09/02)
「ぼくは自分のせがれだが、あの子を誇りとしたい……」

『桜もさよならも日本語』 丸谷才一 新潮文庫
すでに現代国語教育を修了してしまった私には、旧仮名遣いでは日常的な思考をうまく
表現しにくいので、その点では著者の力説に賛同することができない。実際、現在の状
況で読むと頷きにくい部分と頷ける部分が混在していて、改革できそうなところまでが
捨て去られそうな危険を孕んでいる。それを重々承知で口をつぐまない著者の日本語に
対する真剣さこそ見習いたいものだ。(09/04)
精神の自由は言葉の自由をもたらしたのだ。

『D−ダーク・ロード3』 菊地秀行 朝日ソノラマ文庫
珍しく片付かなかった敵がいるが、続編の伏線というほどのことはないだろうな。誰が
敵に回っても安心して読んでいられるので、本編は問題がない。問題はあとがき。この
あとがきは菊地さんにしては大変異色。主張にも問題はない。だけど、何故、今? 裏
の事情を勘ぐらずにはいられない。菊地さんの作品を好きなのは、仮面のヒーローをそ
の陰に見るからです。大丈夫、私もついていく。(09/07)
「(子どもの瞳に)未来が映っていたからだ」

『日本語の年輪』 大野晋 新潮文庫
漢字の起源や英単語の成り立ちを知っていても、意外と和語の由来は知らないものだ。
「たしなめる」と「たしなむ」、「がめつい」と「がめる」と「亀」が同じ語源だなん
て言われるまで気がつかなかったよ。丸谷才一の流れで読んだけど、こちらは強い主義
主張を叫ぶことはないので、辞書・雑学のように読むのに適している。美しい日本語へ
の愛情は強く根付いているけれども。(09/10)
言葉が人間を作るということと、人間が言葉を作っていくということ

『祝福の園の殺人』 篠田真由美 講談社文庫
作者本人は伊集院大介と言っているけど、探偵役グエルチーノは妙に明るいところを除
けば京介以外の何者でもない。話の構造も建築探偵の原型といえる作りをしている。篠
田さんの推理小説の特徴はトリックにあるのではなく隠された動機を探る側と隠された
動機を知る側の攻防にある。最後は他愛ない、ホントに少女漫画チックなヒミツが明か
されるが、その部分が胸を打つのは事実だわ。(09/14)
「ただ人間は幸せになれれば、自然と嫌な記憶を捨てて行くものですからね」

『江戸アルキ帖』 杉浦日向子 新潮文庫
特に何が起こるというわけでもなく、ただ江戸の町角をさりげなく描写した絵と文。そ
もそも江戸は現代人の筆という設定がさりげなく描写する時代ではない。何しろ昔なの
だから。なのにまるで当然のように見えるところだけを書いて自然な、その想像力には
恐れ入る。自分も江戸の片隅で名もない町娘として正月の市に繰り出したり、橋の袂で
物思いに耽ったりしてみたいと思わせるのだから成功。(09/16)
江戸は、まるで趣味で貧乏をしているようなところだ。

『ななつのこ』 加納朋子 創元推理文庫
作中作、しかも実際の文章が出てこない作品を作中人物がほめるのが苦手だ。実感がわ
かないし、興味を持っても確かめようがないからだ。ましてミステリのとっかかりとさ
れること7回となれば、ご都合主義的な感も免れない。話はあしながおじさん、という
のはネタバレに近いけどすぐわかるからいっか。たんぽぽの話のエゴも気になる。ほの
ぼのは免罪符じゃない、もっと納得させてほしい。(09/17)
情熱や常識が、ときとして弱い子供を脅えさせることに思い至らないのだ。

『ガニメデの優しい巨人』 J・P・ホーガン 創元SF文庫
人間が人間たることに出自なんか関係ないんだわ、という主張に宇宙レベルで励ましを
与える作品。この人の作品はいつも人が力強くかつ弱みもあり、優秀であることは善で
ありかつ平々凡々であることも美しい。まったくの人間賛歌だ。だから、読んでいると
気持ちが前向きになる。間違いは正すためにする。宇宙人が優しく知性的であることさ
え、信じていい夢と希望のSF。(09/21)
自分たちの運命と立派に対決できるのだということを、人類は身をもって証した。

『巨人たちの星』 J・P・ホーガン 創元SF文庫
悪役がひたすら悪役であり、改心の素振りさえ見せないところと、人間が犯してきた悪
行がすべてその悪役どもの陰謀とされてしまうところが、どうもきなくさい印象だ。そ
の分、プロットは凝っていて大活劇。魅力的なのはコンピュータ。『月は無慈悲〜』を
彷彿とさせる、有能で親しみ深い愛嬌のある人格。こんなコンピュータがいるなら、永
遠の停滞さえ私は受け入れてしまうかもしれない。(09/24)
「すべて、誰かが突拍子もない夢を描いたところから始まっているんだからね」

『おしゃべりなたまごやき』 寺村輝夫 フォア文庫
これだこれ! 大好きで大好きで、ぷつりとささる目玉焼きや、ことりとチョコレート
が出てくる箱がほしくてたまらなかった話は。何で絵が減ってるんだ、キー。文庫だと
わかっているのに王さまのようにわがままを言ってしまう。王さまの替え玉をやって、
図に乗ってしまうコックさんがお気に入りだった。何でもいっぱいできるのにコックさ
ん。ふかふかのベッドで気が大きくなる小市民なコックさん。ステキ。(09/26)
「こらっ。いうことをきかないとろうやにいれるぞ。」

『妖怪変化』 常光徹編 ちくま新書
京極は妖怪の権威か。柳田を引用するように京極を引用しているのを奇妙な思いで眺め
た。『リング』に絡めた都市伝説の解釈には首をひねる部分が多い。キャラクター化さ
れた妖怪という違和感にはまったく賛成だ。しかしコワサが妖怪の領域ではなくなった
ことも事実。世界を切り取ること、ムラの人生・国民の人生、名付けの理論など知的
好奇心を刺激する話が沢山。題名に反して妖怪の話は3割ぐらい。(09/30)
そこから排除された多くの一生、ムラ人に化けることの出来ない人の一生があったのである。

『深夜の弁明』 清水義範 徳間文庫
絶好調とはいいにくい。特に前3つ。短編集の並べ方を書いたのは誰だったか忘れてし
まったが(清水さん?)、第1番目が2番目にいい作品とは思えない。そのかわり、後
の作品はいい調子だ。ブラックな捻りのある3編もうまく落としてあるし。いちばんは
『コップの中の論戦』。あるあるこういうの、っていう清水さんの得意技。それにつけ
ても後ろ見返しの作者紹介はこれも何かのシャレか?(09/30)
『解説者というのは出鱈目にいいかげんなことを喋るのが商売なんですからね』


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