6月の読書日記

mteraが6月に読んだ本。

『バイバイ・エンジェル』 笠井潔 創元推理文庫
主人公が大変傲慢で身勝手で女王様なのでとっつきにくい通り越し反感。難解な現象学
には賛同しにくいとか、『緋色の研究』を思い出してしまうとか、名前で顔と人格が固
定されるとか、自分の想像力の貧困さを嘆きたくなったが、それにつけても受け入れ難
いのが犯人役の方の動機。解説を読むと意図があるとわかるが、死に個人の必然を付加
してきたミステリとは対極にある。(06/01)
青年たちが自分を巡って競争心や嫉妬心を燃やすことほど、 若い娘を面白がらせ自尊心を満足させることはない。

『ココロに向かって耳をすまそう』 香山リカ ハヤカワ文庫NT
いつか精神科医にお世話になることがあったらこの人を指名したいと思うぐらい、等身
大であり時代性を有し、それがある意味カリスマになっている著者。神戸の事件や学校
のあり方、治療について、自ら迷ってる様子を率直に書いたエッセイは、平易な語り文
と相俟って親近感を持てる。決めつけることをしない彼女の姿勢に安心するあたり、私
たちはすでに大きな穴を抱えて生きているのかもしれない。(06/02)
「学者や会長ではなくて、ふつうの人やアウトローの発言をきいた方がいいんじゃないかな」

『D―ダークロード2』 菊地秀行 ソノラマ文庫
続きの予告がない……。アンの行動は幼いながらも「悪役から寝返った人間は命まで賭
けて尽くすようになる」というお約束を踏襲しているところが魅力的ですね。ちょっと
は愛想振りまいてもバチはあたらないぞ、と思ってしまうぐらいで、どっちが悪役なん
だかさっぱりわかりません。でもそこが更にDのお約束ってことで。アンといいDとい
い、この物語って、親子喧嘩ははた迷惑だ、がシメ?(06/07)
「私のような娘を生んだ男の方の気持ちなど、到底(わかりませぬ)」

『モダン・タイムス1』 菅野彰 ウィングス・ノベルス
エッセイが爆笑ものなので小説の方も読んでみようかなーと思って古本屋で購入。ちょ
い人間関係のネタがくどくて、話は間延びした感じがする。半分の長さだとちょうどお
さまる感じ。義賊物なら追い方はどんなに丸わかりでもその正体を察知してはいけない
が、これは知っているのだろうなあ、と推測。にしても、どうしてやな作者は、事件は
すべて誰ぞの陰謀だった、という話を好むのだろうか。(06/08)
「お天道様の下を歩くのは、何処に行くんでも楽しいさ」

『陸小鳳伝奇』 古龍 小学館文庫
古龍ブレイク。遊侠児、盲目の佳人(男)、ニヒルな剣豪というもう定石通りの3人組
でございますが、各人好き勝手に行動している割に最終的に同じ場所にいるところや、
「人質にとった」と言われれば平然とした口を叩きつつも甘んじて罠にはまっちゃうと
ころが、中国四千年の歴史で見事にツボを押しまくり。緩急あり、アクションあり、ミ
ステリめいたどんでん返しあり、サービス満点、エンタメの満漢全席。(06/10)
「どんな友達のためであろうと、命がけになどなるはずがないって仰っていたでしょう」
「そんな気は毛頭ありませんが、馬車に乗ったところでどうってことはない」

『魔法無用の大博奕!』 ロバート・アスプリン ハヤカワ文庫FT
スキーヴくん、あなたの機転と度胸には感服するわ……! 私のような小市民には決し
てできない博奕の打ち方ですな。女性問題やら隠し子騒動(曲解故意)が似合うキャラ
クターに成長したのねえ、という感慨が大きいが、単に騒いでいるだけ、というあたり
まったく色気がなくて、ファンとしては安心(笑)? 新キャラ・バニーの性格のひね
くれ方とスキーヴくんの対応に好感。(06/12)
これまでの低能そうな口調より、このほうがずっといいや。

『五十円玉二十枚の謎』 若竹七海ほか 東京創元社
毎週土曜日本屋に五十円玉二十枚を持った男が現れて、落ち着かなく、それを千円札に
両替してくれと言う。この謎を面白く思うかどうかに読者の選別のすべてがかかってい
る。公募した解決篇で最も面白かったのは解決していない若竹賞佐々木さんの話。プロ
の方は、贔屓目もあるだろうけど、謎の設定変更で無理なく持ちキャラに絡めて楽しく
仕上げたアリスと保住の話が好み。私なら解決はねえ……。(06/13)
私はこの謎を墓場までたった一人で抱えていくのはいやだ。

『黒太子の秘密』 栗本薫 ハヤカワ文庫JA
スカールも恐ろしければ、ナリスも恐ろしい。どうして君たちは人間すべてを知ってい
る顔をするのだ。どうして自分の基準からはずれた人間を人でなしのようにいうのだ。
愚かな行動をしているのは間違いなくナリスの方だと思うのだけれども、判断はともか
く感情を断罪することは二つめの穴に落ちると思うわよ、スカール。札を見せたことで
かえって世界の秘密がわからなくなってきた巻。(06/14)
「お前はまだ……やっぱり本当にひとを愛したことはないのだということだ」

『亡霊は夜歩く』 はやみねかおる 青い鳥文庫
ほほえましい。私は正直、学園祭の類に参加するのが苦手だけれど、見ているのは嫌い
じゃない。どう考えてもプライドの高そうなレーチくんが、その孤高の態度をかなぐり
捨ててまで、気を引きたがっている姿がありありで可愛らしいし、学園祭で高揚した気
分が相俟って、ドキドキしちゃう非日常の世界。ミステリっぽくない方がメインだな。
もう無理無理の窮屈な設定もぎりぎり許容範囲かな〜。(06/15)
でも、この五十円玉は、わたしにとっては、とくべつのものなんだ。

『バトル・ロワイアル』 高見広春 太田出版
問題作と言われているが、理不尽な抑圧や不正のある社会に対してめらめらと悔しさや
怒りが燃え上がる読後感は別に不愉快じゃないぞ。大人の都合で殺し合いをさせられる
ことへの復讐の誓いは、中学生の自分を否応なく思い出させる。競争と集団生活への反
発から、「命を賭けて何ができるか? それぐらい大事なものはあるか?」を自問して
いた日々の私たちへ、これは、贈る言葉。(06/18)
「誰も信じられなくなったら、あたしたち、負けるんだわ」

『トロピカル<異形コレクションXI>』 井上雅彦監修 廣済堂文庫
だんだんテーマとヒマに無理が出てきたようだ。イラスト描き下ろしじゃないしさ。そ
の分、各人の発想力の差、というかキャパシティの差が顕著に見えてしまうので、アン
ソロジーとして大変恐ろしいことになっております。気持ち悪さでは格段に『オヤジノ
ウミ』と『猿駅』、テーマとあまりそぐわないけど綺麗で好きなのは『不死の人』、絵
関係で『夢を見た』が好み。戦争話が多いのが印象的。(06/20)
赤道の下に罪はない

『霧越邸殺人事件』 綾辻行人 新潮文庫
何となく肌に合わない側面が前面に出てきていて苦手。ワトソン役が蓋然性に超自然的
なものを感じたり、妙に観念的だったりすると、疑心が始終つきまとってしまって、そ
れが作品に対する疑心にもなりかねない、私の場合。謎自体とその始末は悪くないんだ
けどねえ。深月に対する男共の思い入れはどっちも五十歩百歩、本人大迷惑だろう。そ
の自覚がない分、鈴藤の方が始末が悪い。男の幻想って……。(06/25)
どんなに無様でも、醜くてもいい。彼女は彼女の、一つしかない生にしがみ付いて欲しい。

『夜凶街』 菊地秀行 双葉社ノベルス
夜香の意外と怪物的な側面が見られて大満足。夜香は声が魅力的なのね。しかし少年の
ように強い者好きで無茶ばかり、しょっちゅういなくなる若様で大丈夫か、この一族。
鬼顔は相変わらずで、屍さんが良識的に見える。ポルノチックな場面少なく、展開丁寧
で、女の子向けサービスが多い気がする。スポーツ紙連載時の反応を今更心配しちゃう
ね。続篇読みたいし。イラストはダサダサ。何この夜香(笑)。(06/28)
本当は返事よりも、その声を聞くのが目的だったのだ、と。


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