5月の読書日記

mteraが5月に読んだ本。

『双頭の悪魔』 有栖川有栖 創元推理文庫
悪魔の役の人については恐ろしいとか以前に醜いと感じた。人を殺しておきながら醜悪
であるという時点で、芸術家村という特殊な環境ではその人の敗北は決まったようなも
のだ。犯人は、江神さんでも法律でもなく芸術に弾劾されたのだと思う私は、アートに
憧れているんでしょうねえ。千枚を長いとは思わなかったけど、ああじれったい、と思
うな、人間関係で。思うつぼ?(05/01)
みんなガラス細工に夢中なんですね

『マジックミラー』 有栖川有栖 講談社文庫
私は作家アリスは「22歳の時に好きだった女を今も好きで心変わりをするぐらいなら
その心変わりの原因を排除するつもりのロマンチスト」と推察しているので、この話、
シリーズでもないのに彼の姿が重なって見えて仕方なかった。有栖川さんのマニアック
ぶりが最高に発揮されている本だ。時刻表トリックは好きじゃないけど、その対策と傾
向は楽しい。たとえるならデザートがおいしかった、ってところ?(05/03)
「特別な物語はありません。結果はこうです」

『8の殺人』 我孫子武丸 講談社文庫
赤川次郎の三毛猫ホームズを思い出した。警察官の兄と手に負えない妹っていう設定が
似ているからだろうな。間に一人多いけど。軽快なテンポで1時間ドラマのように笑い
も忘れず。笑いがちょーっとベッタベタで、トリックもこぢんまりとしてるかなあ、と
いう気はするけど、それはデビュー作だからかもしれない。もっとマニアックに攻めて
きてくれることを狙って続きを読んでみましょ。(05/03)
「――現実っていうのは、小説と違って、不合理なものさ」

『空飛ぶ馬』 北村薫 創元推理文庫
『スキップ』を読んでから避けてたけど、勿体なかったかな。こっちの方が断然いい。
日常に出会う謎を噺家が解くという主筋の新鮮味も勿論だけど、しっとりとした、曇り
空の似合う雰囲気の文章で、≪私≫の文学に対する愛情や、自分と周囲とのかすかな摩
擦への戸惑い、それを少しずつ認めていく心の動きなんかが、自然に織り込まれてる。
静かな革命、だったんだろうと想像がつくな。(05/04)
「若い頃の僕が相手です。一席一席、純な期待をこめて耳を傾けていた僕がね」

『薬局通』 唐沢俊一 ハヤカワ文庫JA
兄弟揃っておもしろい人たち。町の薬局に来る奇妙なお客や、薬の営業マンの裏話など
を調子よく語ってきかせる雑学エッセイ(?)。どんな笑える話でも、視線はあくまで
穏やかでクール。そこに薬に関する知識を絡めてコメントしてくるから、読み終わった
頃には、薬に関する過剰な期待も無理解もなく、医薬分離の理をもっと知ってもいいか
な、と思わせる――もしかして頭のクスリの本?(05/05)
われわれにはそれ(副作用)を承知で薬を使いこなせるだけの知恵があるはずである。

『しゃべくり探偵』 黒崎緑 創元推理文庫
関西弁の会話で構成され、文章のほぼ半分はぼけとつっこみというたいへん珍しいミス
テリ。見事、ハマった。漫才師のように退場する探偵がどこにおんねんな、と思わず関
西弁で突っ込みたくなったときにはすでに術中。ホームズ側がぼけ役ってのがアタリ。
大学生のゼミ旅行でちょっとした事件、ってのがまた馬鹿馬鹿しい学生時代のノリと重
なって身近だし、そこにかすかに香る友情もさっぱりした味わい。(05/05)
「おまえとは、やってられへんわ」「ほな、さいなら〜」

『そして5人がいなくなる』 はやみねかおる 講談社青い鳥文庫
噂のジュブナイル本格。凝っているというほどのトリックではないけど、最後にちゃん
と逆転を用意しているところが様式美ですな。挿し絵がない方が自由に想像できて嬉し
いなあ、と思うような、古く懐かしいマンガチックな(全盛期があったでしょう)展開
です。何よりジュブナイルの枷のなさを感じたのは舞台の遊園地のジェットコースター
の設定なんだけど(笑)。時速400キロ……。(05/05)
教授の前でわたしは、三つ子のなかのひとりでなく、岩崎亜衣でいられる。

『十二人の手紙』 井上ひさし 中公文庫
なぜかもっと純文学的なものを書く人だと思い込んでいたので、ミステリに近い仕掛け
が満載で吃驚。十二の短編すべて手紙主体、加えて女性主体。田舎の少女が、街に出て
「女」に変わる、その変身ぶりが鮮やかに映し出されるけど、その変身自体は美よりも
やりきれなさの方が強く出る話が多い。『ペンフレンド』が普通そんな反応しないもの
だけど、その分、かえってほほえましかった。(05/07)
(相手にとっての意味を)きちんと踏まえていない善意などは、ものの役にも立たない。

『不思議の国のアリス』 ルイス・キャロル 新潮文庫
英語で読まないとどうしようもないな……何が洒落でどこに仕掛けがあるのかさっぱり
わからないし、詩の韻もない。訳者の努力は窺えるけど、限界を感じる。物語としては
私はファンタジーよりホラーに分類したい。体が縮んだり大きくなったりは悪夢の代表
だし、悪意がないならかえって恐い登場人物たち。天真爛漫なアリスの反応によって、
幻想という衣装を纏っている世界は、やはりアリスなくしてあり得ない話。(05/08)
「狂ってるさ。でなけりゃ、ここまでこられるわけがない」

『鏡の国のアリス』 ルイス・キャロル 新潮文庫
続編の方がひどくファンタジックで冒険に溢れている。そう思ってから、違う、RPG
風なんだと思い直す。チェスのルールに則っているという主筋はステップ実行に近いし
パズル的いいまわしが山とちりばめられ、誰からも詩を聴かされるという小イベント。
そして目標をクリアすれば女王アリスとなるあたりがね。前作よりアリスの年齢があが
ったように思うんだけど、どうなんだろ?(05/09)
ぼくたちだって年くった子供にすぎない/ねるときが近づくとむずかるんだよ

『利き酒入門』 重金敦之 講談社現代新書
アルコール×な私のせめてもの武装。新大陸のワインが流行したのは、ブドウの品種の
違いを押し出し、味の差をわかりやすくしたのも一端、という話はいかにも近代科学と
大量消費社会を反映していておもしろい。ワインは農作物、ビールは工業製品、という
話といい、実際に酒の味を論評した部分より、どうして違いが生まれるのかをさりげな
く時代の流れと結びつけている裏話の方が印象に残った。(05/10)
「お客を一人失うぐらいなら、ボトルを一本捨てた方がましというものである」

『名前がいっぱい』 清水義範 新潮文庫
この人の本を小説と言い切るのは躊躇いがある。終始「作者の話」を聞いていると意識
するから。目の付けどころは相変わらずうまくて、名前に関して皆が一度は気にしたこ
とを笑いで形にしてくれている。昔の作品に較べて語気がおとなしめになったような。
表題作は、何だろうこの様々な文は、と思わせておいて最後すとんと落ちる。『あだな
物語』がう小説部分にあたたかみがあって好きだな。(05/10)
……日本の奇妙な習慣、子のある者は子の立場でひとを呼ぶ、……

『ペルシャ猫の謎』 有栖川有栖 講談社ノベルス
ミステリ以外に力が入ってる気がする。森下くんの心理や、『わらう月』の女の昏い面
はいい味だけど、ミステリとして疑問を呈したい作品が多いのと二人の露出が少ない点
に、どこかマニアな自分を脱したいというもがきを感じるのは気のせい? いちばん納
得いかない表題作が、立ち読みしたときよりは違和感なかったあたり。刮目すべきは猫
描写。猫好きのツボを見事なまでにおさえているよ(笑)。(05/11)
「いつも世間に気兼ねしてるみたいな恰好してるね。もっとハッタリの利いた服装をしてみたら?」

『しゃべくり探偵の四季』 黒崎緑 東京創元社
第三者の叙述が出てきた。この「ぼく」の天然ぽややんが素敵。「ぼくの人魚」なんて
地の文を披露してくれる非常においしい男。そういう頓珍漢さがうまくネタになってる
ので保住&和戸の掛け合いじゃなくても笑えた。ぜひ大阪に出てきてトリオ組んでほし
いな。保住は容姿が無茶苦茶いいらしくて意外(笑)。謎に巻き込まれた人と謎を解く
人の言動を楽しむ話なので、多少解決自体が強引でも許す。(05/13)
高原のお嬢さん、ぼくは心の中で、彼女をそう呼んでいた。

『仮面の告白』 三島由紀夫 新潮文庫
誤読をおそれず言えば、リリカルだ。獣とタナトスから生まれた叙情。感情を持て余し
思考で武装する彼は、すぐに堂々巡りの迷宮へ入り込んでいる。不道徳の極みの想像に
愉悦を覚える一方で、美しいと思うものを目にしたときは、その思考過程が一切省かれ
描写にのみ筆を重ねる。この差が頭真っ白になる瞬間を追体験させてくれる。彼は、そ
の瞬間に抗えない、とても純情な青年。タナトスの矛盾に共感したよ。(05/14)
相似は瞬間の幻影のまま終わるのである

『幸福の王子』 オスカー・ワイルド 新潮文庫
短編集。千夜一夜を彷彿とさせる繰り返し型童話の『漁師とその魂』は、途中でがらり
と様相を変える。普通童話には嘘はない(嘘をついているときは嘘だと明示される)も
のだけど、魂の嘘は曖昧なまま、聞く漁師の判断による。魂の変貌が明らかになる場面
は、羅刹と化した女を見るようであり、ぞくりとさせられた。表面の裏を見なくてはと
思う話や、苦みがきいた話が多いので読むときの気分には注意。(05/18)
「あなたはわたしに心をくださらなかった、それでわたしは、こんなことを
 することを覚え、こんなことが大好きになったのです」

『孤島の鬼』 江戸川乱歩 春陽堂江戸川乱歩文庫
前半はおそらくその時代のミステリマニア第一人者の本領発揮で蘊蓄と論理を重視した
展開が主。でもロマンス。後半は一転、冒険小説の様相を帯びる。でもロマンス。これ
が昭和4年って所に驚嘆する。差別用語だけでなくもろ偏見が飛び交うがそれをさしひ
いても乱歩は「美」という言葉に相当弱いんだよね。半歩の距離のロマンスは私の思う
美でもあるけど、諸戸の立場で読むと神経衰弱するよ……。(05/19)
「もう永久にこのくらやみから出なくてもすむかと思うと、いっそうれしかった」

『見つめる女』 大原まり子 廣済堂文庫
ポルノグラフィはたいへん難しい。最初からエロを期待している読者は個性的な描写な
ど歓迎しないだろうし、期待していない読者がその必然を感じるほどの作品には滅多に
お目にかかれない。大原さんの名前で買った私にとっては特に最初の方の作品は薄い印
象。母と娘の桎梏は得意技だから『ハンサムガール〜』『妖怪デパート』はこなれてい
る。でも昔の機械の関節の匂いに満ちた作品の方が好きだなあ。(05/20)
治らない傷を癒すためにオンナノコやほかのものを傷つける(後略)

『東亰異聞』 小野不由美 新潮文庫
『屍鬼』と同じ空気の匂いがする。異形の者の放つ闇が充満しているあたりだろうか。
時代物+ミステリの形をとっておきながら、最後の最後で見事に裏切って幻想の異界に
取り込まれる。毎度思うが、近代的思考を代弁する登場人物を活躍させるのに、どこか
で異界の思考が勝ってしまうことが多い彼女の作品、読者の足下を少し不安定にしたま
ま終わるのは、価値観の多様性を尊重するゆえだろうか?(05/21)
「夜と昼とが繰り返すものなら、人の心もそうであってなぜいけない」

『0の殺人』 我孫子武丸 講談社文庫
叙述トリックの一種か? 注釈などで作者の顔が見え隠れしてる方が楽しかったなあ。
探偵側に緊張がないのだから、そのぐらいお遊びしてもいいんじゃないかしら。いまひ
とつ思い切りが足りない感じが、逆に自分たちのミステリを楽しむ醜悪さを鏡に映して
見ている感じになってしまうのだ。弟妹はとってもおいしい設定なのに、活躍の場が少
ない完全な安楽椅子探偵で残念なのだ。(05/22)
「みんながみんな、そこまで考えて犯罪をするとでも思ってるの?」

『メビウスの殺人』 我孫子武丸 講談社文庫
すぐに犯人も仕掛けも分かったけど、3部作の中ではこれがいちばん面白い。やはりあ
る程度のスリルがある方がいい場合もある、ということと、初めて探偵役の慎二が真剣
に動いたのが印象的だったということ。それに加えて、犯行を行うときの緊張に強くシ
ンクロしたというのがポイントゲッター。憎悪なき殺人に納得がいくあたり、自分が嫌
になるが、もしかして作者のカラーはこっちにあるのかも。(05/24)
自分が“掲示板”に書いたものを読んでいて、喜んでくれる人がいた!

『海と毒薬』 遠藤周作 新潮文庫
どんなミステリより手術シーンの方が怖い。胸を開いて肋骨を切り取って、なんて全幅
の信頼がないと任せられないが、それが失敗するんだから。主眼は人体実験をしてしま
う医者と罪の意識にあるんだろうが、きっかけになるこの手術失敗の方が、私は人間の
生き汚い側面と命を預かる側の驕りの恐ろしさを表しているように思う。にしても、最
後、現代に戻ってくれないと気持ち的にまとまらないよ〜。(05/25)
「そういうもの(運命)から自由にしてくれるものを神とよぶならばや」

『夜明けのブギーポップ』 上遠野浩平 電撃文庫
ヤバいんじゃないか。奇怪な運命の平凡な少年少女が平凡な運命に立ち戻るための話が
主体だったのに、いつのまにか平凡から立ち去るための話になっている。しかも、他人
とズレることを全面肯定した上でだ。勿論、個性は重要だ。でもそれを世界に必要なフ
ァクターだとはき違えないだろうか? 世界じゃなくて自分にとって必要なファクター
だと読者は理解すると期待していいのか?(05/26)
「その名で呼ばれて嫌だった記憶ばかりではないんじゃないかい」

『コズミック』 清涼院流水 講談社ノベルス
たしなみとして。現代風。特殊戦隊ものを彷彿とさせながら「あるといいな」をくすぐ
るJDC(日本探偵倶楽部)。今まさに読まれているテクストを参照して新参マニアを
取り込む。そこここに出てくる著名作家たちの名前。これは作品が密室だね。究極の内
輪ウケ。枝葉の遊び方は好みじゃないとは言わないが、ミステリ主筋の答えがまったく
納得がいかない! そんなんありかー!?(05/29)
わたしの望んでいたのは、こんな世界ではないんだ。


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