4月の読書日記

mteraが4月に読んだ本。

『スウェーデン館の謎』 有栖川有栖 講談社ノベルス
もうちょっと遠慮しろ、ってぐらい人ン家の殺人事件に首を突っ込むアリスと風のよう
に(笑)駆けつける火村は野次馬っぽくて不作法な感じがする。事件の真相を暴くため
とアリスが思ってるならそういう論理の展開は私はちょっと。でもこの犯人を犯人にし
た有栖川さんの感覚は好きだからOK。人間、間違った後が勝負よね。実は私、この話
の、即興童話を語った後決まり悪そうに笑う助教授に落ちました。(04/02)
「さあ、おじさんに話してごらん」

『海のある奈良に死す』 有栖川有栖 角川文庫
火村さんホントにこれで仕事してるんでしょうか。ミステリーツアーに興じるのはいい
けど、どう斬っても犯罪学の論文が書けるとはとても思えません。それにしても人を殺
したい探偵、というのって、そんなに思わせぶりな過去かなあ。私なんか友達と呼ぶ人
間は夢の中で大概殺してるよ? 確たる害意もなくそんな夢を見る病もあるので、どう
ぞ安心して皆さんあなたと誰かの罪を告白してください。(04/03)
「殺されないうちに逃げな」

『ブラジル蝶の謎』 有栖川有栖 講談社ノベルス
やっぱり研究じゃないだろう。犯罪学ならホントは犯罪に荷担するとか、警察より先に
犯人見つけたらその場で独占インタビューするとかしないといけないんじゃないか。カ
ニ食ってる場合じゃないだろ(笑)。『蝶々ははばたく』のラストが珍しくおさまりが
よく叙情的にも良いわ。でもしかしすでに気分的には「会うために読んでる」ようなも
のなので彼らが出てればOKな邪道。(04/03)
「近づきすぎて火傷するなよ」

『英国庭園の謎』 有栖川有栖 講談社ノベルス
『竜胆紅一の疑惑』は結構笑えない。好きな作家が断筆宣言したら(幸いあの人はそこ
まで好きじゃなかったけど)絶望のあまりどう生きていいかわからなくなりそうだわ。
しかもそれが作家のわがままからだったらあまりのつれなさに可愛さ余るよね。個人的
にはジャバウォックの出典がわかったことが収穫。ほほ。どうせなら暗号に誤植のある
初版本が欲しかったな。しかし暗号好きだな、有栖川さん。(04/03)
「そうさ、アミーゴ」

『切り裂きジャック・百年の孤独』 島田荘司 集英社文庫
またジャック・ザ・リッパー。今度は謎解きが主眼だけど、夢物語であることには違い
ない。他の人の合間にこの人読むと、いかに推理がアクロバティックか実感する。でも
一度読んだら忘れられない解決であることは確かなんだな。他国人の喋り口調は雰囲気
あって好き。クリーンさんの年齢が記憶になくてだまされかけたのが悔しい。最後のは
ワトスン君よね? 何しにベルリンくんだりに来てるの?(04/05)
異常な事件だったが、ある意味では時代の必然だった。

『朱色の研究』 有栖川有栖 角川書店
知らないときもこの装丁は気になった。センセイらしい火村さんは第1作以来で、散々
研究は?と冷やかしてたものの、実際の姿拝むとなんか気色悪い。学生の朱美ちゃんが
ミーハーっぷりを隠してる感じが更に反感ってそりゃ単にやきもちやんけ(笑)。最後
犯人を落とす場面、私はアリスを真剣コワイと思いました。生半可な覚悟じゃこの人に
告白はできないよ……にしても証拠見つけしないよな、有栖川さん。(04/08)
「君と同じだ。めろめろだったさ」

『桜闇』 篠田真由美 講談社ノベルス
うわびっくり。こーゆー話が彼の独白形式で語られるあたりがびっくりだ。しかし思い
出してる現在のシチュエーションがイヤすぎ(笑)。路上でトリップするなよ。他は深
雪の単純さが目立ったけど、まさか「よかった病気の子供はいないんだ」を本気でやる
とは。脱帽だ。こんな三十男二人もだが、これで二十歳かよの蒼が真剣に心配です。彼
を成長させるために今度は京介が嵐を乗り越える話切望。(04/09)
(貸出中。手元に資料なし)

『雪の中の三人男』 エーリヒ・ケストナー 創元推理文庫
私は予定調和が好きなようだ。百万長者と間違えられた赤貧の青年は、貧乏人に扮した
当のお金持ちと意気投合、惚れちゃった娘も……あれ? なんてお約束以外の何物でも
ないが、愛嬌がある、と熱を込めて拍手してしまう。訳者が「なぜこんな実のない泡の
ような娯楽小説」を書いたのだろう、と疑問を呈しているけど、そんな評価さえ作者は
鼻で笑い飛ばしそう。だってそういう話でしょ?(04/14)
「あなたは場所をお間違えになったんです」

『時間怪談』 井上雅彦監修 廣済堂文庫
不条理を通り越し観念小説のようになってしまった作品がいくつかあるのが特徴か。小
手先に時間をねじ曲げたりしてる話はストレートすぎて捻りが足りない感じ。子供テー
マの時と同じように、時間は逆に流れたり突然違う瞬間に投げ出されたり「しない」現
実が最も恐ろしいと思う。その点菊地さんの実力を見た。しかし今回最もインパクトが
あったのは奥田鉄人のイラスト連作『夏の写真』だね。(04/19)
「平気な顔で、何もなかったような顔をして生きてる年寄りたちだって、
あの前の自分に戻れないってことはよく知ってる」

『幸福祈願』 飯島吉晴編 ちくま新書
幸福を求める普通の人々の姿をキーに世相を民俗した結果。初詣や七五三が有名寺社に
集中した現象には成程思い当たる。今や、私たちは自分たちの生活空間にハレの場を持
ち込むことが困難なので、正月が私たちをおとなうのではなく、私たちがおとなわなく
てはいけないんだろう。明治神宮に集まるのは聖なる空間だからとは思わないが。青春
から墓場まで論点広いけど、もう一歩、こっちに踏み込んできて欲しい感じ。(04/21)
「ふたりはあの伝習的な凡庸な自然への反逆の烽火をあげる子達になりたくない?」

『孤島パズル』 有栖川有栖 創元推理文庫
『月光ゲーム』から気負いがとれて、だいぶ安定した感じ。新たに加わったマリアは、
さばさばしたタイプの女の子で好感が持て、感情移入しやすい。アリスの性格は、作家
サイドに較べて醒めた気分屋の印象を受けるけど、そこがなんとも猫っぽくてご愛敬。
謎を成立させるのに偶然の要素に強く頼っているけど、それは有栖川さんの癖みたい。
私にしては珍しく挑戦受ける気になったけどわかんなかったっす。(04/24)
「マリアがくらっとくるんやったらメデューサでも陥落させられるな」

『紅はこべ』 バロネス・オルツィ 創元推理文庫
焦点がぼけている。紅はこべの活躍譚が書きたいのなら、マルゴの視点で進めると贔屓
の引き倒しみたいに思ってしまうし、ロマンスが書きたいのなら、紅はこべはもっと荒
唐無稽に颯爽と助けに来て欲しい。共和制には賛成するけど貴族をむやみにギロチンに
かけるのは賛成できない、でも貴族に侮辱されるままでもないヒロインは、勇敢であり
一本筋が通っていたので、是非彼女自身を活躍させてほしかった。(04/28)
「簡単なようですわね(略)ひな鶏を殺したいとお思いのとき……それをぐっとつかんで……
 それから首をひねる……そのひな鶏にとっては少しも簡単ではありませんわ」

『峰不二子の謎』 不二子フェチ倶楽部 祥伝社
下劣なネタの謎本というのはこれでもかというほど真面目に論証してこそジョークとし
て成り立つと思う。これは詰めが甘い。生い立ちを詮索するとかさ、そのボディを徹底
解剖とかが酒場の与太話の域を越えない根拠じゃあね。とは思うけど、それでも魅力あ
るルパンの世界。つられてビデオ観てたら、五右衛門の比じゃなく始終ルパンにひっつ
いている次元が最も不二子のとばっちりを受けている……不憫だ。(04/29)
恋よりも、金よりも、地位よりも「冒険」すなわち「スリル」を愛しているのだ

『玩具修理者』 小林泰三 角川ホラー文庫
古き神隠し味の表題作と時間SFっぽい『酔歩する男』の2作。メインの筋立てよりも
一人称で淡々と語るグロい文章の方が特徴のようだ。現実を侵しはしないあり得ない話
なので身に迫る恐怖ではないけどスプラッタ嫌いは注意。私は平気だけど、邪魔だな、
と思ったのは事実。そのようなわかりやすいグロテスクさに頼らなくても、十分恐怖を
喚起できそうなのに。ところで「てこな」って何?(04/30)
「何故、人は希望を捨てられないのか?」
波動関数が発散するから。

『薬物依存』 宮里勝政 岩波新書
依存の最もわかりやすい形が薬物依存だろう。データも説明も治療法も揃っているので
これ一冊で水先案内になるでしょう。しかし、このWHOの依存症判定の基準……「やば
い」と思ったよ。いや、薬物じゃなくてね。「○○のために、次第に他の楽しみや興味
を顧みなくなっていく。○○のことで頭がいっぱいになっている」他6項目のうち5項
目該当。3項目で要注意なのに。あなたの○○はいったい何?(04/30)
身を持ち崩したり、社会に不安を与えるような薬の使い方を、社会が問題にしたのである。


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