1月の読書日記

mteraが1月に読んだ本。

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『怪盗リュパン』 モーリス・ルブラン 創元推理文庫
読みもせずホームズ贔屓じゃ不公平か、と小学生の頃の記憶を塗り替えようとしたら
逆に何が嫌いかすっかり思い出した(笑)。推理小説としてトリックが割れているの
は記憶のせいか出版が古いせいなので問わない。ちょっと計画が杜撰なのもご愛嬌。
しかしリュパンを持ち上げるためホームズをドイル描写から外すのはアンフェアだ。
結局ミステリに「過剰な部分」が私には合わないみたい。(01/01)
「なんだって、一定の風体をしなくてはならんですかね?」

『青猫の街』 涼元悠一 新潮社
消えた友人Aを捜してネットワークの深い世界に入り込む話。いやあ、検索システム
が文章表記に出たのは初めてじゃないっすか(笑)。文化的にだいぶ寄ってきたけど
やっぱりまだちょっとズレを感じるのは個人的な文化差異のせい? サイバーストー
カーのくだりは、そこらのホラーよりよっぽど怖かったので、短くて残念。青猫の街
は発想が保守的だ。自然に実現してると思うけど?(01/01)
僕らが大人になった頃、必ず現実になる。少年の日にそう信じて疑わなかった約束の期日を、
酒場で馬鹿話をする僕らが追い越そうとしている。

『銀月譜』 菊地秀行 FUTABA NOVELS
これが根底に流れているから菊地さんが好きだ! 「人間が、生きる」ということに
小さな希望が持てる。暗闇にともる灯のような大袈裟じゃない安心感。その微妙なと
ころをエンターテイメントと違和感なく交えさせてくれる。どんな形であれ、人間と
して生まれ死んでいけることが極上の幸せに思える、私の命綱=菊地作品。全然伝奇
バイオレンスじゃないので、このタイトルと表紙は損だ。(01/01)
「――人間も捨てたもんじゃないわね」

『十角館の殺人』 綾辻行人 講談社文庫
『〜囁き』より全然こっちの方がおもしろい! 私もくたびれた中年が事件を解決す
るような妙なリアリズムなんかゴメンだし。その点、稚気の残るエラリイとかキャラ
の魅力も十分備えている。犯人は当てやすいものの、「どうして彼らは渾名で呼び合
うのか」ってことまで、ミステリとしての必要があったと明かされたときの気持ちよ
さは病みつきになる。成程納得。カード手品のタネがすごく気になる(^_^;。(01/01)
「絵空事で大いに結構。要はその世界の中で楽しめればいいのさ」
※辻の字はとっても気になっていますが、点二つの方は出ません。

『水車館の殺人』 綾辻行人 講談社文庫
これはさしづめ「なぜ一人称なのか」が明かされるまでの謎解きを楽しむ作品。1つ
ミステリとしての構成にはあまり関係のない謎が最後まで引っ張られるのけど、それ
は作者の好みですね。あとは小道具としての死体遺棄の仕方に癖が見られるあたり、
読者は謎を見破りやすいと思う。でも「解決シーン」が楽しい限り、それは推理小説
として成功だろう。前作に続きやっぱり解説が蛇足。(01/02)
今や私の手を離れ、一人で歩こうとしている。

『陀吉尼の紡ぐ糸』 藤木稟 講談社ノベルス
読みづらかった……。これは甘い、甘すぎる。確かに「怪現象の謎を解く」あたりは
京極の血を引いているかもしれないが、それ以前に怪現象に説得力がない。明治の人
間なら騙せるかもしれないけど、文章上、「怪異だ」と書くだけじゃ現代の私たちは
「気のせいだ」と思い続けてしまう。やはり読者を納得させるだけの筆力が欲しい。
時代物なのに文に雰囲気がなくそちらの違和感も気になる。(01/02)
外を知らない人々が、ここにいる。

『迷路館の殺人』 綾辻行人 講談社文庫
私、「第一の作品」の章、ホントの作品が出てくるまで、作中作中作だと思って読み
進めたよ……。相変わらず簡単な謎解き部分は出てくるものの、「なんかこの人の○
○って○○みたい」とひっかかった部分が最後の謎ときのキーになっていたのに、明
かされるまで深く考えてみなかったのがとっても悔しい。ところでこの鹿谷門実、こ
こまで彼とかぶってしまっていいんでしょうか(笑)。(01/04)
そんなものではもうはや止められないところにまで、私という人間の精神は 踏み込んでしまったのだ……。

『人形館の殺人』 綾辻行人 講談社文庫
んー? 『〜囁き』くさい……。もう2回ぐらいひっくり返してくれると思ったのに
素直に終わってしまった。私は著者注も何かのひっかけかと深読みしすぎました。謎
と言うほど謎でもなく、「そうだろう」という予想が大体あたって意外性が少ない。
強いていうなら、今まで密室ミステリとしてルール違反すれすれだった「館」シリー
ズ最大のお約束を逆手に取ったミスディレクションが狙いかな、と。(01/05)
街は時として、それ自体限りない恐怖でもある。

『時計館の殺人』 綾辻行人 講談社文庫
トリックの中身と犯人はすぐに見当がついたけど、その仕掛けのネタは最後までわか
らなかった。時計館の思わせぶりな形も気になったし。綾辻で時折唐突に思うのは、
用もないのに容貌のキレイな少年だ。由季弥があそこまで浮き世離れしている必要は
どこにあるのだろう。必要がないと容姿さえ論評したくなる本格ミステリ系の哀しい
サガ。探偵側は色物でもいいのにねえ(笑)。(01/08)
「“現実”は決して強固な実体じゃない」

『なぜ人を殺してはいけないのか?』 永井均×小泉義之 河出書房新社
例の社説で「大江なんか死んでも読むか」と思った私は、同じく小泉氏の問の不必要
性を全面に出した論旨には、納得も共感もできない。逆に永井氏の徹底的に論理的な
「きみは人を殺してよいから、私はきみを殺してはならない」の方が、心安らかに騙
されることができる。北風と太陽。この問は「自分が殺された」と感じたときか「自
分を殺したい」ときに出るものだと思う私には別の論説も必要だ。(01/10)
うまく自暴自棄になることこそが、人がよく生きるこつなのではないだろうか。

『黒猫館の殺人』 綾辻行人 講談社文庫
じゃあ黒猫館の風見猫はアレなんだな。と思わせる作者の手妻。一言も言及してない
が、読者は百人中百人あの笑い顔を思い浮かべたのではないか? 伏線の張り方は最
も私好みで読み返さねばならない気になる。でも実は、窓ガラスに関する点で、私は
それまでの記述をまったく無視し、意識もせずに真実の方に修正して読んでいた最悪
の読者だ(笑)。ところで天羽博士の研究って何?(01/12)
「理性という言葉がお好きなようですな」「今のところ、それが僕の“神”ですから」

『シャドー“X”』 菊地秀行 祥伝社NON NOVEL
どうしたんだ、プロットがしっかり立っている(笑)。ドクターとあうんの呼吸で敵
に向かったときは懐かしさに涙がにじんだよ。朱美さんとその夫子供もかっこいいし
嵯峨さんの「彼女」に追われる幸せを選んだ住人ぶりも見事。人情も溢れるけど、人
形娘どころか水月まで登場し、色仕掛けの板に付いたせつらや某専門バー、そして大
爆笑のあとがきと、ファンサービスにも余念ない密度の濃い一品です。(01/15)
「それで、その人の大事なものが一つ壊れても、生命さえあればまた、作り出せる」

『邪馬台国はどこですか?』 鯨統一郎 創元推理文庫
ミステリという言葉とは程遠いけど、とても楽しい。歴史物の奇想のエッセンスのみ
取り出して検証議論形式をとった小説でも十分イケる。しかも参考資料がその辺の本
屋で簡単に手に入るあたりアイデアに完敗。最も妙な説得力を持つのは、仏陀悟らず
説か。維新論や静香のキャラ造形は唸っちゃうけど、全体的に私好みの異説ばかり。
他にも言葉遊びや飲み屋のおつまみが好きな人には嬉しいしかけ。 (01/17)
この作品がフィクションであるという保証はどこにもありません。

『時の潮<グイン・サーガ63』 栗本薫 ハヤカワ文庫JA
これもまた珍しくプロットが戻り多少落ち着いた感じになってる。最初に出てきたな
つかしのスカールのおかげだろうか。彼の「私怨で国民に迷惑をかけるなんて、王家
の責任を知る者のする事ではない」というお言葉はごもっともでございます。私情で
王になろうってもう一人は意外と早く三日天下(ひどい)取りそうだ。これからを望
まれる王と望まれない王の対照的な立場を、描くつもりなのか? (01/20)
「それまでに、とりつくろった、あれほどいつわりに満ちた生き方をしているからだ、馬鹿者が」

『ゴッホ 星への旅(上)(下)』 藤村信 岩波新書
大感動。新書だが小説形態。現実の一つも見ることを拒んで精神を病んだのに、絵だ
けは真実を写していたヴァンサン(ゴッホ)。そしてその兄を経済的にも精神的にも
支えていたテオ。壁を埋めつくすほどヴァンサンの絵で飾られた家で暮らしながら、
本当はテオは兄になりたかったのではないだろうか。これで黄色の意味さえも違って
見えるようになるのは邪道かしら。 (01/22)
「君に暗いアルルを見させてしまったね。明るいアルルを見せたかったのに」

『吸血鬼ドラキュラ』 菊地秀行 講談社
なんて贅沢なっ……。菊地さんのアイデア溢れる翻案による吸血鬼モノ本家。今じゃ
珍しい天野さんの豊富なイラスト。これを少年少女物として出版するなんて。全体的
には思ったよりおとなしく原作に沿っているものの、文章は紛れもなく菊地調。私個
人は爺が美しき(そんな形容は原作には全然ない)伯爵に変身するという方がインパ
クトあると思う一方、キンシーの造形には思うツボであるよ。(01/23)
「――大好きですって。……わたしの香水の匂いが。」

『フランダースの犬』 ウィーダ 新潮文庫
よくもまあこんな短い話をアニメ1年分にしたものだと感心。思い出を覆したのは、
ネロが少年らしい野心とプライドをもって絵を描いていたこと。屈辱もそれを隠す虚
勢も知っている普通の少年だからこそ、最後の死が無情。まったくもって救いがない
のに較べ、併録の「ニュルンベルクのストーブ」は似たような境遇と情熱を持つ少年
が報われる話。私は後者の方が好きだな。(01/27)
「私たちも、私たちの制作者にふさわしい者になろう!」

『インド夜想曲』 アントニオ・タブッキ 白水ブックス
謎めいた話だ……。回答が与えられるわけでもない。失踪をした友人を捜していると
いう主人公は、最初は確かに物語を語る「主人公」。でも、インドの各地を回って、
言葉をかわしていくうちに、その座を降りてしまい、さしずめミイラとりがミイラに
なったかのように、風土に埋没していく。失踪したのは誰だったのか? と尋ねたく
なる、シュールな作品。味わいはグッド。(01/28)
「今度はフィラデルフィアの旦那たちに、僕が手紙を出す番だ」

『ことばの道草』 岩波書店辞典編集部編 岩波新書
岩波文庫・新書にはさまっている栞のことばを集めたもの。軽い読み味。たまに顔を
出す、編集者の個人としての社会への視線が邪魔くさい。ふと、自分が当たり前のよ
うに知っていた知識に出会うと、もしかして他の箇所も実は知ってる人にとっては初
歩的なことなのだろうか、と考えてしまう。ウニコールとか聞いたこともない単語も
混ざっているのは、時代の変遷かな。(01/29)
たしなむ――ときにのぞんで見苦しくないよう不断に心がけておく意。


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