9月の読書日記

mteraが9月に読んだ本。

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『ムジカ・マキーナ』 高野史緒 新潮社
音楽を奏でる機械を前世紀末ヨーロッパに配したメタ・フィクション的色合いの濃い
話。理想の理想たる由縁は自分で体現するところで、それを外に見出してしまったら
不幸だと思う。羨望は「それ以上」を求める最も強い動機で、その限り理想はいつま
でも実現できないから。だから最後、フランツの耳に響いていた理想の音楽は、きっ
とムジカ・マキーナではなく、あの第7番であるのでしょう。(09/01)

『怪傑ゾロ』 ジョンストン・マッカレー 創元推理文庫
わははは、最高に快笑。いいのかこんなにお約束で! どうしてマスクしてマント着
ただけで正体分からないんだーっ、とか丸腰相手に拳銃ふりかざしてりゃそりゃ悪役
だっつーの、とかツッコんではいけない。というより、そのツッコミを入れるのを楽
しもう。勿論、発表された当時は違ったのでしょうが、これは覆面ヒーローものの原
点。ストーリー展開は今でもあなどれない。飽きさせません。(09/03)

『ミステリーのおきて102条』 阿刀田高 読売新聞社
私が求めたものと違っていた。古今東西の作品をピックアップしながら、著者が考え
たミステリ的なもの、を話題にしたエッセイで、それなりに面白い。でも私は、もっ
とディープで系統だった蘊蓄を期待したのです。第1条、犯人は云々、でその理由と
作品と例外、とかいう形で。しかし新聞連載、良識的な文章です。ただし、ミステリ
に良識的印象が役に立つかどうかはまた別のお話。(09/04)

『群発自殺』 高橋祥友 中公新書
言わずもがな。自殺傾向のある人の信号をキャッチして、と筆者は言うが、それがで
きれば問題は簡単だ。「原因を単純化していじめ自殺と括ることは連鎖自殺を生む」
理由の分析がないので、その理由が直観的にわからない人は、多分自殺を止められな
い。論点を整理するにはいいかも。防止に役立てたいなら完全自殺マニュアルがベス
ト。でも衝動って本当は誰も止められないと思うよ。(09/09)

『Beast of East[1]―東方眩暈録―』 山田章博 スコラバーガーSC
掟破りのマンガ。感涙にむせびそうです。この麗しのカラー! 白黒も絵巻の如く、
1頁1頁が一つの作品。台詞回しもいちいちカッコいい。しかも喋ってるのが妲妃と
か晴明とか道真とか将門(すごく誠実そうで精悍だ)とかなんだからマニア垂涎。他
も脇役なんか一人もいない、全員主役って感じ。でもやはり鬼王丸がツボ。少年の純
情と心意気に眩暈きちゃいます。目線一つでくらくらです。(09/11)

『蒼き影のリリス』 菊地秀行 中央公論社C★NOVELS
リリスって一体何者。主人公ではないとはいえ、活躍の場が少なく性格も謎のまま。
吸血鬼なのかさえ判然とせず引っ張る。一方苦労人秋月くんは私が読んでる菊地物に
しては正統派ヒーロー。他シリーズの傍若無人な鬼畜達に較べれば、とても善人だ。
生活や危機感が身近で、ああ彼らも生きてるんだなあと思う。H描写少なくてその分
上質(超私見)。全体的にプロローグって感じ。(09/13)

『ホータン最後の戦い<GS外伝15>』 栗本薫 ハヤカワ文庫JA
あっさり。(5冊もかかったけど)存外苦労しなかったなあ、と思うほど。頑張れよ
グラチウス。でもグインが大変なのはこれからでしょう。物分かりの悪い敵は切って
しまえばおしまいだけど、物分かりの悪い姫をどうするか、みものです。我儘な読者
を満足させるのも大変。だって私ってば、「ちっ、誰も死なないや。ハッピーエンド
かよ」とか思ってるんですもの……。(ネタバレ気味か?)(09/15)

『電脳天使』 彩院忍 ソノラマ文庫
ネットワーク内を人格を持ったキャラが暴れ回る話。すごいありふれて聞こえるな。
普通このテのはネットに対して使命感や憧憬が異様にある人間が鬱陶しくてたまらな
いのだけど、この話のポイントはよい意味でネットが単なる舞台になってるところ。
キャラが友達を助けるという主ストーリーを追って、状況設定の美味しいトコ取りを
きちんとしてみせたジュブナイル。それでいいんだよ。(09/16)

『塗仏の宴<宴の始末>』 京極夏彦 講談社ノベルス
前5作はプロローグだったのか?というぐらい傾向が激変。京極にそぐわない結末。
そぐわないと思うことについて作中で予め理論武装をしている(益田くんとかがくっ
ちゃべってる)のは狡い。だってそれじゃあ次作からは犯人は……つまんないぞ、そ
んなの。戦隊モノじみた今回、喜ぶのは榎ファンか。敦ちゃん争奪戦が異様な盛り上
がりを見せています。俺が兄なら青木君。大穴は榎木津or木場でどうだ!(09/19)

『エニグマ(上・下)』 M・P・K・マクダウェル 創元SF文庫
うーん……さっぱりしない。現実世界を的確に反映してるんだろうけど、せっかく宇
宙に出て植民地の謎を解こうというフロンティアたちの話なのに、権力抗争や心理的
駆け引き、取引が話の大半を占めている。出だしは夢と希望に溢れていたのに、気を
挫けさせるようなエピソードばかり。最後は報われて終わるし、計算の内だろうが、
私とは相容れない。私は筋金入りのジュブナイル好き。(09/20)

『電脳天使2』 彩院忍 ソノラマ文庫
しまった。1だけ読んでやめるのはすっきり、2でやめるのはとても気持ち悪い。モ
ロ続き物になった。もう全然ネット内の仮想人格たちは置換可能な設定だ。自立って
何? 私の輪郭はどこ? というテーマのための人工物。普遍的だけど悪くない。技
術面は疑問はさておき雰囲気は出てるからいいんじゃないかなあ。強烈ではないけど
及第点。絵は絶対岡崎武士の方が現代っぽくてよかったぞ〜。(09/23)


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