『味と香りの話』 | 栗原堅三 | 岩波新書 |
味覚や嗅覚について興味深いトピックスが詰めてありますが、実はいちばん驚いたの は、喉にも味蕾があるということ。ナマズなんか全身これ味覚器官だそうで、イメー ジするだけで、エイリアンになったかのような気分になった。別の物質で味や匂いを 消したりするマスキング効果は耳にも類似する話があったので、大胆な脳の機能に感 服。甘くない物を甘いと感じさせるフルーツは是非味わってみたい。(08/05) |
『黒い聖母と悪魔の謎』 | 馬杉宗夫 | 講談社現代新書 |
これは副題の『キリスト教異形の図像学』が正解だ。タイトルから感じられる凶々し いオカルティズムとは縁がありません。葉人間や目隠しされた女性像の宗教上の意味 を解いていく様は説得力があります。しかし、1つ疑問。欧州言語上「左=悪」とい う図式があるから、キリスト絵画において左が地獄になった理由がわかる、って、そ れは因果が逆じゃないのか? 聖書から意味が派生したのでは?(08/07) |
『ブギーポップ・リターンズVSイマジネーター』 | 上遠野浩平 | 電撃文庫 |
全2巻。『〜笑わない』(一緒に増刷しろ!)を読んでいないからかどうか知らない けど、謎がぼかされたまま終わってるのが結構ある。面白いことに、「四月に雪が降 ることもある」と言っている方が悪役だわ。最近のこのテのテーマは、変化は恒久の 安定のために、日常は不断なる変化の連続、ってことを再確認させるものが多いね。 キャラ的には共感を憶えるのは幼すぎと思いつつ、私は好きです。(08/11) |
『EM[エンバーミング]』 | 雨宮早希 | 幻冬舎推理叢書 |
遺体に衛生保全処置(消毒、防腐、修復、化粧)を施す技術、エンバーミングをご存 知? この技術の詳細を知りたかったのだけど資料が極端に少なくて、すがった藁が これ。そうしたら、具体的な処置方法が緻密に書かれていること期待以上。技術を支 える精神から、薬品の配合、処置時間まで、すっかりわかって感激です。ミステリな んだけど、ストーリーの非現実性と技術の現実性が面白いマッチング。(08/13) |
『遺体処置―EM2―』 | 雨宮早希 | 幻冬舎推理叢書 |
EMで最も啓蒙的なのは「遺体の修復」ではなく「遺体の消毒」という概念だと思う。 焼死体でもバラバラでも、消毒スプレーを吹きかけ、腐敗防止のホルマリンパウダー をふりかける。死=穢れの概念に対し、その原因をきちんと追究して、衛生上「きれ いな」状態にする。物理的に「きれい」になれば、死は語れるものになるんじゃない かなー、と期待をこめて。話の筋も洗練された感じ。(08/14) |
『顔のない女―EM3―』 | 雨宮早希 | 幻冬舎推理叢書 |
美弥子の仕事に最も深い感慨を抱いたのはこの巻。処置に差があるのは許されないけ ど、最後、憎しみとは無縁に、遺体への誠意でエンバーミングを施してもらった彼女 は、きっと安らぎを得たことだろう。他者の死をどう受け止めるかは千差万別でも、 その人が幸せだったかどうかだけじゃなく、これから幸せにすることも考えたいもの です。エラそうでごめんなさい。(08/14) |
『ボーダーライン―EM4―』 | 雨宮早希 | 幻冬舎推理叢書 |
最初の方に処置の難しい遺体が続々出てくるけど、さすがに4作目だからか、詳しい 説明は減ってます。彼のハマった落とし穴は、偏差値の高い人間というか、理に偏る 人間のすぐ脇にいつもあるような気がする。私も他人事ではない感じ。ラストは某サ イコホラーはしり映画を彷彿とさせます。それにしても、美弥子の上流な暮らしには ちょっとため息。一度は紀ノ国屋で毎日の食材を求めてみたいものだ。(08/15) |
『Vampires〜血の黙示録〜』 | 吉田八岑 | 人類文化社 |
吸血鬼とは何かを探る本なんですが、研究書という感じではない。フィクション(伝 説)と風聞と歴史とを混ぜて書いてるので、これがはじめての吸血鬼本の人は注意が 必要。現代の話で臓器移植に話が及ぶと客観性はなく著者の意見という感じ。口絵に ジル・ド・レは妻7人中6人を殺害とあるのは青髭と資料が混乱しているし(彼の妻 は生涯約2人のはず)。鵜呑みにしなければ広範な雑学入門にはなるかも。(08/18) |
『はだかの太陽』 | アイザック・アシモフ | ハヤカワSF文庫 |
ダニールはどうなったんだーっ! ロボットであるだけでラブ入る私にはベリイの態 度は超不満。もちろん、緻密な世界と妙に理屈っぽい展開とちゃんとあるどんでん返 しはモロ好みで私の性に合ってる。ちょっとわかりやすすぎかなとも思うが、ラスト 付近のメッセージにも抵抗ない。でもロボットに会う人には、彼との交流に重要性を 見出して欲しい我儘。なんつってもアトムの国の人だから。(08/20) |
『トンデモ一行知識の世界』 | 唐沢俊一 | 大和書房 |
こういうくだらない知識大好きです。「スーパーマンが空を飛ぶときの片腕をつきだ したポーズを『アキンボー』という」って何で!? じゃあウルトラマンは? と謎に とり憑かれ時間を費やしふと我に返り虚しくなる。雑学の王道ですね。私は専門知識 に乏しいのですが、最近得た知識、「東京タワーを経営しているのは、日本電波塔株 式会社である」なんて結構意外じゃないかしら?(08/21) |
『屍者の行進<異形コレクションVI>』 | 井上雅彦監修 | 廣済堂文庫 |
『黄沙子』というネクロフィリアのお話があるが(3番目にオススメ)、私も死体の 話が好きなんです。物語上印象に残るのは、やはり死体に知性が残る方。だから2押 しは『語る石』。テーマとは違う気もするけど、腐肉蠢く作品群の中、思い出の結晶 のかけがえのなさを描いて目立つ。一押しは『僕の半分の死』。オカルト部分はなく てもいい。死人であることを実感できそうなこの身近さが○。(08/27) |