2003年1月の読書日記

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『毛糸よさらば』
ジル・チャーチル/浅羽莢子訳
創元推理文庫
600円
クリスマスバザーの話、という完全に時機を逸した読み方ですが。ゲストとして昔の友人が出てくるのですが、主人公のジェーンは彼女を「いい人だけど」と評し隔意があるのですね。でも彼女の方はジェーンを親友と思っている。よくある温度差。でもそれが後々、ジェーンに「ごめんなさい」と後悔の涙を流させる、これもホントにありそうな流れです。人の気持ちが、とっても、ありそうな方向にある。葬式があってもファッションは気になるし、バザーやらなくちゃだし。だからこそ最後の感傷も胸をついてきます。主婦になる前の少女の姿を思い出してしまう感じ(私主婦じゃないけど)。ところでさっぱりわからないことが一つ、「大序曲1812年」ってどんな曲?
(01/03)
『嘲笑う闇夜』
ビル・プロンジーニ&バリー・N・マルツバーグ/内田昌之訳
文春文庫
733円
バカミスだと聞いていたので期待したのだが、全然笑えなかったわ。私が考えるのと違うのね。読んでいる最中も気が滅入りました。皆が「自分は切り裂き魔かも……」と思うという話というのは、それぐらい皆性格が悪いということなのだ。いや、悪いという言葉ではすまされない、何か陰鬱な、殺されそうな。かといって目新しい感情や移入しやすい感情が提示されるわけでもなく。私はもう少し親しみやすい、救いのある話が好きです。
(01/04)
『死の拙文』
ジル・チャーチル/浅羽莢子訳
創元推理文庫
460円
このタイトルは素晴らしいと思います。中の訳文が相変わらず少しぎこちないけど、そんなものは吹っ飛ぶこのタイトル。ささやかな幸せで胸が詰まるほど感動する普通の人向けの、とても身近なミステリです。ジェーンが高校生の子供に対して「大きくならないで! 小さいぼうやのままでいて!」って思うけどその成長ぶりを見せられてじんとくるところとか、すごく真に迫っていると思うのです。母に対するささやかなわだかまりがあってもそれを抑えて振る舞うところ、それが解けるところ、まったく普通なのです。なのにくどくない。感動してても飯は作らないといけないんです。ミステリ面もキレイにまとまってると思います。私はメルよりジムおじさんが好きなんですが。ダメ?
(01/05)
『クラスの動物園』
ジル・チャーチル/浅羽莢子訳
創元推理文庫
600円
ジェーンはかわいい。まさにメルの指摘はあたっている。しかし、回を重ねるごとに立場が危うくなるジェーン。最終作あたりでは血まみれになって凶器持って記憶なくして佇んでるんじゃないだろうか、というぐらいにどんどん容疑者に近い位置になっていく。今回はお料理がとってもおいしそうです。こういっては失礼だけどアメリカの料理とは思えない描写。作り手は残念ながらジェーンではないけどね。このシリーズは、母親というものの理解を深めて愛情を確認するシリーズのような気がしてきました。
(01/06)
『忘れじの包丁』
ジル・チャーチル/浅羽莢子訳
創元推理文庫
580円
メルと旅行をしようという計画を立てているジェーン。たぶん日本人ならこの状況でとても気になるであろうことをジェーンはまったく気にしていない。子供と姑のことは気にしている。郊外で隣近所づきあいがかなり密であることが読みとれるというのに――「近所の人はどう思うかしら」と一言たりとも出てこないのだ。この点はやはりアメリカだからだろうか。伏線は今回「しむら、うしろうしろー!」というぐらいにあからさまだったし、動機もちょっと、って感じだったが、それを発見させるのはただ思い出させるだけでないあたりは、手を抜いてないかな。
(01/08)
『地上より賭場に』
ジル・チャーチル/浅羽莢子訳
創元推理文庫
620円
おお、このタイトルもいいね。もう死体にぶちあたっても全然驚かなくなったジェーンだが。なんとなくロックハートを思わせる人間が出てくる。皆そんなに自伝が好きか。メルはなんだか理想のボーイフレンドと化してきている。あと、泊まりに来たキャビンで「台所があるなんてひどい!」とジェーンが言うあたり、「そのとおりだ!」ってものすごく共感なんだろう。結婚してもいなければ子供もいない私でさえ思うぜ。そんなジェーンはメルと結婚したいと思っていない自分を認めている、これからどんどん違う人生になりそうな雲行き。
(01/09)
『豚たちの沈黙』
ジル・チャーチル/浅羽莢子訳
創元推理文庫
600円
ちょっと趣向を変えてきた。でもすっかり死体慣れのジェーン。ピカソみたい。マイクが大学に行ってもしょっちゅう帰省するって言ってるのは、もしかして男手がなくなったらメルが入ってくるかもという牽制もちょっとはあるんじゃなかろうか、なんて邪推してみる。ところで私はこのシリーズの感想でミステリ的な部分にほとんど言及してませんな。きちんとうまく伏線はって処理してるんだけど、メインはすっかり皮肉めいたやりとりと家庭的な部分に入り込む非日常のドラマによってより家庭的な部分のよさを味わうって感じなの……。
(01/09)
『エンドウと平和』
ジル・チャーチル/浅羽莢子訳
創元推理文庫
660円
ジェーンったらすっかり罠を仕掛けるようになっちゃって……と思ったけどそれは最初からだったな。今回は全然メルといちゃいちゃしてませんね。話の内容が内容だけにいちゃいちゃする場面がある方が効果的と思うんだけどな。博物館でボランティア中というのはいつもと舞台が違ってて新鮮です。でもそんな舞台も自然に描いている。次はどんな舞台でしょう〜。
(01/10)
『ピーター・パン』
J.M.バリ/厨川圭子訳
岩波少年文庫
760円
ダーティだ。ディズニーのようではないという話は耳にしていたが、まさかこんなに黒いとは。人ばんばん死ぬし。ピーターはタラシだし。しかもたらしこんどいて「ぼくのおかあさんになって」というあたりが黒い。ものすごく強烈なキャラクターだ。貫くテーマは「おかあさんとこどもの関係性」のようだ。それは人として生まれている以上、誰もが持っているテーマであるので、いろんな深読みが出来るキャパを備えている。冒険に関しては、私はピーターのようでもウェンディのようでも迷子たちのようでもなかったので共感するところはないのだが、大人になるという一種冗談めいた現象に対する皆の様子には共感できる。泣き笑いに似ている。その意味ではフックに最も共感かもしれない。でもフックはちょっと役者不足でした。
(01/28)

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