2002年12月の読書日記
『少年名探偵虹北恭助の新新冒険』
はやみねかおる
講談社ノベルス
740円
新冒険の方のあとがきで値段は若年層を考慮すると編集者が言ったと書いてあったけど、全然考慮されてないじゃん。でも響子ちゃんと恭助の関係がかわいい話ばかりで満足感はありました。メフィストには全然似合ってない気がしないでもないが。はやみねさんの場合、トリックそのものは主ではなく、それをさせるに至った意志を説明するためにトリックがあるような感じです。だから意志(あんまし動機という言葉が合わない)が他人のためを思っていたりちょっと振り向いてほしいんだったりで可愛いと読後感がよいです。映画野郎側だと独りよがり感が強いので読後感が悪いのだろう。ってことで新あよりはいい感じ。しかし鯉の映画は結婚式向きではないと思うな。
(12/02)
『ターミナル・エクスペリメント』
ロバート・J・ソウヤー/内田昌之訳
ハヤカワSF文庫
800円
うーん、ネビュラ賞か。米国SF者は真面目な方が好きなのだろうか。ほとんど笑いのない作品。本格ミステリ仕立てと言われているが、実際は全然そうでもない。話の構成に無理があるような気がする。それぞれが有機的に繋がっているとはなかなか考えられない。SF的にも。次の本に期待。ところで明らかに日本の名前や物がたくさん出てくるんだが、カナダには日本人が多いのか作者の周りに日本人が多いのか世界中に日本人が多いのか単にソウヤーの好みか、真実はどれだ。
(12/04)
『ファンタズム』
西澤保彦
講談社ノベルス
760円
おいおいおいおい、放置プレイかよ。『ペルシャ猫の謎』とかと同一の類です。謎解きしてくれませんか。ファンタスティックと言って逃げるのはやめてくれませんか。最後はそれでもいい、それでもいいが、強引なこじつけが途中で出てこないニシザワなどニシザワではないよ……! そういえば今回名前も普通めだった。別人が書いていると思いたいぐらいだ。
(12/08)
『「ミステリーの館」へようこそ』
はやみねかおる
講談社青い鳥文庫
670円
密室本。結果的に破ってしまうとはいえ袋とじが今までの密室本の中で最も効果的に使ってあったといわざるを得ない。まあ本1冊閉じこめるよりは、要所で使った方がいいに決まっているのだが。なんつーかこう、もっとトリックに関係ない部分を現実的にしてもいいような気がするんだが(別にトリックは現実的でなくてもいい)。ゲーム作ってて発売1ヶ月前に仕様変更してるなんていい加減な設定を子供に教えないでーとか、刑事が必要もなくそんなにマヌケなのはどうよ、とかそういうあたり。ほのぼので好きなところもあるので、いっそ日常の謎を等身大にやってほしいんだが、それだとはやみねかおるとは言えなくなっちゃうかなあ。私は結局地道に生きてる大人がカッコいい童話が好きだからな。
(12/12)
『4000年のアリバイ回廊』
柄刀一
光文社文庫
781円
あいかわらずリーダビリティの悪い人だなと思いました。現在でも長編はとっつきにくいのだけど、昔なのでさらにとっつきにくい。どこに視点を据えるべきかぼんやりしたまま、なのに特に魅力があることが起きるわけでもなく、しかも嫌な面が強調された人間が出張っているという、まったくもって大部分には薦めるべきところがない。しかし、歴史の謎を解くところは、SFではないがセンスオブワンダーと言いたいぐらいの驚きに溢れている。美しい論理と情感がその底にある。だが浮かび上がってきてない。魅せ方はまずいと言わざるを得ないのが残念。
(12/14)
『エスコート・エンジェル』
米田淳一
ハヤカワJA文庫
640円
緒方剛志のおかげで陳腐さを免れているが、内部の描写を読むと、単なる美少女変身アニメのようなイメージの貧困さである。今更エヴァ的内面葛藤を見せられても、うんざりするだけだ。同じテーマならテーマで、見せ方を変えないと、単なる二番煎じでしかありえない。全体を貫く価値観が私の好みではないせいもある。いまや技術や世界は、少数の天才では動かないと思うのだが。プロットも一本調子。ライトノベル系にしては珍しく文章が嫌いではないし、設定自体も悪くはないと思ったのだが、どうにも受け付けませんでした。
(12/24)
『ゴミと罰』
ジル・チャーチル/浅羽莢子訳
創元推理文庫
600円
新幹線の中で読み終わった今年最後の本。あとがきを読むとコージーミステリという言葉がなかった頃に刊行されたようですが、まさにコージー。主人公の主婦とそのご近所さんたち、「ここまで」と思うほど、ハリウッド的といおうか、映画などから想像する郊外のアメリカ生活そのもの。でも、主人公もまっすぐバイタリティに溢れるのみではなくて、心に秘めてる苦痛とかちょっとした希望とかが身近な感じで好感が持てる。爽やかでした。起きてる事件は殺人事件だが。
(12/31)
2002年の総括
今年の読了本は127冊。少なかったですねー。総括としては「海外物再発見の年」。自分内No.1は文句なしに『指輪物語』なわけですが、人には薦めないし、すごーく読みにくいし、現代人に何か示唆を与えることを期待する本とも言いにくい。ただし喜怒哀楽感動と萌えは圧倒的。バランスがとれていて人に薦めやすくしかも面白いとなるとやはり掲示板でも書いたように『どろぼうの神さま』。萌えまであります。ミステリなら読後感の悪さを我慢できるなら『聯愁殺』、爽やかなら『ツール&ストール』ただしこのミスコメントとか読むと作者はちっとも爽やかではなさそうです。以降注目は『アイルランドの薔薇』作者。SFなら『イリーガル・エイリアン』、ソウヤーはネガティブな個人とポジティブな未来を描いてます。来年も引き続くのはクリスティ(ポアロ)マイブーム。2003年もいい本を発見していきたいです。
(12/31)