2002年11月の読書日記

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『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』
J.K.ローリング/松岡佑子訳
静山社
3800円
不満が多かったので、ききたくない人はとばしてください。ネタバレはしてないつもりです。 長い。さすがにだれている感じがする。もっと濃密なプロットにすることは可能だったはずだ……と考えてしまうのは、自分ワールドカップに全然興味がないからだろうか。描写が映像的になっている。「目が8つ欲しいと思った」的文章が好きだったんだが、長い分、そういうおもしろさが薄れちゃって直接描写が多い。もしローリングがスランプだというなら、それは映画のせいだと思うな。まだこの話の時点では見てないはずなのに、引きずられすぎている。後はちょっとハリーが英雄的になってしまったことが不満。もっとロンの気持ちを酌んであげる子だと思っていたのだが〜。今回注目はハーマイオニーだな。喧嘩も微笑ましい。あと訳者あとがきを何とかしてくれ。うざったい。挟み込みチラシにまで顔出したあげく、怠慢を苦労話にするなよ。
(11/02)
『ロミオとロミオは永遠に』
恩田陸
早川書房
1800円
それはオヤジの見る夢だーーーー! 最後を読んで涙ちょちょぎれそうになりました。私も20世紀(というか20世紀末)の文化は大好きだ。サブカルで全身ができあがっているといっても過言ではない。でもだからこそ、少年という概念に抱いて欲しい夢はそんな保証つきの夢ではなく無謀かもしれないできないかもしれないでも成功を信じている夢だ。最後寸前までちゃんとそんな夢を見ていたのに。そういう視点で見ると、オヤジに管理される世界から脱走してオヤジになってしまいましたという話ということになる。ところでキョウコちゃんの読んでいるマンガ……あなたは腐女子予備軍ですか?
(11/09)
『試験に出ないパズル』
高田崇史
講談社ノベルス
820円
有栖川さんにまんまと騙されそうになったよ! ってなんで作者と違う名前が出てくるのかは解説を読め。パズルとしっかり融合している話が多くて、それの現実性はともかくこのシリーズの方向性に合っていると思う。パズル好きのニーズに合っている。だが千波くんの出すパズルは確かにかわいげがない。私は叙述が好きなことからわかるように、頓知的パズルが好きだ。ところで奴らは二浪でしょうかね、やっぱし。私も考えてみましたよ、ぴいくんの本名。あだながぴいくんで「お」で始まり「お」で終わる変な名前ということで落花生というのはどうだ。耳から聞いてもインパクトがないのが弱いけど。
(11/12)
『目撃者を捜せ!』
パット・マガー/延原泰子訳
創元推理文庫
古100円
これはちょっと甘いかな。あの人はあの人のしていたことも理由もすべて知っていて、あの行動をとっているのだと思っていた。そうじゃないのなら、それはもしかして大悪人かもしれない……というぐらい不自然な気がしないでもない。そんなにも心理を読むことに長けていないそんな職業の人間はイヤだ。ってネタバレせずに書こうとするとわけわからない文章だ。甘いけど、探偵役を老夫婦にしなくて、何ともイヤなタイプの男にして、それでも何となく微笑ましいように思わせるあたりが、この作者ならではの妙か。
(11/13)
『イリーガル・エイリアン』
ロバート・J・ソウヤー/内田昌之訳
ハヤカワSF文庫
940円
エイリアンを裁判にかけるというある意味とてもアメリカらしい作品(作者カナダ人だが)。エピローグ読むと「絶対この国には勝てねえ……!」と思う。陪審制度というのは日本人にとっては謎の制度だ。頭では理解するが納得できないというか。無罪であるということと刑を与えないということは異なる次元の話に思うのは日本人の感覚なのだろう多分。容疑者が宇宙人であるということを最大限活かした法廷ミステリとなっている。定石にはミステリ読みはすぐ気がつくと思うが、それも計算に入っているようだ。この合理的な説明にはとても納得がいく。法廷物はほとんど読まない私にもわくわくできるように話は進んだし。そしてドラマチックでもある。宇宙人も私たちと同じ、ちょっとカッコつけたりするし、間違ったりするし、うろたえたりする。でもそれがちょっとはずしていて笑いも誘ったり。読みやすい。
(11/15)
『複数の時計』
アガサ・クリスティ/橋本福夫訳
ハヤカワHM文庫
720円
凡作以下、という感じ。ロマンスも社会性も……と織り込んでいった結果、全部中途半端になってしまったような。看板にも偽りあり、本格ミステリ公式ルール作成委員会(ないです)に訴えたいところだ。ポアロも精彩に欠ける。うーん、残念。
(11/21)
『白昼の悪魔』
アガサ・クリスティ/鳴海四郎訳
ハヤカワHM文庫
640円
こーいうカタルシスがほしくてミステリを読んでいるのよ! 私はいい人が悪人だったことがバレる話より、悪人らしいふるまいをしていた人が実は別の考えを持っていた、とぴたりとはまる話が好きだ。しかもそれが謎解きの主眼であってはいけない。あくまでも副産物としてそういう、目の覚めるような思考の転換が起きる、そんな話。まさにこの話がそれだと思う。短編で似たような話があったが、クリスティは長編の方がうまいよな、とも思わせる。奇を衒った人物やらはいないしトリックに派手さもないが、堅実で優しい視線。
(11/27)
『少年名探偵虹北恭助の新冒険』
はやみねかおる
講談社ノベルス
700円
ちょっと待て。恭助20ページぐらいしか出てないんですけど。別にキャラで読んでるわけではないんだが、さすがに看板に問題ありなような気がする。字がでかいとかマンガが入っててびっくりしたとかは、子供向けというコンセプトがあるらしいから別にかまわない。そういう本を選んで読んでいるのは私だし。でも実は、はやみねかおるは私的に子供に読ませたくない本ベスト10に入ります。大人がシャレとして読むのはいいんだけど、子供が読むと大人をバカにしないだろうか。文章に出てるよりもっとずっと真剣に大人だって物を考えてるし、大事にしてる物もあって、子供と同じぐらい実は感情に溢れているんだよ、ということを、信じてくれなくなりそう、というあたりが薦められない理由だ。そういうことで、映画の話はちょっと悪のりがすぎるような気も。
(11/27)
『ツール&スツール』
大倉崇裕
双葉社
1800円
うーんほのぼの。巻き込まれ型探偵の多くがシチュエーションに説得力がなくなっていくところを、「お人好し」という性格設定をすることで、見事なまでにフォローしている。いや無理はあるんだけど、人柄に騙されるというか。イヤイヤじゃないあたりが、清々しいのかもしれない。おまけに読後感も爽やかというおまけつきだ。これだけ場が違う素材も、きちんと調べているという印象も受ける。実体はどうあれ机上じゃないという印象を受けるのは大事なことだ。落語家の話よりこっちの方が好きだな。装幀がおもしろい。有栖川さんの帯はかえって読者層を狭めているような。
(11/28)
『さよならダイノサウルス』
ロバート・J・ソウヤー/内田昌之訳
ハヤカワSF文庫
640円
恐竜がなぜ滅んだかを探りにタイムマシン(!)で古代に行くというだけでもイヤンなのに、着いた先にで出会ったのは***だった!って、もう恥ずかしくて恥ずかしくて帰って報告なんかできないよ、ってあたりを笑いのネタにしているあたりが性が合うところだ。おまけに何だ、このへたれカワイコちゃんっぷりを振りまくヒゲオヤジ(44才)は。大好きだ。同僚クリックスに某所に一緒に行くか?と問われて「危ないから嫌だ」と断っておきながら、寸前になって「いっしょに行く!待ってよう!」(原文ママ)。クリックスは一人称語り主人公の妻を寝取ったということでくそみそな描かれっぷりだったが、この男の面倒を見ているのだからとてもいい人なのかもしくは主人公狙いではないのかとマジで思ったぐらいのカワイコちゃんぶりであった。そんな笑い(?)の視点中心で読んでいたらば、クライマックスの事の大きさに驚かされたうえ、最後にほろりとやられてしまった。可哀相で、哀しい。でも分岐はない方がよかったかな。この話ネタバレせずに感想書くの難しい〜。
(11/30)

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