2002年9月の読書日記

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『エーテル・デイ』
ジュリー・M・フェンスター/安原和見訳
文春文庫
686円
麻酔法が発見された日のことを指します。関わった3人の人間について描いたノンフィクション。構成も年代を順に追うのではなく、場面転換を効果的に使うドラマチックな仕立てでおもしろく読めた。しかし現代の商慣習とかに慣れた目で見ると、これはいかに不品行であろうとも、麻酔を医学界にもたらしたという点では文句なくモートンに軍配が上がるのではないだろうか。それでも50年以上も誰が正当な発見者かを巡って争わざるを得なかった背景やらが詳しい。現代では誰に敬意を払うのが主流なのかしら。麻酔効果の主としたプロセスが未だ謎のままというのが、余韻のあるまとめだった。面白いが翻訳調が苦手な人は1ページも進まないだろうな。
(09/08)
『猫丸先輩の推測』
倉知淳
講談社ノベルス
840円
タイトルがすべてを物語っているように、「推測」です。それがホントに当たっていたかどうかの解決編があるのは1作だけです。その、嘘かもしれないけど騙されているならそれでもいいやという安心感のある合理的な説明、っていうとなんか変ですが、それが得意なキャラが猫丸先輩なので、強引な推理は最初から全部彼に任せておけばいいのです。日常を愉快さとシニカルさを混ぜて描いた期待通りの作品が読めます。そして何か、期待以上に萌え要素が入っているんですけど……ね、猫耳? クリスマス? しかも猫丸先輩、どんどん縮んでいませんか? 講談社の戦略の一環に組み込まれているのですか? そして踊っている自分を発見だよ。最後の話で言及している長編は出るといいなあ。
(09/10)
『赤い館の秘密』
A・A・ミルン/大西尹明訳
創元推理文庫
640円
ミステリ好きと一部の童話好きには有名だろうが、おそらく他の人はそんなこと全然知らないだろう、プーさんの作者が唯一書いたミステリ。方程式通りのメイントリックはバレバレですが、古典なのでそこは差し引く。本格としての最大の不備は「赤い」館の意味が全然ないところですかね。もう少し訳のテンポがよかったらユーモアミステリとしていけるんじゃないかなあという探偵&助手で、登場人物少ないわりに展開も動きがある。あ、驚いた点が一つ。館物なのに、最初に殺人が起こった時点で屋敷に泊まっていた客が、あっさり早々に帰宅して退場してしまうところだ。そしてそれも謎を解く一つのカギとして使われているところは賞賛。しかし、つまらなくはなかったが、突出した点もなかったかなあ、という感想。古典は不利だ。ところで表紙絵を書いた人は中身を読んだのか。
(09/13)
『四人の女』
パット・マガー/吉野美恵子訳
創元推理文庫
560円
物語であるという観点から、すぐにラストは想像がつくのですが、まあこの人の書く話はミステリというよりも、人物描写の妙を楽しむものであるから、全然かまいません。実際、彼みたいな人いそうだし、女達もこれだけ性格が違いながら、無理がない。すれ違いロマンスも、どこか切ない。ラストが想像できるだけに、いっそう切ない。それでいて、狙いが誰であるかを特定させるのも、心情的な面からではなくちゃんとミステリ的な理由がついている。オーソドックスな人間ドラマでありながら、それだけにうまく書ける人はあまりいないんだよね、という稀少価値的作品です。
(09/21)
『魔法の地図はいわくつき!』
ロバート・アスプリン/矢口悟訳
ハヤカワFT文庫
660円
ネットで海外版の表紙を見て、日本人でよかったと本気で思いました。水玉画伯の挿絵が翻訳の軽妙なタッチに合っているし、一人称は社長になっても「ぼく」じゃないとヤだ(スキーヴの経歴からして英語圏の人間は「俺」的印象を持っている可能性はあり得る)。今回はまだ師弟関係な頃の番外編で、オゥズの挙動に一喜一憂するスキーヴくんが愛らしいです。オゥズの鼻を鳴らすタイミングが罪作りです。この1編が入ると話のつじつまが合わなくなるような気がするが、もともとつじつまを重要視してないのでかまわないや。私的には萌系に入るので、評価が甘いです。
(09/22)
『木乃伊男』
蘇部健一
講談社ノベルス
760円
けっこうまともという評を小耳に挟んで、なんとなし買ってしまった。行きの電車で読み切ってしまった軽い本。最後が、どうとるべきなのか……それまでの推理は皆嘘か? でもそうすると流れが合わないし……と考えさせるところが好意的な評の所以だろうな。奇妙なほど上手じゃない文章というのは変わらないわけだが、上手じゃないわりに切迫した感じは出ていた。しかしこの仕掛けをするのに挿絵が里中満智子ってのはふさわしくないだろう……。関係ありませんが、いきなり登場人物に「スナフ」とかいて、しかもやっぱりスナフキンにちなんだあだ名だったのでびびりました。引力?
(09/29)

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