2002年7月の読書日記
『オリエント急行の殺人』
アガサ・クリスティ/中村能三訳
ハヤカワHM文庫
680円
これも読んだことがなかった。犯人は勿論知っている。犯人知ってる話って昔は読まなかったのですね、読んでもよかったような気がしますが。というかオリエントは入り組んでいるので、むしろ犯人を知りながら読んだ方が、伏線はつぶしやすい。ただ、やっぱり「!!」というふうに驚けただろうネタなだけに、もったいないことこのうえない。なにしろ、アクロイド的パターンはたまに見かけるが、オリエント急行的パターンは見かけないからな。この結末はいいのだろうか。現代日本人としては釈然としません。ポアロは警察出身とは思えないほどこのパターンが多いような。パスポートの事柄が変な気がするんだが、読み損ねかな?
(07/03)
『映画は予告篇が面白い』
池ノ辺直子
講談社新書
680円
私は予告編大好きです。マイカル本牧がタダで予告編だけを上映している企画は素晴らしいと思っています。そんな私に読み物としてはまあ面白いけど、本としてはどうだろうか。私はどうやら根っからの技術屋らしいので、この技術はどう功罪がありどう利用できるかみたいな冷静な分析を好むのです。だけどもこの著者やインタビューを受けている人たちは自分の感覚を大事にする芸術屋のようだ。そういう人は向かないという逆の言質も出てくるが、文章はまさにそのものという感じがします。苦労話や若手を励ますみたいな文って私には煩わしいだけなのだが、そういう部分が多いのが難点だ。
(07/04)
『歩兵型戦闘車両ダブルオー』
根本康宏
徳間書店
1800円
徳間はSFへの回帰キャンペーンでもやっているのだろうか。SF新人賞佳作。巨大合体ロボットの説明などにはとっても合理性(?)があり、それも真面目な理由でないあたりがSFマインドでかなりいいです。敵の掲げるイデオロギー(?)はちょっと古くさい。搭乗員の小市民っぷりは好感が持てますが、あまり個体差がうまく表現しきれてないのが残念。合体パーツの個体差もあまり明確ではないですね。せっかくだから、個体として戦うさまも見てみたかったね〜。
(07/05)
『日本人の神はどこにいるのか』
島田裕巳
ちくま新書
700円
キリスト教・イスラム教・ユダヤ教の崇める唯一絶対神は同一でありその解釈が違うだけという論旨には目から鱗でございました。一神教は聖者によって多神教的の性質を孕んでいるという論旨については賛成なんだが、それを多神教でもあると言ってしまうのは違うんじゃないかと思ってみたり。聖者というか神というかがその宗教にとってはとても大事な違いなんじゃないのか。最後の方、日本人の一神教感と神は実在するかのくだりはちょっととりとめのない感じがしました。「祈りがあるところに神はいる」って個人的にはまあ嫌いではないが、結論としてはまるでライトノベルだよ! しかもその直後にそれと相反することを書いている。それが残念。
(07/06)
『中国の神さま』
二階堂善弘
平凡社新書
740円
日本人は意外と知らないと筆者が書いている中国の神さまたちを、私が名前だけを入れれば8割は知っていた、というあたりが、その内容の偏りを示しているように思われます。中国の小説で出てくるような神さまが中心。民間信仰の主体を中心にしたそうだ。日本でいうなら、天照あたりは抜かしておいて、晴明や道真を入れたりという選別である。中国の伝奇系の話が大好きな人間にとっては、いままでランダムに得た知識をまとめるのに適切で幸せ。まったく知らない人が読むとどうなのかは想像がつかない。八仙の「八仙過海」のエピソードが素敵すぎる。誰かにフィクションで書いてほしい。
(07/09)
『幽霊刑事』
有栖川有栖
講談社ノベルス
980円
ストーカー刑事呼ばわりはいいすぎではないと今でも思っているが、終わってみればそんなに反感を抱いているわけではない。ただ、いろんな造型が不自然な印象は拭えない。小説としてはその不自然さが問題で、本格としてもそこが未解決のレッドへリングのように誤解してしまって釈然としない。献辞を読んで悟ったが、舞台やドラマならそんなに不自然だとは思わないような気がする。造型や描写が小説的ではない、といってわかってもらえるだろうか。安楽椅子探偵としてなら納得した。小説としては気に入らない。推理マンガというジャンルがあるんだから、推理ドラマ作家になってはどうだろうか。こないだの火村もそんな感じだったし。
(07/11)
『パティシエ世界一』
辻口博啓・浅妻千映子
光文社新書
700円
まえがき以外はインタビューでの辻口氏側の喋りだけを起こした形式になっている。どれぐらい浅妻氏の手が入っているのかわからないところが、ちょっと危険。おいしそうな描写というのは昨今では情報の積み重ねによって作られるんだなと実感しました。おいしさをこういう感じ、と表現するのではなく、材料はどこどこ産の何を使いこういう化学効果が起きるのでこういうところに留意して形は何を意識して仕上げた、ということを語ることでおいしそうな気がしてくる。パティシエでさえ、饒舌でないと勤まらない時代。かなりアンティーク小野を思い出しました。
(07/14)
『探偵を捜せ!』
パット・マガー/井上一夫訳
創元推理文庫
360円(古100円)
前2作に較べると、そんなに凝った印象は受けない。単純。そのかわり、犯人に「道がつく」心理を詳しく書いて鋭い。マーゴットは何だか哀れで、このまま逃げても許すかも……とちょっと思ってしまいました。そこに幸せはないだろうけど、もしかしたら心に革命が起きるかもしれないと。古本なので表紙がすごいです。
(07/19)