2002年5月の読書日記
『アイルランドの薔薇』
石持浅海
カッパワン
781円
社会派ネタ大の苦手なんですが、読んでみたらそんなに抵抗なかったです。かなり伏線が多く、人種構成さえ計算し尽くされ裏のあることばかりだけども、「それありかよ!」と鼻につく点はありません。たぶん描写が地味で堅実だからだと思います。そう、既存の作家で言えば古処もしくはあっさりめの柄刀とタッチが似ているでしょうか。犯罪自体にトリッキーなところはないが、私は好きだ。最大の謎、フジって何者……。
(05/07)
『密室の鍵貸します』
東川篤哉
カッパワン
800円
上と逆に、文体が大の苦手……。性に合わない。真面目にやれい、と思ってしまうのです。トリックが妙に名探偵コナンを思い出させる。マンガなら許せるが、小説としてはもう少し捻りがほしい。あと、描写がちょっと疑問に感じるところがある。毎回酒宴になるのにどうしてこいつは酒屋の位置を説明するのか?とか、何度も訪れている家に行くのにそんなに「時間がぴったりじゃ……」とか注意するのか?とか、そんな人ん家で脱いだ服を脱衣籠に入れっぱなしにするか?とか。推理以前のアンバランス。
(05/07)
『見えない精霊』
林泰広
カッパワン
781円
くどい。もう少しすっきりできないものか。クイーン系とでもいうのか「わかってるから省略してよ」と言いたくなるような反復が多いのです。舞台が特殊で人間ドラマ的要素が全然ないのも私には辛い。記号が動いている話というのも悪くはないんだけども、だったらもう少しあっさりしててもいいんじゃないかと思うのです。
(05/08)
『ルール』
古処誠二
集英社
1600円
終戦間近のフィリピンでの日本軍、という設定でありながら泣かせようという描写がないところが好感が持てます。微妙な問題だけに、作者の抑えた筆致が活かせていると思います。捕らえられた白人兵は現代人の代弁者であろうと思われます。感情的にはこちら。でも、ご老人たちに対して戦争の話を何で黙ったままでいるのかと糾弾しにくいぐらいには、日本兵の気持ちがわかるような気がするんです。それは極限状態での彼らのとった行動ゆえではなく、とりたかった行動ゆえにあるのではないかと、考えさせてくれるところにこの作品の価値はあると思います。装幀は好きなんだけど、話に合ってなくないかしら。
(05/08)
『黒後家蜘蛛の会1』
アイザック・アシモフ/池央耿訳
創元推理文庫
780円
時代を感じますね。小ネタ的というか、そんなささやかなネタでは普通ミステリ小説にしないわ、というような話が多いです。うまいんですが物足りない。本格でもないと思う。理屈臭い有栖川という感じか。「明白な要素」で、それを言ってはー!というミステリにおけるかなりな反則技を持ってきたあたり、やっぱりこの人の根っこはSFにあるんじゃないかと思います。
(05/09)
『おしどり探偵』
アガサ・クリスティ/橋本福夫訳
ハヤカワHM文庫
680円
久しぶりのクリスティ。最後にクリスティ読んでから10年以上経ってるんじゃないかと。正直、クリスティがこんなユーモア小説を書けるとは知りませんでした。現代にも通じそうな仲の良い夫婦の探偵ごっこぶり。ネタになっている探偵たちがほとんどわからないというのが残念。時代を鑑みるに、たとえば今「じゃあ今日は僕は金田一で」「私は御手洗で〜」とやっているような感覚じゃないかと思う。ほのぼのしてるわりには、きちんとフェアだと思うし、密室から暗号までバラエティに富む。脇役も魅力的。軽いけど私は好き。こんな楽しいクリスティを知らずにいたなんて勿体なかった。
(05/10)
『マレー鉄道の謎』
有栖川有栖
講談社ノベルス
940円
読んでるときはそれなりに楽しかったんだけど、振り返ってみるとそこはかとなく2時間ドラマめいていたような気が。観光地巡りなところとか、最後の処理とか諸々。ダイイングメッセージの解決は甘すぎるでしょう。そんなことやってるヒマはない、んでなかったの? 変な話、なぜか火村シリーズは思考停止して読んでしまい途中で謎を解こうという気などさらっさらないんだが、謎解き主眼にするとかなり物足りないんでないかと思うなあ。キャラものとして読むとそれなりにツッコミどころがあって楽しいんだけど。
(05/11)
『怪盗道化師』
はやみねかおる
講談社青い鳥文庫
620円
デビュー作復刊。よくあることだけど、デビュー作が最もおもしろいってどうよ。ファンタジー寄りでモロ児童書的世界、短編連作の形式なので質にばらつきがあるものの、勢いがあるうえにメリハリがよいです。やっぱり三人称の方が似合っていると思うな。あと児童書なのにじさまが主人公ってのも勇気ある設定。あとがきの追記は蛇足だ。あのまま終わって欲しかった。
(05/11)
『殺戮にいたる病』
我孫子武丸
講談社文庫
571円
五月の晴れた休日の昼下がりに紅茶を飲みながら読みたい……本では絶対にありません。これは最後まで読めない人がいるだろう……。脳味噌硬直無想像モードで読みましたよ。猟奇殺人の心理とかちょっとありきたりだよなあ。ゲログロ好きな人じゃないと厳しいぐらい、他に引っ張る要素がない。叙述トリックといっても、最後まで読む気にさせる謎がないとマズイでしょう。途中で描写に矛盾が出てくるので「アレ?」とは思うけど、ちょっとアンフェアなひっかけが多いと思う。あの人のことはともかく、せめて部屋の伏線が欲しかった。
(05/12)
『あらしのよるにシリーズ』全6冊
木村裕一/あべ弘士・絵
講談社
各1000円
ヤギとオオカミの道ならぬ友情物語。ヤギ無防備すぎ。オオカミいい人(?)すぎ。でもなんか心に小さな火が生まれるのです。本人たちは「ひみつのともだち」と言いつつも特別すごいことをしているつもりはなかったようなのに、周りがわいのわいのと口出しするものだから、特別すごいことになってしまって。ひみつでピクニックできてれば二人は普通に幸せだったのに、と切ない。選択肢がないときにも笑える、静かな強さがカッコいいです。最終巻の「もう きにならなく なっていた」のところで、すごく真剣に「きみはまだヤギですか?」と質問を投げかけたい。その質問は、触れてはいけない領域に踏み込みそうな、彼岸を見てしまいそうな質問なんだけれども。絵がまた味があって、なんかだんだんオオカミがハンサムに見えてくる。ばりばりメロドラマ展開します。むしろ大人に。
(05/12)
『暗いところで待ち合わせ』
乙一
幻冬舎文庫
495円
なるほど。読了の感想はこれでした。ライトノベル系に評価が高い理由が分かったような。ミステリとしてはどうってことないようなネタだけれども、登場人物の心理をうまく描写して共感させつつ成長させている。はっとするような文章はなかったけど巧いと思います。惜しむらくは、自分がこの心理変化ではっとさせられたり反省したりするような年齢ではなくなってしまっているところだろう……。
(05/14)
『恐怖症』
井上雅彦編
光文社文庫
838円
イマイチ。とここんところずっと思っていたのは私だけではないようで、次の巻から編集スタッフが変わるらしい。もうそろそろ異形コレクションという形からは卒業してもいいのかもしれない、と思うよ。ホラーもアンソロジーも復権したようだし。
(05/15)
『怪盗ゴダールの冒険』
フレデリック・アーヴィング・アンダースン/駒瀬裕子訳
国書刊行会
2100円
正直言ってどう評価していいものやらさっぱりわからない。1914年とかなり古いので時代性を考慮してやらねばいけないわけで。現代のものと較べると甘いがまあまあキャラは立ってるようなとか、文化描写とかクイーンよりもむしろ現代風で読みやすいかもとか評価が相対的になるのです。なのにこの作品がミステリ文化史の中でどこに位置しているのか理解してないので、とても評価しにくい。唐突な登場とかこっちの知識がないことを恥じねばならないのか不親切だと言わなくちゃいけないのかよくわからないというと伝わるかしら。最後の解説はわかりやすいんだけれども。発行元といい、復刊なのかしら。
(05/16)
『ビッケと赤目のバイキング』
ルーネル・ヨンソン/石渡利康訳
評論社
1200円
見つけたー! 紀伊國屋万歳! って期待値が高すぎだった。悪くはないが、わくわくとは違う方向のおもしろさ。スウェーデンの海賊がイギリスに略奪しにいったり、実在の地名ばかり出てくるのに驚いた。まったく架空だと思ってた。しかしノルウェーの海賊を悪役に描きながら、「別にノルウェー人だから悪い人じゃないんですよ」とフォローが入る。ビッケが知恵をもって囚われのお父さんを救い出したりするんだけども、彼が本当に知恵者であるというのは、その手のフォローを行うところ。「ホントはぼくたちが間違ってたんじゃない?」という理性。なんか児童書として異質な感じ。これは絵も作者のものなのかな〜。結構かわいらしくて好き。
(05/21)
『悪童日記』
アゴタ・クリストフ/堀茂樹訳
ハヤカワepi文庫
620円
日本語訳の問題もあるんだと思うが、本当に地の文は感情を排した文章になっているか? 「うなだれる」とか「冷笑」は主観が入ってないか? それはともかく、前知識がありすぎたので、そう驚かなかったな。「えっ!?」と思う場面はあったけれども、それは本筋と関係ない驚き。冷徹な悪童のようでありながら、彼らの行動には首尾一貫したポリシーみたいなものがある。なんか、私がこの本について今まで読んだ評と感じたことが噛み合わないわ。
(05/22)
『中国の花物語』
飯倉照平
集英社新書
740円
最初、作者は女性だとすっかり思い込んでいました。ところどころ出てくる作者の思い出の表現が何か年配女性っぽくて。花をテーマにしたエッセイという感じ。新書っぽくない。少しだけ知識が増えるような気にもなるが、伝承なのか真実なのか現代のことなのか明記しない表記が不意にはさまれるので困る。花によってどこまで掘り下げるかのばらつきもあるので、資料には向かない。実際に植物を目にしたときなどに、その項を読むのがいいかもしれない。私的には中国名を知るだけでまあ満足かなというところ。
(05/24)
『ふたりの証拠』
アゴタ・クリストフ/堀茂樹訳
ハヤカワepi文庫
660円
1巻でやめるか3巻全部読むかにしろと言われているこの3部作ですが。私は『悪童日記』よりもこの巻の方がおもしろかったです。単独でもオッケーだ、というぐらい。書くこと(本)に対する執着をいろんな登場人物が表現している。その言葉が興味深いです。Webという手段を持ってしまった現代の人間にこそ必要そう。リュカの周りの人間模様もたいへんドラマチックで目が離せないが、個々人の心理ということに重点を置いて読み、その心理には観察者が深く絡んでいるように感じていたので、オチがはぐらかされていても別に内容に問題なかったです。オチの影響は3巻に対する興味を惹起したことぐらいかな?
(05/24)
『第三の嘘』
アゴタ・クリストフ/堀茂樹訳
ハヤカワepi文庫
660円
1,2巻で少し知恵をつけた読者に対し牽制するかのような題名。むしろこの題名がトラップなのではないかと疑ってしまう。話の内容としては、これでつじつまが合ってしまうのだ。しかし題名があるので「好きなように解釈してよい」のではないでしょうか。私の感触はむしろスターシステム。同じ顔同じ名前のキャラクターを使って違う物語を作る手塚世界のような。三作は確実に共感を呼ぶ層を変えて狙って書いていると思います。私は二部のリュカの不安定な幽けき雰囲気が好き。本作のリュカは別人どころか立場が逆転してました。物語としての連続性ではなく、物語としての可能性を考えるために三部全部読んでみるのが吉と思いました。
(05/25)
『400年の遺言』
柄刀一
角川文庫
800円
主人公の心理が嫌いです。いい年なんだから、自分の意志に責任を持ってほしい。自己満足というか自己憐憫というかの理由のために人の人生にそんな形でケチつけるなと、はり倒したくなりました。が。結末まで読み進めると、まあ主人公を祝福してやろうかという気持ちになったのも事実です。庭に隠された仕掛けとか意味はたいへんドラマティック。が、見せ方はイマイチ。最初の方の説明描写は庭園に興味のない門外漢にとってはちと苦痛。素材は面白いだけに、物語上のマイナス点が残念だ。若書きになるのかなあ。
(05/27)
『長くつ下のピッピ』
アストリッド・リンドグレーン/大塚勇三訳
岩波少年文庫
680円
毀誉褒貶てな感じの作品だ。たとえ児童書であろうと、というか児童書だからこそ、真面目にやっている大人を小馬鹿にしているように見える話は好みじゃないのです。先生の話やサーカスの話なんかがイヤ。隣のお母さんなんか「服汚さないでね」と言うだけで評判の悪いピッピのところに忌憚なく娘と息子を遊びに行かせるよい人なのに、お茶会で恥をかかせてなのにピッピも空回りしてるばかりという話とか気持ちよくない。でも、もの発見家になろうと言ってガラクタに魅力を見出したりする話、遠足に行く話なんかは素敵なわけです。泥棒とポルカを踊る話がとても気が利いていて爽快だし楽しい話です。好きか嫌いの両極端な短編の本てのは評価に困るな。
(05/28)
『料理のコツを科学する』
杉田宏一
青春出版社
667円
たいへんわかりやすいです。基本の料理を料理名で並べ、そのポイントを重点的に、コツ→その科学的根拠、と書いているので後々見直すのにもよさそう。まあそのかわりにとても目新しい知識や考え方を仕入れる本ではないのだけれども。
(05/30)
『アクロイド殺し』
アガサ・クリスティ/田村隆一訳
ハヤカワHM文庫
680円
もちろん犯人は知っているんですが、読んだことなかったのです。犯人を知っているので注意深く読むことができたのですが、フェア/アンフェアの論争というのは、描写に関して起こっているのだろうか? 描写に関しては特にアンフェアとは思わなかった。犯行の方だ、問題は。犯人が事前に知り得たことと、犯行のために準備したことのバランスが不自然じゃないか? 用意周到すぎるように思う。でも、それを差し引いても面白かったな……。しかし最も驚いたのは「ポアロってこんなに可愛かったっけ?」だった。
(05/30)
『未熟の獣』
黒崎緑
小学館
1900円
日常でいそうな人の黒い気持ちの描写が続くと、私は最後にそれがひっくり返されることを期待してしまいます。読後感爽やかが好きだから。これは爽やかというよりは……全体を通して、タイトルがテーマなんですね、やっぱり。大人が何だか皆未熟な印象を受けます。他人の考えを的確に推測しない。我が張っていてあっぷあっぷ。読後感よくないです。抑圧される健気な子供たちの方がよっぽど存在感あるかもしれない。ミステリな部分は凝ってはいないと思う。何しろいちばんドラマティックと思ったのは、謎と関係ない部分。短編の方がよいのかもなあ。
(05/31)