2002年4月の読書日記
『指輪物語 旅の仲間・下1』
J.R.R.トールキン/瀬田貞二・田中明子訳
評論社文庫
700円
アラゴルンとアルウェンが恋人同士であるという描写がないんですけど……。「驚いたことにアラゴルンが側に立っていた」というほのめかし描写しか。ボロミアとアラゴルンって主従関係じゃなかったんだ……。今も主従関係が連綿と続いてきたんだと思い込んでいたよ。吹雪がサウロンの魔力の強さを描写するためということがわかったが、やっぱり余分だったような。レゴラスが何ともいえず嫌なぼっちゃんで映画より好きかもしれない。なんか読み方が映画との違い探しになってしまっていますね。詩がおもしろくないので飛ばしてしまう。英語詩を日本語に訳すのは無理があるとはいえ、ホントにつまらん。もう少し言葉を選んでよう。
(04/06)
『奇蹟審問官アーサー』
柄刀一
講談社ノベルス
1200円
出だしこそ「おお名探偵」と思ったけれど、全体的にはあんまりアーサーが主役という感じでもありませんでした。いえ活躍しているんだけれども、奇蹟が主役といった方がいいかもしれない。こんな題名で現代劇。島荘の後継者と帯にあるけどそんな派手ではない。落ち着いた書き方がいいと思うんでむしろ私の印象は逆。外国が舞台でも違和感があまりないところとかは後継者なのかなあ。今回は人物の物語性より神学的話が中心になった感。ところで柄刀一は覆面作家っぽいんだけど、推理作家協会HPに行ってみたら全然覆面じゃなくってちょっとがっかりー。
(04/08)
『指輪物語 旅の仲間・下2』
J.R.R.トールキン/瀬田貞二・田中明子訳
評論社文庫
700円
二人目死ななかったよ! 映画はきっと二つの塔に片足突っ込んでるんですね。ボロミアの演説はおもしろい。違う正義の人というのがよく出てます。私的には助けてあげたい。指輪はなしで。アラゴルンやりたいってことか。アラゴルンがアルウェンを思うさまは映画より断然奥ゆかしくて秘めてる感じがしていいです。ほのめかし万歳。さあ次はやっと知らないストーリーが出てきます。これからが本番ですねー。
(04/12)
『指輪物語 二つの塔・上1』
J.R.R.トールキン/瀬田貞二・田中明子訳
評論社文庫
700円
レゴラスの漢っぷりとメリ&ピピの愛らしさに導かれる巻。アラゴルンは大変です。もしかすると3つに分裂したパーティの中で、最も不幸な組み合わせに混ざってしまったのがアラゴルンかも。ローハンに喧嘩売るギムリとそれに荷担する王子を慌ててフォローしたり気苦労が絶えません。エントさんも加わり、戦力倍増、サルマンピンチ!
(04/14)
『指輪物語 二つの塔・上2』
J.R.R.トールキン/瀬田貞二・田中明子訳
評論社文庫
700円
ガンダルフがあっさりと復活して最強パーティに混ざり「うわバランスわりい」と思っていたら、この配置は必要でした。でなきゃ、セオデンがサルマン手下にたぶらかされているとわかった途端、血気盛んで物を考えない二人によって、さくっと陛下は崩御なさっていたでしょう。口の達者なガンダルフがいてくれてよかったと一番安堵したのはアラゴルンかも。実はガンダルフが最も大人げないがな。エントさんたちは防御力が卑怯なほど人外です。もともと人外ですが。レゴラスとギムリの仲の良さが戦場においてほのぼの一服の清涼剤。ホビッツと合流した後の気の抜けさ加減が絆を表していていいですねー。ガンダルフさんとサルマンの立会がなんだかちょっぴり哀しいです。
(04/14)
『指輪物語 二つの塔・下』
J.R.R.トールキン/瀬田貞二・田中明子訳
評論社文庫
700円
姫と騎士と犬の物語。……違いますか? サムがいきなり男前です。汚れた部分は自分が背負うぞ、みたいな気負いは、彼がとってもいい人だけに過酷な運命を思い出させてくれます。ゴクリを返り討ちにするところのアクションなど必死さがにじみ出ていて応援しちゃいます。彼は強くて当たり前ではないので、強さを見せたときの動機に思いを馳せると一緒に泣きたくなります。いままででいちばんきゅんと来ました。でも一言。この物語の中で最も苦労しているのはオークではないか?と思ったよ。現場・中間管理職な感じ……気の毒……。
(04/15)
『指輪物語 王の帰還・上』
J.R.R.トールキン/瀬田貞二・田中明子訳
評論社文庫
700円
サムは!ということをほっといて進む戦争の方の話。メリーとピピンが凛々しいのと、ファラミアが可哀相すぎるよというのが印象に残る。この親父はよう……!と怒っていたら、怒りの矛先を向け損ねた。本当に愚かではあったけれども、愚かな方向が何ともいえず人間くさくて何か怒りにくい。エオウィンの努力も哀しい。指輪戦闘メンツが癒し系ホビッツと普通の人間に見せ場取られてます。悲劇が息もつかせず起こるので、1部など平和だったなと思うことしきりです。
(04/16)
『指輪物語 王の帰還・下』
J.R.R.トールキン/瀬田貞二・田中明子訳
評論社文庫
700円
最終巻。バカを言うヒマもないほど悲劇的状況。絶望に支配されないサムはまさにホビットの鑑です。滅びの山で火に煽られるフロドの描写が素晴らしく映像的でキレイだと思いました。終わりが近付いて寂しくなる……と思ったら、さらに何かやりきれないラストでした。切ない。「エルフのように見える」というのは比喩じゃなかったんだね……。
(04/16)
『われ笑う、ゆえにわれあり』
土屋賢二
文春文庫
448円
哲学者の書くギャグエッセイです。ホントのことだけを素直に文章にしたら3行で終わるんじゃないかって話を、煙に巻くようにナンセンスに書いてくれます。通勤前に読むと頭の準備運動とストレス解消によいんじゃないでしょうか。冗談のわからない人だと余計ストレスたまりそうだけども。
(04/18)
『われ大いに笑う、ゆえにわれあり』
土屋賢二
文春文庫
448円
ああなんて絵が下手なんだろう(笑)。逆説というものを学ぶのによい対象です。傾向としてはどの本も同じなんだけど、私は学生や助手の人とのやりとりを想定している文章がいちばん好きだ。
(04/18)
『ホビットの冒険・上』
J.R.R.トールキン/瀬田貞二訳
岩波書店
720円
ガンダルフって人間くさいわね。やっぱり素敵な爺様だわ。知恵で解決という感じの場面が多くて楽しいです。ドワーフはいっぱいすぎてトーリン以外の性格の読み分けができません……ゴメン。ああしかし問題はビルボが好きになれんということだ。指輪物語を読んだときも映画を見たときも「うーむ」という感じだったんだけど、やっぱり何だか苦手な人だわ。しかし、入り込めないときには作者の考えや裏の事情とかに思い至ってしまうものであって、キャラクターに対して好き嫌いが言える感想は、とても話も人物もいきいきしているということなのではないかと思うので、それもいいかなと。
(04/22)
『人間は笑う葦である』
土屋賢二
文春文庫
448円
ときおり混ざる真面目(っぽい)文章にはっとさせられつつ、ジョークのお勉強をしているようなそうでないような。スピーチの前に読むといいかもしれませんわ>お偉いさん方。
(04/22)
『ホビットの冒険・下』
J.R.R.トールキン/瀬田貞二訳
岩波書店
700円
最後はいっつも戦争になっちゃうのはちょっと哀しかったり。戦描写は好きだけどもホントは戦争嫌いなので。これを読んでから指輪を読むとモリアの哀しさが全然違うでしょうな。「バーリン! バーリンが!」って、指輪先に読んだのに泣きたくなりましたものー。レゴパパ(をい)は葡萄酒好きの宝石マニアなのですね。なんかバカ殿っぽさを醸し出していて、おいしすぎます……。
(04/23)
『どろぼうの神さま』
コルネーリア・フンケ/細井直子訳
WAVE出版
1800円
児童書。表紙に惹かれ、帯のあらすじが意味不明だったので買いました。半ばから児童書的ファンタジーを持ち込みますが、ものすごく現実寄りです。子供たちが冒険するときの解放感も、自分の無力さを知って無念に思う気持ちも、大人が大人と呼ばれるとき感じる違和感も、一緒に書き込んでどれにも共感できる。子供を本気で心配するけれども子供のいうなりになるわけではない大人、ある意味理想の大人像を描く。ヴェネツィアを舞台に絵的・性格的に対照的なキャラクターも売りになるね。とても巧いです。しかし、このハリポタ的「この作品を発掘して翻訳するまで」みたいな訳者あとがきはどうにかならんものかのう。
(04/30)