2002年2月の読書日記

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『キノの旅』
時雨沢恵一
電撃文庫
530円
うーん、ちょっとわかりやすすぎかなー。いろんな国を旅してその国の欠点を見るという構成になっているのだけれど、欠点がわかりやすければ何を風刺しているかもわかりやすく、キノの反応もわかりやすいというか。オムニバス形式だけど、構成自体もワンパ。まあ、電撃文庫は私の中では分類・児童書なのでそれでもいいかとは思うのだけど、一冊にまとまっちゃうと辛い感じ。続編が結構なペースで出てること、増刷が結構かかってるとこを見ると、後の話はバラエティに富んでくるのだろうか?
(02/03)
『マスカレード』
井上雅彦編
光文社文庫
838円
本格ミステリ風の作品がページをかなり取っている。ホラーではなかったのか? 今回イラストがバラエティがなくてつまんない。『カヴス・カヴス』の実験的形式のおもしろさは認めるけれども、それが作品のおもしろさにはつながっていない気が。同じく2ちゃん形式の方もつまらないとはいわないが誰もが感じていることなので怖さはない。私は、もっと精神の飛躍を感じさせる、短くきりりとした作品を求めています。
(02/04)
『源内万華鏡』
清水義範
講談社文庫
533円
源内の話が読みたかったんだけど、そのへんのサラリーマン向けの本を買って、興業を成功させるためのノウハウ説教やら、妙に貞淑な恋人がいるのにモテモテで濡れ場だらけ、なんて本はヤだったんですよ。清水義範だったらそんな危惧はしなくていいからね。この人の軽い調子は、洒脱な源内の生き様に妙に合っている。たぶん、深刻に悲劇ぶって人生を云々されるのは源内は嫌ったろうな、なんて思うのです。成功を分け合う友人という人がいないので、ちょっとばかし源内が寂しそうにも見えるんだけれども。清水さんは執筆数が多いので上っ面だけかなと思って読めば、そんなことはない。根っこがしっかりとしていて、さらに興味があったらこの作品を読めばいい、とかこの分野について調べればいい、ということがしっかりわかるし。
(02/05)
『傭兵の二千年史』
菊池良生
講談社現代新書
680円
うわ、わかりやすっ。これを読み覚えればヨーロッパ史の概略はばっちりではないですか。愛国的献身による市民兵役は強い→国力増大→貧富の差が広がる→市民が兵役を忌避するようになる→傭兵を雇うようになる→軍が弱くなる→衰退、という図式があるのですね。このように、歴史の流れに起承転結をつけて説明してくれるので、わかりやすいのです。もちろん、傭兵も弱いばかりではなく、無法は無法ながら秩序を形作ろうとしたり、傭兵隊長が下剋上するぐらいにのしあがったり、強い集団が現れたりするわけで。スイスが今不思議な中立国家である理由って、傭兵輸出国だったせいもあるのだろうか?
(02/08)
『両性具有迷宮』
西澤保彦
双葉社
1900円
エロ80%ぐらいのミステリ? でもそこは西澤さん、いかに森奈津子調を模倣しようとも理性的です。エロコメディというのはエロ描写がコメディに密接に結びついていて両方の効果も抜群となると成功と思うのですが、その点、森奈津子さん『西城秀樹のおかげです』は大成功と思うのですよ。で、この作品はエロミステリとなるんでしょうが、まあこれが水と油のような素材同士だから。ちょっと無理がある感じかしら。西澤さんのミステリはわりと隅から隅まで伏線という形式をとることが多いので、エロ描写が伏線にならないとそれは素晴らしい混合とはいいにくい。つまり、エロとミステリを切り離しても成り立ちそうな気がする時点で、成功率50%ぐらいかなと。
(02/09)
『21世紀本格』
島田荘司編
光文社カッパノベルス
1143円
粒ぞろいのアンソロジーという評が多いので読んだ。なるほど。短編のため余計な装飾がない分、きっちり仕上がっていますね。科学ネタも消化率高いし。科学から派生する思考がおもしろかったのは瀬名秀明『メンツェルのチェスプレーヤー』。ロボットの自己とはという命題におもしろい回答を出しています。が、途中はそうやって新しい思考を提示するのに、最後の落とし方が考え得る限りで最悪というのはなぜだろう。ちなみに彼と森、島荘の作品は本格ではないと思う。本格ミステリとしてかなりきっちりしてるのは摩耶雄高『交換殺人』。全然科学じゃないけど、これ、「私」がダニールみたいなロボットと仮定して読んでも違うおもしろさが味わえるかも。ところで最近の本格の流行は、「いろいろ理屈をこねたけど、蓋を開ければ動機が強い人が犯人だった」じゃないかと思いました。どれと言ってしまったらネタバレ。
(02/14)
『人魚とミノタウロス』
氷川透
講談社ノベルス
800円
ロジックという点ではまったくおとなしい、ホントに地味な論理展開をしていると思う。本格マニアが好みそうな。レトリックという点では、そういう装飾をするかとツッコミを入れたくなるような人物たちとメタ風味。ふっつーに造型するとかなりの人情物になりそうな感じなんだけど、一部に神さまの視点が語られていて、それが登場人物をではなく読者を理性の奴隷とするように思います。その混乱ぶりがこの作者の持ち味なのですが、結構人情物も好きな私としてはちょっと残念かも。
(02/17)
『幽霊船が消えるまで』
柄刀一
祥伝社ノンノベル
857円
目次を読んで「長編かーちぇー」と思ったら短編集でした。じゃあ章だてにしなくても。このシリーズはトリック部分に科学知識が現れるのですがそれがムリヤリ含蓄を詰め込んだという感じがしなくて好感です。人間的な描写も最後の二つの短編は特に、類型的でない反応をうまく描いてると思いました。悪人もいるのだけど、なんだか爽やかです。おじさんも見つかってしまったけれど、三人のコンビは解消しなくていいみたい。けっこう続きが楽しみなシリーズ。
(02/18)
『魔術探偵スラクサス』
マーティン・スコット/内田昌之訳
ハヤカワFT文庫
680円
購入のとこに絶対名前間違えて打った、と思ったらそのとおりだった。日本人には呼びにくいですこの名前。えーとファンタジーの形をとったセミハードボイルド小説でしょうか。半熟。私はもともと探偵小説を読む習慣がないのでなんともいいにくい。ヒロインに嫌味がないのはかっこいいけど。いっそのこと探偵も女だったらそれはそれで楽しかったんじゃないかと思うけど、それだとこのストーリーが成り立たない(枝葉末節ではなく、メインプロットが)のでちょっと残念。しかし、あからさまにアヤシイ人たちが疑われず闊歩しているのはどうもなあ。帯は煽りすぎ。
(02/19)
『宇宙考古学』
坂田俊文
丸善ライブラリー
880円
いいたいことはただ一つ。もっとちゃんとした日本語を書け。内容は悪くないと思うんだけど、文法が崩壊した日本語ばかり……3割ぐらい間違っている印象。校正をちゃんと入れて下さい。
(02/22)
『探偵ガリレオ』
東野圭吾
講談社文庫
476円
トリック?のすべてが科学実験的なもの。だから謎が解けるかどうかはその現象を知っているかどうかにかかっているので、好みがわかれそうなところ。私は好きです。専門知識を仕入れるとすぐにそれで犯罪が行えるかどうかを考える人間にとって(別に実際にやろうと思うわけではなく、可能性を考えることが条件反射)、そういう知識を使う犯罪者はありです。まあ偶然起きたという現象の解明も多いですが。この刑事と物理学者のコンビは、東野圭吾にしてはずいぶんと「作ったな」と思うぐらい、キャラ萌えが出そうな二人です。
(02/26)

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