読書日記(2001/12)


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『黄昏人の王国』
      菊地秀行/東京書籍/1500円
吸血鬼中心初期叙情短編集。

叙情といっても、これがコバルトに載っていたのかと思うとそれはそれで驚く。かなり昔の作品なので、文章が丁寧で凝ってる。でもちょっと省略しすぎで懲りすぎといった表現が多く、すべての文で行間を読まないといけないぐらい。私が好きなキクチ表現は、出会った娘を見て
「街の西にある青いホテルの客だろう。他の建物に入っても似合いそうもない」
こんなの。2つの短い文で、娘とホテルを直接描写することなくそのイメージを描ききっている。でも連続するとちょっと読んでる方が息切れしてきちゃうのだ。好きだけど。不思議少女・ちょっと悪い少年・幼なじみの元気いい少女の三つ巴はたぶん好みなのでしょう。私も好みです。 (12/08)


『最後のディナー』
      島田荘司/講談社ノベルス/800円
英会話学校で知り合った老人がとった不思議な行動は……。

ミステリではないですね。横浜観光案内みたいな気もしてくるわ。石岡君は関口君とタイはってミステリ界双璧のダメ人間で、里美ちゃんはきっといらいらしてると思うよ。石岡君が自信持ってくれさえしたら、二七歳差は関係ないのに。御手洗君に捨てられてからというものの、石岡君はめっきり卑屈で。でも話としてはなんかおもしろいです。バラエティに富んでて。御手洗がいるときより面白いかも……。(12/09)


『鏡の中は日曜日』
      殊能将之/講談社ノベルス/820円
法螺貝を意味する館で起きた殺人事件。過去と現在の名探偵が交錯する瞬間。

超アクロバットな前作からどうけりをつけるのかなあと思ったら、オーソドックスな本格に戻った。というか『ハサミ男』に戻った。というとネタバレ? かなり似てる。こことここの場面は同じでこことここは違う、という形合わせパズル的な要素もあるところとか。最初の浄妙寺の記述は作中作でもないのに嘘が書かれているからフェアさに欠ける。でも『黒い仏』より全然好み。人間描写もいい感じなんだけど、前回の裏切りが大きすぎたので、ちょっとほろっとさせといて嘲笑おうってんじゃないだろうな?なんて勘ぐっちゃう、すっかり狼少年扱いです。(12/11)


『写楽殺人事件』
      高橋克彦/講談社文庫/590円
東州斎写楽はいったい何者だったのか?その謎の鍵を握る画集が発見される……。

解説が最悪。ほぼすべてのあらすじをばらしている。写楽の謎を追いかけるくだりは楽しいけれども、途中であれ?と思った。文系の論文ってあの程度の資料でいいのですか? 状況証拠ばかりしかないように思えるんだけど……。理系の発想としてはその画集の素絵を探し出さないといけないように思えてしようがない。でなきゃ画集を炭素測定にかけるとか。そういうことをしてからでないと論文なんか出せないと思ってしまいます。まあそれはさておき写楽の謎解きはなかなか面白いです。説得力はそんなこんなで勇み足っぽさを感じるが、最後の彼の叫びは学界と呼ばれるところに属するものすべてに聞かせたいぐらい、正論でかつカッコいいです。その後に続いちゃうとオチは弱いかな。(12/14)


『オルファクトグラム』
      井上夢人/講談社ノベルス/1600円
殺人者に殴られて驚異的な嗅覚を獲得したぼくは、姉の仇をうつことができるのか?

驚異的な嗅覚を獲得した、というアイデアはおもしろいんだけど、それと事件が完璧に分離している。確かに流れるように読んでしまう。でも捻りがまったくない。例えていうなら、魔法を手に入れた人が空を飛んで遅刻しなかったとか、透明人間になった人が女湯を覗いてるとか、能力故に起きることが常識の範囲内で、それはそれで面白いんだけど、それではドラえもんが面白いのと同じレベルになってしまう。ミステリならやっぱり何か逆転が欲しかったな……と思います。(12/16)


『哲学者かく笑えり』
      土屋賢二/講談社文庫/495円
疑問は哲学への道、お笑いは哲学からの道草。えてして道草の方が楽しい。

哲学を笑える文章で説明した本なのかな?と思ったら、哲学者が書いた、エッセイとも違うような、もしかすると哲学的意味もあるのかもしれないがそんなことは微塵も感じられない、ただ笑うための本。命題や曖昧な表現というものを逆手に取った人を食った文章がすげーおかしいが濃い。へりくつや詭弁に類する表現が山と出てくるので、好みがわかれるかも。あと人のいうことを鵜呑みにする人にも薦めません。付録の往復書簡、ホントにこんな手紙を出し合いしたのだろうか。すごすぎる。巻末近くの写真を見ていたら、ホントにダリ髭はやしてるよこの人。(12/16)


『世界王室最新マップ』
      時事通信社・編/新潮社OH!文庫/638円
この1冊で世界のロイヤル地図がわかる!

時事通信社が編集だけあって、さすがにわかりやすい。こういったものはわかりやすさが命。カンボジアが王制復活したのは隣国タイ王国の反映っぷりを見て、とか、ネパール王室銃殺事件の背後関係とか、こういっちゃなんだけど、わくわくしてくる。どうやら王が科学技術の進歩によっていままで生きてきたものの、高齢になって後継者の問題を考えずにはおられないが、世継ぎはどうも小粒に見える、という問題が各国に持ち上がっているようです。この20世紀には王を戴く国が半減したそうなので、今残ってるのはそれなりに展望も実行力もある王様が多いわけだからなおさらなんだろう。入門書。王様からでも外国に興味がふくらむのだったら、それはよいことなのではないかしら。(12/18)


『クレオパトラの葬送』
      田中芳樹/講談社ノベルス/740円
香港へ向かう豪華客船でバラバラ殺人発生。いわくつきの要人警護に飽き飽きの涼子様は!

涼子さまのアプローチが巻を重ねるごとに露骨になっていく、超めずらしー田中作品。挿し絵の色っぽさにかなり助けられているところがある、と思う。もともと男しか出てこない作品を書いても何の違和感もない人だから、女性の色気描写はイマイチと思うのです。でも涼子さんの場合、そこがかわいさとなっている。計算でやっているなら田中さんを褒め称えます。「ミュール」の連呼はいただけませんが。今回の悪玉はモデルが某国元大統領と新聞を読んでいない私でもわかりますが、田中作品にストーリーの斬新さとかあっと驚く展開を求めてはいけないのであって、その点、元気のいい水戸黄門おまけ漫才と思うと及第点。創竜伝みたく変に風呂敷広げないでこの調子の読み切りでいってほしい。心底。(12/27)


今年は179冊読了。目標を大幅に下回りました。今年読んだ本を総括したいと思います。リスト見ながら書いてるんでだいたい読んだ順です。

人に薦めやすい本でおもしろい本

はい、あれもアレも入ってません。では人に薦めにくいがおもしろかった本

全部混ぜると、1位米原、2位ハリポタ、3位プリンセスブライド。この3つの中で無人島に持っていけというのならプリンセスブライド。微妙に違うんだよねー。

えー、来年の目標は再び200冊。仕事休みが入るけど、HP更新とかいろいろするんでそう変わらないかと。もう一つの目標は「図書館も利用しよう」です。この増加曲線は結構辛いっす……。自業自得だけど。

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