読書日記(2001/11)


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『絶叫城殺人事件』
      有栖川有栖/新潮エンターテイメント倶楽部/1600円
火村とアリスの短編集。

かなり昔のも混ざっている短編集。トリックがどうとか文章的にどうとかを考えなければ、昔の方が最近作より楽しい。最近のは計算とか妙な意識とかが透けて見えてしまうのだ、なんとなく。技巧に走っているというわけじゃないんだけど、慣れと余裕が出てきてミステリを書くぞ!という意気込みとは違うところに意識が向いちゃってるような。(11/01)


『真っ暗な夜明け』
      氷川透/講談社ノベルス/900円
久々にバンド仲間と再会した夜、リーダーが駅構内で殺された。犯人は仲間の中に?

こういう論理がちがちで、かつ登場人物に無理がないと自分が思える話は好きだ。キャラクター的にも愛すべき人物ばかりであるし。最初の方に文体の実験の目的が書かれているんだけど、その効果という物を実感することはなかったなあ。でもそれは私がヌルい読み手だからかもしれない。挑戦のところで読み返すべきかもしれない。(11/01)


『アイ・アム』
      菅浩江/祥伝社文庫/381円
「ミキ」はホスピスで働く機械。でもときどき変な記憶がよみがえる……。私はロボット?

ロボット物ではないような……っていうとネタバレですかね。介護の現場にこんなにすんなりロボット型のものが受け入れられるのかなあって疑問はあるけど、そういう理性的な感想はすっとばすぐらいに純粋な感動を呼びます。泣ける話であるのは事実。でもやっぱり「いいのかなあ」って気にもなる。難しい。(11/02)


『最後から二番目の真実』
      氷川透/講談社ノベルス/980円
女子大のゼミ室から消えた学生が屋上から吊されていた。このトリックは?

好みで言えば、美帆の推理の方が絶対好きだね。このぐらいのメタなら抵抗もないかな。というか、メタなことにすら理屈がついています。そんな小難しいこと考えてるんだ……なんても思ってしまいました。哲学とミステリの接近。最近は固有名詞をちょこちょこっと入れるのが流行り?(11/03)


『日曜日には鼠を殺せ』
      山田正紀/祥伝社文庫/381円
統首の誕生パーティで恐怖城から1時間以内に抜け出せば特赦を手に出来る……。

ありがちといえばありがちなSF、かなあ。中編じゃなく、心理とか周辺状況とか書き込めば、また違った物語になると思うんだけどね、ってそれじゃ『バトルロワイヤル』かな……。一人しか生き残れないという状況で、まあ、予想通りのエンドなんですが、オーソドックスなのが希望というものなのかな。(11/04)


『桐原家の人々・4』
      茅田砂胡/C★NOVELS/900円
桐原家に零がやってきて家族になるまで――。

読み終わったとき、幸せな気分というか、安心する気分になっているのは、その年代に必要なこと、ということでジュブナイル小説としては良じゃなかろうかと。それと、私ってラッキーだったんだなあと思いました。友達に関して。前の3冊より気合いが入っている感じ。番外編なのに。(11/05)


『Zの悲劇』
      エラリー・クイーン/鮎川信夫/創元推理文庫/560円
上院議員が刺し殺された。サム警部の娘が事件に挑む。

えー、これで「Zの」というのはちょっと強引すぎませんか。それと訳が昔すぎる。もうちょっと滑らかにして新訳出せないものかなあ。推理自体はさすがに隙なくまとめているけど、手堅すぎるとも思う。Yにあった新鮮な飛躍がないんだよなー。推理を促進させるモチベーションはちょっと情に走り過ぎな印象。何首突っ込んでるんだ、ホントの仕事をほったらかしにして!って思ってしまいました。X/Yの乾いた感じの方が好みかな。(11/07)


『かっこ悪くていいじゃない』
      森奈津子/祥伝社文庫/381円
この恋は本物だろうか?と不倫に溺れる美里の前に現れる美女。

バカ話を期待して読むんだけど、真面目なんだよなー。朝の通勤電車で読んでしまいましたが、TPOに全然合ってない話でございました。妙に淡々と、一本醒めた視点が作品を貫いている。良くも悪くもそれがこのお方の特徴で、その醒め方がバカ話に合ってると思うんだけどな。今回みたいな一歩間違うとどろどろって恋愛話だと、いったい何が幸せだったのか、その視点のせいでぼやけちゃう感じなのだ。(11/08)


『超・恋・愛』
      大原まり子/光文社文庫/457円
恋を超越してる? 短編集。

恋愛じゃなくてSFが読みたいんだよ、と思いながら買ったが、ほとんどSFチックだった。解説を読んでいたら「大原さんの作品の境界線がぼやける感じが好きで」とあって、これまで大原作品の解説なんかほとんど読んでなかったのにやっぱり同じことを感じるものなのか、と妙なところで感心。それを踏まえた上で、求めるカオスが何だかちょっと違う感じは否めなかった。はっと掴んだ手応えをよく見ると幻影のような。過去作品の幻影を追ってしまうことが最も不幸なことなのかもしれない。(11/09)


『ブードゥー・チャイルド』
      歌野晶午/角川文庫/686円
現世によみがえる、前世でいちばん残酷な日。母を殺したのは前世の殺人者?

ハードカバーで出てたときから目をつけていたんだけど、そのとき抱いた印象と全然違っていた。もっと実験的な小説かと思っていたら、本格だった。この主人公の少年は、すごく自然な感じがする。その辺の「少年の心を描く!」なんてうたいあげてる小説よりずっと、この年の子の戸惑いとかつっぱりたいところとか素直な気持ちとか、ころころ移り変わっちゃう心理が自然に流れている。家族に対する気持ちも、「生みの親より今の育ての親の方を大事にしたいって気持ちがあるよなあ、普通」なんて普段ドラマとか見てて感じる不満を解消してくれる。仕掛けもそう凝ってるわけではないけれど、私は楽しかったです。(11/10)


『怪奇映画ぎゃらりい』
      菊地秀行/小学館文庫/552円
怪奇映画の魅力を一人者菊地氏が語る。

怪奇映画のテーマで何度も新宿ロフトでトークショーを開いている菊地さんのエッセイ?である。それはもうマニアック。手に入らねーよ!っていうような映画がいっぱい……。でも、評論うまいっすね。そうかそういういいところがあるのか、一度話の種にでも見てみたい、と思わせる力がある。実際見るとB級なんだろうけどね。(11/13)


『今昔続百鬼―雲』
      京極夏彦/講談社ノベルス/1150円
多々良センセイと沼上さんが、伝説求めて今日も瀕死寸前貧乏旅行。

冒険小説、とあるが、漫才小説じゃないのか?もしくはコント小説。文章それ全部がツッコミで成り立っていると言っても過言ではないぐらいにまあいい調子。今回の文章上の特徴は比喩を許さない文章、ってところですかね。「遭難しそうになった」と書いた次の瞬間には「いや実際遭難していた」とか書いちゃうような。だからツッコミ文章なのです。それぐらい文章が派手じゃないとね、ってぐらい、筋は地味。妖怪の話をしていたら解決しちゃったよ、という。妖怪シリーズみたいな多重構造にはなりませんな。ところで多田さんってこんな方ですか、と思ってしまいそうな。(11/15)


『Pの密室』
      島田荘司/講談社ノベルス/800円
子供時代の御手洗潔もホンモノだった!?

こいつがありなら体は子供で頭脳は大人が疑問も持たれず闊歩してるのもありだな、と思ってしまいました。5歳ですでにミタライ。島田作品は時代性とかお国柄とかがとりこまれていて、それが話の成立に対して大きく寄与しているところがいいところ。電話がないとか○○○○を誰も知らない、とかをうまく絡めてる。横浜に引っ越してからは、現代の石岡くんの生活に親近感も覚えたり。今度馬車道十番館で茶したいわ。(11/17)


『聖杯伝説』
      篠田真由美/徳間デュアル文庫/476円
ヨギがガイドをする遺跡の星に、物語を求めて立った男はヨギの何を知っているのか。

SFじゃない……。本人があとがきでそう言っているから仕方ないんだが、『聖杯伝説』というタイトルもどうかと思う。SF冬の時代に擬態はお互いに歓迎できないというか。篠田さんはグリッドに沿うように、自分のスタイルを崩さない姿勢で描写も人物造型も行っていくので、ポイントが一つ欠けるとすぐにそこにネタがあるのかと気がついてしまうのが難点ですな。ちょっと散漫な印象。書きたいことに対するスタイルの選択が間違っていると思う、っていうのがSFが仮装に見える理由かな。祥伝社400円文庫だったら満足してたと思う。値段そんなに変わらないんだけど、そこは不思議な心理。(11/19)


『月曜日は水玉模様』
      加納朋子/集英社文庫/495円
OL陶子がいつも電車で席を狙うサラリーマンが、今日はなぜかローテーションと違うネクタイをしている。

日常の謎系は好きなのです。萩さんののほほんとした性格も好きです。よくまとまったいいお話、人間心理もよく突いている。ちょっと最後がご都合だけれども、客観的に見てこれは人に薦められる本だと思う。でも私は苦手……。いい本だと思うが否定の接続詞がついてしまうのは文章がそこはかとなく苦手というこの1点に尽きます。特にクセのある文章じゃないんだけど、特に目新しくもない発想の思考を目新しくない文章をでもまるでさも気が利いているかのように書かれると、「電車は混んでいた」の一言で済ませて気の利いた発想の事件の方にとっとと移ってくれないか、と思ってしまったり。角立ちますか。萩さんが気の毒でしたが、女性心理はあんなもんです、ははは。(11/20)


『伊予小松藩会所日記』
      増川宏一/集英社新書/660円
わずか一万石の小藩で150年も書き続けられた会所日誌から本物の時代劇を読み解く。

四国で小松、という名前に反応するのはごく一部の人だと思いますが、この本は万人におもしろいと思います。内容は至って地味。百姓の駆け落ちの処理とか賭博騒動の処理とかを淡々と書いた業務連絡な日誌。なのにおもしろい。素朴で実直ながら、ときには借金を踏み倒そうとしたりする人間くささ。憎めないです。向上心あふれる人を優遇するあたりも好感が持てる。「怪」で小松政夫が家老を演じていたのだけど、あんな感じだったのではなかろうか、と想像した。解説している著者の人柄もあるでしょう。地道に生きる人たちを愛しちゃう本です。(11/27)


『マリオネット症候群』
      乾くるみ/徳間デュアル文庫/476円
目覚めたら、私の体が誰かに乗っ取られていた! もしかして、あこがれの森川先輩?

判がいいので買ってみた。乗っ取られた側の視点というのが珍しいという評もあったがそんなことは気にもせず、途中までラブミステリっぽく進行するのかな?と思って読み進めてみれば、なるほどこれは。いやきちんと論理が通っているので納得するんだけど。私も笑った。確かにこれはSFテイスト! バカSFというかスラプスティックというか。このとんでもない展開と結末についてこれる人だけが楽しめという潔さが素敵です。(11/29)


『帝都探偵物語・1 人造生命の秘密』
      赤城毅/中公C☆NOVELS/857円
父の研究内容を探ってください、と可憐な女子学生に依頼された探偵木暮十三郎は!

やあ懐かしい。田中芳樹と対談してたけど、作風まで似ている感じ。突拍子もない行動をとるお嬢さまとか、独自の正義感で動くヒーローとか、大人びた子供とか。でもあざといほどの批判はないし、エクスクラメーションは気になるものの文章的にも大きなクセが少ないので、ソフトに読めるかな。十三郎というからには兄弟ネタが控えていそうだな、とか、いかにもキャラクター物なので、1作読んだだけでは何ともいえないなあ。(11/29)


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