読書日記(2001/09)


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『ゲッベルスの贈り物』
      藤岡真/創元推理文庫/640円
ナチスの残した秘密兵器を巡って?起こる連続自殺事件。

「わたし」の正体は第1章で見当がつきましたね。途中でちょっとアンフェアすぎるなあとも思ったが、やっぱりあってた。ミステリとしての攻勢は悪くないと思うんだけど、人間関係などがちょっとばかし描写が足りなくないだろうか? いや、足りてる部分もあるんだが、ちょっとバランスが悪い印象。あ、女の子の書き方がすごく通り一遍なんだわ。おやじとかはうまいのにねえ。この秘密兵器は、ある意味、皆が感じている真実を言い当てている。最近は特にね。(09/01)


『<魔界都市ブルース>孤影の章』
      菊地秀行/祥伝社ノンノベル/781円
急増殖する癌細胞が<新宿>を蝕む!?

久々に、「私」の登場の仕方が格好良かった。悪魔のように美しかろうと思うよ。ドクターの登場の仕方もむやみに美しかったね。出番が屍より少なかったのはご愛敬としても。最後の書き下ろし、せつらの高校時代の同級生がまた出てきた。しかも、せつらってば、何? 高校時代むちゃくちゃ愛想良かったの? まさか、同級生相手にそんなことをしていたなんて。(09/03)


『人形は笑わない』
      はやみねかおる/講談社青い鳥文庫/620円
歩き回る人形の噂がある毬音村で映画を撮ることにした文芸部、と夢水探偵ご一行は!

ページが足りなかったんではないだろうか。なんとなく、謎と出来事がうまく絡み合ってない感じがします。こんな楽しそうな馬鹿、私はやらなかったなあ。でも馬鹿だったけど。学校の先生を辞められたそうで、これで執筆ペースが増えるのかな? でも、大人はいいけど、子供には今以上のペースだとお小遣いではツラいよね。(09/04)


『ST 毒物殺人』
      今野敏/講談社ノベルス/780円
都内でふぐ毒連続変死事件が発生。存続の危機のSTに出番はあるか!?

戦隊モノ続編。色つきの名前といいキャラクターの立て方といい。してみるとキャップの「百合根」という名前ではオニユリやらヤマユリやらを連想してはいけなくて、もちろん白百合を連想すべきなんだろう。そういうお人柄だし。だからか、こんな緊迫したあらすじなのに、話は全然緊迫していない気がするのは私だけでしょうか。そういえば、この作品、第一作から、解決してもイマイチ動機がはっきりしない。現代の曖昧性なのかしら? 八神秋子アナウンサーのモデルは、もちろんあの人か。(09/05)


『ST 黒いモスクワ』
      今野敏/講談社ノベルス/740円
ロシア出張した百合根と赤城は爆発事件の捜査に首をつっこむ。

ロシアって遠い国だと思っていたけど、ST全員集合したね。今回の主役は黒崎さんらしい。私は桜庭さんのファンです。ガキ大将みたいでいいです。司令! ロシア側の描写がちょっといいです。またもや動機がぼやかされている。もしかして、ホントに戦隊モノみたいに、実は彼らは○○の手先だったのだ、数々の事件の裏には○○がいたのだ!……的展開をしたりして。やっぱりちょっと文章は苦手。「いっぺん書いたじゃん」ってことが繰り返し出てきたりするところが。(09/06)


『耳科学―難聴に挑む』
      鈴木淳一・小林武夫/中公新書/760円
難聴を巡る問題。

たしかに難聴は軽視されているかもしれない。生まれつきの難聴は深刻という話は確かにそうだろうな。言葉の習得は人間性の習得であるからに。もっと解明されてもっと治療法が見つかるとよいと思う。(09/07)


『試験に出るパズル』
      高田崇史/講談社ノベルス/880円
浪人生“八丁堀”の従弟は才色兼備の天才高校生で大のパズル好き!

パズルが好きだ。パズラーと呼ばれる作家のミステリも好きだ。ミステリの中のお遊びのパズルも真剣に考えてしまった。事件よりもパズルを問うことに血道をあげてしまう、この間違った読み方。キャラクターは学生の楽しさが出ていていいなあと思います。この浪人生の「ぼく」の名前がいちばん気になる謎。(09/10)


『よろずお直し業』
      草上仁/徳間デュアル文庫/505円
こわれたものの見えない命のねじを回して直すサバロ。

オーソドックスなSF短編とも言えるが、とてもやさしい。一話ごとのゲストが、人間的である。最後の話の救いは、たぶん、誰にでも、必要な手であると思う。久々にいいSFを読んだ気持ち。(09/11)


『バッテリーIV』
      あさのあつこ/教育画劇/1500円
はじめての試合で打たれてしまった巧と豪のバッテリーは。

相変わらず、あからさまにやらしい文章を書く人である。今回初登場のひねキャラ瑞垣くんがなかなかおもしろいので要チェック。豪ちゃんが悩んでいる。巧より台詞が少ないぐらいだ。キャッチャーならもう少しどっしり構えてくれればいいのに。まっすぐしか見えてないこの余裕のなさが初めてで夢中なんだとわかるが、ちょっと大人としては可哀相というか羨ましいというか。不器用なバッテリーだ。巧がたった一言、豪ちゃんに言えばいいだけなのに。でも、そのキーになる一言がなんなのかは、私にもしかということはできません。もろ続き物で、1冊ではさっぱりわからない話になってしまった感じだが、児童書でそれっていいのかね?(09/13)


『ロボットだって恋をする』
      築地達郎+京都経済新聞社取材班/中公新書ラクレ/660円
現代のロボットブームはどこへいくのか。

しまった、経済新聞取材班が著者に並んでいる。ビジネスの話が主体だった。タイトルに偽りあり。「恋をする」かもしんないことがどうビジネスに繋がるか、社会変化に繋がるか、という話で、しかも「恋をするかも」というあたりはどうでもいい扱い。ロボットをインターフェイスと看破しているのはいいと思うけど。インタビューのまとめ方とかもイマイチつまらない。センス・オブ・ワンダーじゃない。ところで、最近のロボット話はアシモフの否定から始まるんですかね?(09/14)


『人魚の血』
      井上雅彦編/光文社カッパノベルス/1000円
人魚をテーマにしたホラーアンソロジー。

戸川昌子と中野美代子が小説を書いていることにびっくりだ。しかも戸川昌子、強烈な話である。『赤いろうそくと人魚』を超える作品がないのが不作かな。既発表作が混ざるとどうしても較べてしまうのが不幸だね。でも、あらためてタイトルを見てもイマイチ話が思い出せないのはやはりインパクトに弱いってことじゃないかな〜。(09/18)


『玩具館』
      井上雅彦編/光文社文庫/838円
玩具をテーマにしたオリジナルホラーアンソロジー。

ひさびさにおもしろかった<異形コレクション>。遊び主の恐怖の本性、みたいなテーマが多いが、形式が妙だったり、話も捻ってあったり、皆、遊ぶことには貪欲なんだわ。浅暮三文の謎掛けが強烈に気になる。グロいのも不意に混ざっているので、読者を選びますね。(09/21)


『夏の夜会』
      西澤保彦/光文社カッパノベルス/800円
久々に同級生が集まった場で、小学校の頃担任が殺されたという記憶が呼び起こされる。

また飲んでる。飲まないと話が進まない西澤(笑)。どう始末をつけるのだろうと思いながら読んだ。謎よりも、心の始末。結局、この謎を解くことは誰の、なんのためになったんだろう? たぶん、これからどう変わるかの方が大変なんじゃないかしら。記憶の隙間から取り出したこの解決が正しいとはそれこそ限らないのだし。(09/22)


『作家小説』
      有栖川有栖/幻冬舎/1500円
作家という職業のミステリーを解く!

作家をテーマとした短編集。ミステリというかミステリでないというか。最初のタイトル『書く機械』を見て「東野圭吾とダブっている。仲良しなのか?」と首を捻ったが、読んだら全然違っていた。有栖川さんってギャグをやるようにはできていないなあ。ディティールは興味深い小ネタが挟まっているのだが、オチが弱すぎというか。いや、ギャグやるつもりじゃないのかもしれないけど、叙情でもないし、ちょっと中途半端な感じ。(09/25)


『三人のゴーストハンター』
      我孫子武丸・牧野修・田中啓文/集英社/1900円
特殊な能力で、奇怪な現象に立ち向かう3人の警備員たち!

変な取り合わせの3人の連作共著。順番に書いていってるのだが、それぞれ主人公が違う短編なのであまり違和感はない。朝の通勤電車で読む本ではないなあ、と思いましたよ。田中啓文は異形で読むのに輪をかけてグチャグチャ描写だし、牧野修は精神的にグチャグチャ描写だし。我孫子さんは(トンデモ)論理的。我孫子さんの仕掛けはわかった。描写が不自然だもん。でも、マルチエンディングっつってそれぞれが最後のまとめを書いてるんだけど、いちばん健康的にまとめたのは実は田中さんじゃないかと思った。設定に忠実というかこの手の話のセオリーなハッピーエンドっていうか。判定テストでは私は我孫子さん向きと出ましたよ、やはり。(09/25)


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