読書日記(2001/07)


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『ルー=ガルー 忌避すべき狼』
      京極夏彦/徳間書店/1800円
清潔な管理された都市に起こる連続殺人事件。狼がどこかにいる?

京極の力を見た。言葉の説得力。殺人犯に対する理屈に関して同じ疑問と同じ嫌悪感を抱いている人がいて、それを言葉で表現してくれることにリアルを感じる。同じ理屈が通っているだけで、本が現実の力を備える。京極に関しては、魂が似ているとか性格が似ているとかは全然思わない。理屈が同じ論理体系に属していると思うだけだ。理屈が同じかどうかは重要じゃない。論理が力を持つところが、相似なのだ。近未来といっても、現代をとても意識している舞台。獣の生き方を見直しておきながら、獣の全肯定じゃないところ(狼は「忌避すべきもの」という言い方、そして狼が行ったこと)が、京極らしくて、私のようなものにも受け入れやすい。(07/05)


『ヤマダ一家の辛抱<上・下>』
      群ようこ/幻冬舎文庫/各571円
ヤマダ一家は平凡な四人家族。ある日、冴えない父親カズオは一念発起でおしゃれに?

日常風景。きわめて平和である。波瀾万丈ともいえまい。会社はむちゃくちゃになったり、成績が落第寸前だったり、いろいろと細かい出来事は起こるけど、不幸というほど深刻ではないし、崩壊しているというほど家族バラバラではない。何かが変わった気もするけれど、何も変わってない気もする。自分の生活を見直したい方、いかがですか。(07/06,7)


『古代東北と王権』
      中路正恒/講談社現代新書/720円
阿弖流為よりももっと昔、400年代ぐらいからの古代王権と東北の関わりが中心。阿弖流為は王権との関係としては、最後なのだ。それと川に入って山にヤマトの誓いをした蝦夷の話が印象深かった。それ以外はよく覚えていない。おもしろくなかったったわけではないけど、時代や場所が飛んでわかりにくかった印象。(07/10)

『妖都』
      津原泰水/講談社文庫/733円
死者が増殖し、歌「妖都」がヒットチャートをのぼる東京で、いったい何が起きているのか。

死者が蘇ることの恐怖は、まったく別人になるという点だよな。外見が腐るとか内面が腐るとか。いや、某大作RPGをやりながら「別に死者でもいいじゃん」と思ってしまったので。この本は、死者として蘇るのはイヤだと思わせてくれます、ちゃんと。雛子が変質し始めてからは、恐怖が他人の物という感じもしたが。結末の据わりの悪さはホラーならではか。(07/12)


『ムーミン谷へようこそ』
      冨原眞弓/KKベストセラーズ/1080円
ムーミン童話の魅力を語る。

文中引用されている童話の文が、スウェーデン語からの著者訳で、非常に読みやすい。ムーミン童話の訳が多少ぎこちなくて誤訳も多いのは時代性からいって仕方がないといえるけど、ここまできたらやはり完訳を出してほしい、と思うぐらい、読みやすい訳だ。ムーミン谷の住人の魅力を余すところなく伝えている。ただし、本編を読んでいない読者にはわかりにくいかもしれない。(07/16)


『火蛾』
      古泉迦十/講談社ノベルス/880円
イスラムの祈りを捧げる修行者たちを襲った殺人者は。

ペダンティックでこれがイスラム12世紀の現状であるならそれは素晴らしい知識とそのミステリへの反映と思うが、どうものめりこめなかった。面白くなくはないのだが。ミステリ的側面より、哲学的概念の方が主体だろうか?(07/19)


『ロボット21世紀』
      瀬名秀明/文春新書/860円
私たちは、どうしてヒューマノイドロボットに憧れてやまないのか。その現在の技術と未来。

昨今のロボット新書では骨があって、読みやすい。作者こっちの方が向いてるんじゃないか、ってぐらいだ。日本人のロボット好きは有名で、その理由も探っているが、答えは容易に出さない。アトムの影響ともいうがそれは説明しやすい理由に過ぎないのではないかと、看破する。二足歩行ロボットにこだわる理由や、その用途など、入門的ではあるが、親切な、そして、科学に対して展望をちゃんと持っている、そういう新書である。(07/23)


『ダレン・シャン―奇怪なサーカス―』
      ダレン・シャン/橋本恵/小学館/1600円
ダレン・シャンが親友と足を踏み入れたサーカスには本当の怪物たちがいて……?

「ボクと魔王?」と思いました。真っ先に。それぐらい、なんか狙ってる感じがするのだ。さみしい魔王、親友との確執、などなど。ハリポタを読んだ今だから言える。これはそれほどの物ではない。どんでん返しがあるわけでなし、ストーリーが起伏に溢れるわけでもなし。フリークショーだけは、避けないで描いてておもしろかったですね。(07/27)


『毒物の魔力』
      常石敬一/講談社+α新書/800円
身の回りには毒物が溢れている!

微量で毒物が効くのはなぜか、というパラグラフに惹かれて購入。微量で効くメカニズムはわかったけれど、そんなに早くちょっとで作用してしまうんだ、という驚きは解消されない。たいへんわかりやすい話の展開で、時事的話も取り入れて飽きさせない。科学者らしい冷静な目は、人によっては冷たいと見るかもしれないが、私は肌に合いました。(07/28)


『ペンギンの世界』
      上田一生/岩波新書/700円
ペンギンの人に知られていない生態と人間との関わり。

ペンギンの写真は文句なくかわいらしいです。南極にいるもんだ、という思い込みを正しつつ、そのハードボイルドな生態を明らかにしていきます。数百メートルも潜水できちゃうって知ってましたか。人間が油と毛皮を求めたためのペンギンの苦難の歴史も簡単ながら解説。そのうえで、近年の研究の発展を喜びつつ展望。よい新書だ。あなたもペンギン博士に。(07/30)


『ハリー・ポッターと賢者の石』
      J.K.ローリング/松岡佑子/1900円
魔王に両親を殺されたハリーの元に、魔法学校入学の手紙が届く!

普段私はベストセラーを読まないのだが、これは読んでよかった……! 文句なしにわくわくする。手紙が大量に届き出すあたりから魔法にかかっている。どんでん返しがあってミステリ慣れした読者にも喜びを与えてくれるし、ファンタジー的小道具の使い方、台詞回し、何をとっても素敵だ。装幀や挿し絵を日本人向けにデザインし直したのも正解だ。この人からプレゼントをもらってみたい、と思うぐらい、作中の人物たちのプレゼントの選び方は素晴らしい。そのときいちばんほしいんだけど、思ってもみなかったものを、くれる。これもそんな本。密度の濃い一冊です。(07/31)


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