読書日記(2001/06)


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『六番目の小夜子』
      恩田陸/新潮文庫/514円
サヨコと呼ばれる生徒が現れて、学校をゲームに巻き込んでいく。

最後まで読んで「えっ」と思いました。本格/ホラーの手法で読んでいたので、こんなに落ち着かない結末でいいのだろうか、と。些細なことが重大に思える、すべてにおいて年を取ったら「若かったね」で終わるようなバカをやってた頃の、青春という季節の小説と思って読んでおけば、ここまでびっくりすることはなかっただろうけれど。学園祭の趣向は面白かったが、全体的にムリが強い印象。(06/05)


『七人のおば』
      パット・マガー/創元推理文庫/620円
結婚し渡英したサリーの元におばが夫を殺して自殺したとの手紙が届く。でもおばは七人もいる!

うまい。この人は「被害者を探せ!」でも思ったが、時代を感じさせない巧さがある。おまけに人殺しが出て誰もがその可能性がありそうに思えるってぐらい人間関係紛糾しているのに、不思議と読後感爽やかである。残り六人は殺してないんだから、問題ないじゃないか、ぐらいに思えてくるのだ。このぐらい人間観察力があったら、イヤな人間よりも面白い人間の方が多いだろうな。(07/08)


『過敏症』
      榎田尤利/クリスタル文庫/495円
心の痛手から回復しつつある魚住に近付いた男と、久留米に近付いた後輩は……。

ラブですな、ラブ。これまでなかったほど、文庫の意図に沿っている話だと思われます。それもわりとありそうな感じでまとまってていいかも。いきなり惚れたりとか葛藤がこじれすぎたりとかせずに。フツーの恋愛っぽい。ストーカー男に対する反論の台詞がもっともすぎるほどもっともだ。(06/12)


『三人目の幽霊』
      大倉崇裕/創元クライム・クラブ/1800円
落語界の騒動も、「季刊落語」の編集長の手にかかれば、あとはサゲを待つだけ。

落語の世界の事件を扱っているのだが、発端や展開が落語がうまくいかないところから始まるので、高座がまともに興行されることはそんなに少ないのだろうかと誤解してしまうこともしばし。誤解だろうな。人物像にてらいはないのだけれど魅力がたっぷりある。落語を知らなくても読めるし、作者の知識は落語に偏らないこともわかる、連作短編集。でもやはり一度落語を見てみたいなあと思いましたとも。(06/12)


『壷中の天』
      椹野道流/講談社ノベルス/800円
ゲーセンで死んだ若い女性の死体が消えた!?

相変わらず本格ミステリではない作品。それでも前作までは根幹はトリックだったように思ったが、今回は、全編を超常が支配している。なんだろう、ホラーというには、描写に圧倒的迫力というものを意識している節が見られないんだよな。もっと誇張して描けば、ショックのほども大きく伝わるだろうに、「なかったことにしたい」のではないか?というぐらいに抑えてある。告白、というのが正しいかもしれない。(06/15)


『下りはつかり』
      鮎川哲也/創元推理文庫/940円
作者の罠にひっかからないように、繭に唾して読め。

うーん、何分にも古さが読みにくさにつながっています。古くても読みにくくない人はいっぱいいるのだが。トリック的にはおもしろく、今でも目新しさ十分なものが多いだけに、とても残念だ。(06/17)


『船上にて』
      若竹七海/講談社文庫/571円
ナポレオン三歳の頭蓋骨がなくなった。どこに隠されたのか過去の事件に記憶は巡る。

短編集。奇をてらっている感じの話が多い。若竹さんは爽やかな筆致で根性の悪い人間を根性悪く書く。おかげで読後感はあまり爽やかでないのだが、表題作の騙されやすい青年と世話好きの伯父が一種清涼剤になっている。(06/21)


『九つの殺人メルヘン』
      鯨統一郎/光文社カッパノベルス/838円
日本酒バーに常連が集まるとき、今日も難事件のアリバイが崩され、メルヘンは新たな解釈を与えられる。

連作短編集。デビュー作と同じバーでの語りが解決の糸口となる方式。登場人物はずっと落ち着いた感じになっている。メルヘンの解釈は新奇すぎて受け入れにくい点もあるが比喩としての存在なら的確である。固有名詞、しかも現代ミステリの作家や作品が出てくるあたりがくすぐられます。思わず9種のアリバイがどの作品にあてはまるのか考えてしまいました。そういうところのツボを心得た作品なので、本格系は損したとは思わないでしょう。桜川さんの正体はわからずじまいだけど、ホントにタダの女子大生なんでしょうか。(06/24)


『夢魔<異形コレクション・19>』
      井上雅彦監修/光文社文庫/838円
異形コレクション第19集。

夢オチでもいいとタイトルで保証されているだけあって、つじつまあわせに躍起になっていない恐怖描写が続く話が結構あります。ホラーのエッセンスを楽しみたい人には恰好かもしれない。私はオチの余韻で恐怖を楽しむタイプなので、ちょっと物足りないかも。明晰夢という、「夢の中でこれは夢だと認識する」夢の概念をテーマにしている人が複数いたのに驚きました。なにしろ私知らなかった単語なもので。おかげで夢の研究は日々進んでいるのだなあと実感できた、不思議なホラー短編集。(06/28)


『繭の夏』
      佐々木俊介/創元推理文庫/620円
引っ越したアパートの押入の天井から見つかった古い人形。その人形と従姉の自殺のつながりは?

物を考えない、というか正直、というか。自殺した従姉のことを探ることにあまり罪悪感がないのが不思議だ。事件が古いので姉弟が関係者を訊ねて回るのが主プロットになっているため、動きは少ない。仕掛けはおもしろい。よくあるといえばよくあるのだが、この手のトリックにはいつもひっかかってしまう。結末があまり爽やかではないのが、好みではないけれど。(06/29)


『魔の聖域』
      栗本薫/ハヤカワ文庫JA/540円
ナリス軍に国王軍が迫る頃、リンダが聖王宮で見たものは。

冗長さが増している。展開が展開なだけに、早くすすめてほしいんだけどなあ、といったところ。皆が悪あがきをしている。でも未だにレムスが本当に乗っ取られたとは信じられないなあ。なんて思ってたりする私はナリス陣営が好きではないのかも。(06/29)


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