読書日記(2001/03)


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『幽霊船<異形コレクション・18>』
      井上雅彦監修/光文社文庫/762円
ホラーアンソロジー。

奇抜だったり美しかったりするホラーがなくなってきたような。テーマがどんどん狭くなっているからだろうか。ある程度の水準は満たしているから要求が肥大してきたのか。今回のお気に入りは菊地さんかな。既存の価値観を一蹴する切なさ。(03/05)


『不実な美女か貞淑な醜女か』
      米原万里/新潮文庫/514円
失敗談などをまじえつつ通訳という仕事の本質を徹底的に分析する。

翻訳・通訳を例えて美女・醜女、不実・貞淑というのは慣用句?なんですって。原語に忠実か訳語が美しいかということで。でもどのへんがいちばんいいということはないんだ、ということを教える。通訳になる人はどのようなことに気をつけるべきかも明解だ。それでいて、本当に、爆笑モノにおもしろいのだ。解説を読むと、一人称だった人が三人称に変化し、葛藤や努力に裏打ちされたかっこよさを知ることができる。見返しの年齢を見てびっくりしたほど、若々しい思考。この人はとても好きだ。(03/09)


『魔女の1ダース』
      米原万里/新潮文庫/476円
外国との対話は常識に冷や水を浴びせてくれる!

この本がいちばん世間に対して攻撃的な文章を含んでいるかな。でも不快ではない。手厳しいが当然のことを言っているまで、という印象だ。それに大部分は笑い話で進んでいくのだから、ご安心。たとえ他の本と重複するネタがあっても、おかしく読めるぐらいだ。電車で読んでて吹き出してしまって困りました。(03/09)


『幻想の地誌学』
      谷川渥/ちくま文庫/1100円
文学史において想像が生み出した世界を地誌学的に辿る。

全然意味のとれない文章だった(笑)。昔よく読んでた「テクスト」なんていう単語類が頻出する文章だ。カッコはつけてるけど意図するところを伝えようという努力が感じられないというか。古今東西(圧倒的に古/西が多いが)の幻想文学を舞台を主体に分類してその舞台をちょっとずつ解析して共通点を探してみた、というところだろうか。あとがきまで読んでいたら「親本の出版社が倒産」とあるので確かめたらトレヴィルだった。さもありなん。(03/13)


『メルサスの少年』
      菅浩江/徳間デュアル文庫/648円
歓楽の街メルルキサスでたった一人の子供、イェノムは、未来視の少女カレンシアと出会い、街の運命を知る。

手元に本が見あたらないので記憶で書く。しっとりと落ち着いてはいるけれど、最後までイェノムにもカレンシアにも感情移入できないで終わってしまった。自分が少年少女ではなくなってしまったからだろうか。子供っぽい子供、というのはその存在そのものがファンタジーであり、しっかりとした土台を持つ舞台に危うさを加えているような気がする。(03/15)


『KI・DO・U』
      杉本蓮/徳間デュアル文庫/762円
深優姫が父親から授けられた人間型コンピュータ・モバイルは凶暴。過去の真実が暴かれ出す。

ロボットモノだと思って買ったんだけど、私の基準からすればこれはロボットモノの概念を外れる。ロボットの感情・思考を規定する物語上のルールが曖昧だからだ。このスペックで感情がないと思える舞台の方が無理があるような。深優姫がまるで思春期の少女のように気持ちがくるくる変わってて、こいつこそ作者のドールではないかという印象を受ける。全体的に荒削りすぎる印象。ちゃらけたようなチャット解説がついているけど、どうしてどうして、的を射ている。(03/20)


『フェミニズムの帝国』
      村田基/ハヤカワ文庫JA/620円
徹底した女性優位社会の未来。疑問を感じた青年いさぎはメンズ・リブ運動に身を投じるが!?

男女の役割が逆転している、ここまでは子供でも夢想できる未来である。ここからどのように物語を発展させてSF的思考を見せてくれるかに注目、と思いながら読んでいた。逆転の発想で始まるSFはどんでん返しか抜けオチみたいなラストが多いので、そういうふうに予想して読んでいたら、まあ。ものすごく真剣な話に発展していって突き放されてしまった。あなたに思考実験を要求することを徹底的に追及した話である。(03/26)


『大魔術師、故郷に帰る!』
      ロバート・アスプリン/ハヤカワ文庫FT/620円
ポッシルトゥムに帰ってきたスキーヴに降りかかる災難は、今度は女性問題!?

モテモテだ。女の子がいっぱいでてきてスキーヴを取り合っている。オゥズが混ざっているように見えるのは気のせいか。オゥズの影、すっかり薄くなっちゃったよね……。スキーヴの悩みを解決したのも将軍だったし。なんかこのモヤモヤ状態、優柔不断の典型的な状態で、ちょっとスキーヴ情けなし。ああ、本国でもまだ続きが出てないというのに、ここでひくか!?というまるで少年週刊誌みたいな終わり方。(03/28)


『ミステリなふたり』
      太田忠司/幻冬舎/1600円
あなたの旦那さん、料理できますか?事件、解けますか? 女刑事京堂景子と新太郎はミステリな夫婦!

実は京堂という名前につられて買ったのだけど、ものすごく楽しかった。景子と新太郎くんのカップルがわれなべにとじぶたって感じでむちゃくちゃ可愛いくて、幸せに引きずられる。文章のテンポも短編形式に無理なく合ってるし、ミステリ自体もシンプルながら巧く話に馴染んでいる。今まで読んだ太田忠司の中でずば抜けてベスト。(03/30)


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