読書日記(2001/02)


←1月3月→↑インデックスホーム

『UNKNOWN』
      古処誠二/講談社ノベルス/740円
自衛隊基地の電話に盗聴器が仕掛けられていた。この密室に誰が侵入したのか?

舞台がおもしろい。真実かどうかは確かめるすべがないけど、現代的な軍隊の雰囲気が出てる。近視眼的な思考の陥りやすい罠とか、自分なりに見直したいところも指摘しながらちゃんとミステリだね。穏やかながら確実な印象。(02/01)


『夏の塩』
      榎田尤利/クリスタル文庫/476円
学生時代の友人であり不幸を背負ってる魚住が居候してから、久留米は落ち着かない。

実は一読したら捨てようと思って買った種類の本なんですけどねえ(笑)。2冊目が好きだったので保留。この種類の文庫にしてはおとなしめの展開だけど、落ち着きが生活感に通じてていいかも。不幸を背負っているとかいう設定のわりにはドタバタしてないし必要以上に暗くないし。印象を言えといわれれば、もの食べてる話のような気がする。(02/01)


『プラスチックとふたつのキス』
      榎田尤利/クリスタル文庫/476円
居候を解消しても、魚住は久留米のところに面倒を持ち込む。

これの2話と3話が好き。OLさんが自己改革する話――って書くとかたいなあ。ちょっとだけ変化を起こしたOLるみ子のその変化に対する久留米の対応がよろしかったので。なんつーか、あなたが失望するほど世の中腐ってるわけじゃないよ、っていう感じで。たった一言で勇気が持てることもある。3話目もその系統かな。やさしさに包まれている感じ。(02/01)


『少年たちの密室』
      古処誠二/講談社ノベルス/820円
東海地震で倒壊したマンション地下に閉じこめられた高校生と担任。そんな中殺人が起こる。

最後の名古屋の話はよかったなあ。話自体が真っ暗でやりきれなさと無力感が充満しているのですよ。そんな中に一抹の希望をもたらすエピソード。どんでん返しやそのための伏線張りもしっかりしてる。そのために無力感はいっそう強くなるというテーマにも沿っている。キャラクターで引っ張るんじゃなく、ここまで読ませるのは、力ある感じがする。(02/02)


『イカロスの誕生日』
      小川一水/朝日ソノラマ文庫/571円
翼のある人がいる。彼らイカロスたちを排斥する運動が始まった。

ジュブナイル〜。人と人との関係が怒鳴り合いから始まるのが象徴しているように騒がしい感じが懐かしい。設定と人の態度が何となくぎくしゃくしているんだけど、飛行技術については妙に詳しいので飛行することにリアリティが出る不思議な効果。このイカロスが象徴するものはわかりやすいが、実は私、このイカロス側の「願えば変化が形になる」みたいな考え方もちょっと危ないと思うのですよ。でもその危うさと引き替えの救いが必要な年齢がある。そういう本。(02/03)


『龍は眠る』
      宮部みゆき/新潮文庫/743円
嵐の晩、雑誌記者高坂が知り合った少年は超能力で過去が見えるという。

初めて宮部みゆきを心から早く次のページを読みたいと思いながら読んだ。いままでは、うーん、まあうまいとは思うけどイマイチ入れないなあ、という感じだったのだけれど。少年の一人称よりもこっちの方がいい。さらにいうなら、読んだことないけど、女性の一人称の方がしっくりくるんでないのかなあ。恋をするほど特徴があるストーリーでもキャラでもないのに、魅力がわからんというには何かどこかに違和感がある。その違和感の正体が知りたくて宮部みゆきを読んでいる。超能力者というモチーフは、その違和感に似合っているのかも。(02/05)


『人はなぜエセ科学に騙されるのか<上・下>』
      カール・セーガン/新潮文庫/各667円
宇宙人を見たと言う人たちは何を信じていて、科学に足りないものはなんだろうか。

エセ科学の方法を批判しながら、このエッセイは同じ方法になってしまっている。仮にも科学を標榜するのなら、エッセイでも単行本化するときに資料源ぐらい明らかにしないと同じ穴に落ちるのではないだろうか。どんな論理で説いても、どちらが正しいと判断するかではなく、どちらを信じるかという問題になってしまう。理科離れはアメリカでも深刻視されているのか、日本ではゆとりがない詰め込み教育が問題だと改革に右往左往しているのに、セーガンは学力低下を憂いて日本を好例の方にあげている。どこにでも問題は転がっている。(02/06、02/09)


『雑学新聞』
      読売新聞大阪編集局/PHP文庫/600円
人々の素朴な疑問を解決。

気軽に楽しめる本。ホントに身の回りの他愛ない疑問、調べればいいのはわかっているが、誰が答えてくれるかわからない疑問を代わって解決。こちらはソースが載っているので、それでも疑問に思ったら調べ直せばいいわけだ。ソース自体にも「年齢に関する法律」があったりして、知らないことを発見する。(02/10)


『殺意は砂糖の右側に』
      柄刀一/祥伝社NONNOVEL/819円
小笠原から出てきた学究一筋の龍之介が、奇妙な事件に遭遇する。

科学的小ネタをトリックに使った本格短編集。最初の話を読んでるときは「このトリックはどうよ?」と思ったけど、その後は新鮮で、理科系の人間にとってはおもしろかった。単語だけで拒否反応を起こす人でなければ、説明も明解だし、でも説明に流されることもなく、なかなかよろしいのではないでしょうか。人間的にも魅力があって、続きが楽しみ。(02/10)


『黒祠の島』
      小野不由美/祥伝社NONNOVEL/886円
夜叉島に行方不明になった志保を捜しに来た式部は、殺人のあったことを知り、この島の秘密に肉迫してゆく。

相変わらずよく売れている。因習に満ちた孤島の、それでも現代的になっているさまがよくわかるし。人と人の会話中心の、おとなしめの進行をするけど、飽きることがない。本格としても成り立っている。罪と罰に関する考え方に関しては、私はちょっと疑問に思うところがあって、日記にも書いてしまったけれど。(02/14)


『アリア系銀河鉄道』
      柄刀一/講談社ノベルス/840円
宇佐見博士は三月うさぎに誘われて奇妙な事件の現場へ。

この解説の多さはいかがなものか。確かに取っつきは悪い。夢導入・夢オチのファンタジーのような、曖昧な部分はあるけれど、内容はいたって本格である。特殊な舞台のトリックを思いついたがためにこういう形を取った、ということだろう。まだ説明がわかりにくい。(02/16)


『メッセージ』
      榎田尤利/クリスタル文庫/476円
魚住が出逢った病気の少女、さちのを襲った運命が、魚住にとっても大きな衝撃となる。

この逃げの打ち方は、人によっては「なんでそんなことで」と思うかもしれないけれど、私は納得できるな。思春期のかたくなさ、でも不安なところ、を思い出す。このシリーズの特徴は、とっても深刻な問題を抱えている登場人物たちが、気負いを隠して生活しているところの実感性にあるかもしれない。ところでミッキーってまさか小説にも著作権がついてくるのか?(02/17)


『ロシアは今日も荒れ模様』
      米原万里/講談社文庫/495円
ロシア語通訳の筆者が見た、激動のロシアの現在。

エリツィンとゴルビーの相違点がよくわかった。なのにおかたくない相変わらず軽妙な文章。エリツィンは酒飲みだからこそ愛されているところもあるようだ。外国ではだからこそ不安に思われているのに。新しい発見は、あんなに物がなくてどうやって暮らしているんだろう、という疑問が解決できたこと。総兼業農家のような土台があるから、あんなに政治が揺れても、生活が耐えられるらしい。大国の底力を見た。(02/17)


『妖怪馬鹿』
      京極夏彦・多田克己・村上健司/新潮OH!文庫/695円
妖怪馬鹿たちが、妖怪について語り尽くす。

ホントに馬鹿っぽい。妖怪に関して我を忘れる人たち。内容的には水木馬鹿といってもいいぐらいだが。京極の1ページパロディマンガが挟まれていたりして、ちょっとお得。総監督が京極なので、嘘にならない程度に脚色が入っていると思われる節が多々ある。なんか、妖怪に関するネタを仕入れるというよりも、自分がどんなに専門的でないかということを思い知らされる座談会本であった。(02/19)


『ノンセクシュアル』
      森奈津子/ハルキホラー文庫/720円
男女二人の恋人を失ったばかりの詠子に、絵里花という女性が近付いてくる。

ストーカーネタ。ホラーなのだが、バカ脚色した文章で読みたかった気もする。「殺されるぐらいなら、絵里花さんを心から愛した方がマシだ!」っていう文章とか、真剣な中にそこはかとなくおかしいところがあるので。ホラーなのに、何となく、どんな人にも魅力があるという気持ちになるのが不思議だ。(02/20)


『ifの迷宮』
      柄刀一/カッパノベルス/952円
最先端医療のSOMONグループの経営者・宗門一族で殺人が起きた。DNA検査の結果によって単純に見えた事件が混迷を極める。

これも科学がトリックの基幹にある。近未来に設定してあるが、現代の技術内で納得できる。知恵が肥大してどこかがミューテーションになっていく人類を見るような構成は、ちょっとミューテーション気味な私にとっては痛い。気をつけないと、自分ではどうしようもない環境に怪物に育てあげられて、という主張に聞こえそうな話。(02/23)


『ブギーポップ・パラドックス ハートレス・レッド』
      上遠野浩平/電撃文庫/530円
生命を停められた人々を作り出すモノは何か。切なさが「心のない赤」に変わるとき、世界の敵が浮かび上がる。

やっぱり、この人はこういう現代少年少女を書く方がしっくりくる。舞台そのものが不安定であることが前提だから、隙間で生きるような能力と性格が無理なく存在していて、そういうところこそを描くのが巧い。悪役が、どこにいるのかわからない、物語。(02/25)


←1月3月→↑インデックスホーム