読書日記(2000/12)


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『ショパンに飽きたら、ミステリー』
      青柳いずみこ/創元ライブラリ/900円
ミステリ好きのピアニストが、音楽とミステリの関係をコラムにした。

知らない本と、知らない曲ばかり。無理にミステリに関連づけなくてもいいんじゃないかと思うような内容も結構あったね。どうせなら音楽自体が謎解きの重大なキーになっているミステリの話も読みたいと思ったけど、ここにはそういうのはないみたい。残念。(12/01)


『紅秘宝団・完結編』
      菊地秀行/祥伝社NONNOVEL/800円
アトランティスの秘宝を巡り、魔人達が新宿を駆け回る。

意外とあっさり収束されてしまった。アトランティスの秘宝は結局何だったのでしょう。魔震に煮ているような気もするけれど。2冊でこのボリュームなら、また書き下ろしとかで夜叉姫ぐらいのスケールの話を望んでしまう、贅沢なそして慣れやすい読者であった。(12/02)


『蒲生邸事件』
      宮部みゆき/文春文庫/829円
孝史がホテル火災から逃げ出した先は、二・二六事件のまっただ中の東京だった!?

なるほど、メッセージ性にすぐれていて、読み終えた後、戦争について何も知らない自分を恥じる気持ち、いい加減に生きている自分を恥じる気持ちを自然に覚えていることだろう。終わりの決め方はかっこいいと思います。SF的設定を用いているけど、これはSFの範疇ではないと思う。途中でまるで本格のように殺人事件を宣言するところもあるけど、そういうのも余分な感じがする。というか本格読みにはこの形式を踏襲されてその後全然謎解き展開をしないのはとても気持ちが悪い。奇をてらわない文章を書く人だよな。読みやすい文章だけど、生意気を恥じない主人公の姿に苛々させられる最初の方は、投げ出したくなるほどでした。(12/06)


『七回死んだ男』
      西澤保彦/講談社文庫/590円
何度も同じ日を繰り返す体質の久太郎。祖父が殺された日を修正しなくては。

裏のあらすじを見ると解決策が奇抜なように書いてあるが、実際奇抜なのは別の仕掛けの方だろう。すっかり騙されました。キレイにハッピーエンドというか、結構出来事というものの本質を物語っている気がする。最初から、みんながそういうふうに正直にふるまっておけば何も問題は起こらなかったのに、ねえ。(12/07)


『人格転移の殺人』
      西澤保彦/講談社文庫/629円
人格を入れ替える施設に偶然入ってしまった人々の中で殺人が起こる。犯人は誰で被害者は誰?

これもすっかり騙された。陰惨な無差別殺人的流れでありながら、オチがほのぼのしていて好きだなあ。西澤キャラはのほほんとしていながら、突然口説きモードに入るときっぱりしているところも何だかカッコいい。このネタは西澤保彦がやるから本格になる。たとえば三谷とかがやったら一幕喜劇になるんだろうな〜なんていろいろ料理法を考えちゃうネタだ。(12/08)


『完全無欠の名探偵』
      西澤保彦/講談社文庫/714円
みはるの前に立つと人は皆自分の持つ謎をしゃべり出し、勝手に解決してしまう。りんの謎は一体何なのか。

連作短編の味を持つ長編。格の仕掛けがちょっと無理があるようなないような。珍しくあまり女の子が活躍しなかったような? 西澤ミステリを読んでいると難読漢字がいろいろ読めるようになるような気がする、最大の一冊。(12/11)


『殺意の集う夜』
      西澤保彦/講談社文庫/590円
嵐の山荘に閉じこめられた万理はゆきずりの人々を偶然殺してしまう。でも園子は殺してないのに死んでる!

すいません、よくわかりません。え?って感じ。最後の一行がホントなら、それまでの描写はかなり無理がないだろうか。他にもこの仕掛けの本は読んだけど、少なくともそう打ち明けられて「ちくしょう、先入観にやられたぜ!」ってなぐらいこちらに非を認めさせるだけのどっちつかずの描写とか勘違いしたままだとどことなく変なところとかがないと。これは仕掛けの通りだと無理無理なところがいっぱい出てくる。ちょっと反則気味?(12/12)


『エラリー・クイーンの冒険』
      エラリー・クイーン/井上勇/創元推理文庫/580円
エラリーの頭脳が冴える短編集。

うーやっぱり時代の流れを感じるなあ。クイーン(作家)はどちらかというと論理寄りだと思っていたけど、これに限って言えばホームズ寄りな印象。そうなるとやっぱり掛け合いをする相棒に欠ける弱さが出てくるかな? 親父さんの出番が少ないし。(12/14)


『どちらかが彼女を殺した』
      東野圭吾/講談社文庫/590円
最愛の妹が殺された。犯人は元恋人か親友か。

解決なしってことで、安楽椅子探偵のウォーミングアップとして読んでたりして。確かに練習にはばっちりという感じの小説だった。解決が隠されていることではなく、どうにでも解釈可能なところは次々捨てていく、もしくは作者の書いてあることに従って、確実無比なところだけに注目して推理すべしってあたりが。結構むつかしいよねー。(12/15)


『幻惑密室』
      西澤保彦/講談社ノベルス/780円
なぜか誰も出られなくなった社長宅で起きた殺人事件。超能力はどう使われた?

神麻嗣子シリーズも読み始めました。超能力ありでも別にかまわないっすね。新本格なんてルールを定めてその中で解決するという話なんだから、そのルールが超能力でもいいわけだ、なるほど。探偵側の人格はとても気持ちがよいが容疑者側の人格はどうにも極端に醜さがデフォルメされててちょっとイヤになる。いかにも西澤ミステリ。(12/16)


『実況中死』
      西澤保彦/講談社ノベルス/780円
他人の見た風景がそのまま見えてしまう能力の持ち主が殺人現場が見てしまった!

神麻嗣子シリーズ。これは大きい仕掛けにすっかりやられた。でも、その仕掛けがわかれば、というか先入観を捨て去り「あり得なさそうで実は当然な人物」に的を絞れば、消去法で確実に犯人に辿り着けるという、とても正攻法なミステリ。なんかオフ会の話とかそういう枝葉末節が面白かった。ところでチャンネル繋がったままなんでしょうか。(12/17)


『念力密室!』
      西澤保彦/講談社ノベルス/840円
売れない作家保科匡緒と神麻嗣子・能解匡緒超能力事件の数々!

神麻嗣子シリーズ短編集。シリーズ全体に対する物語性の仕掛けがちらほらでてきた巻。登場人物達のこういう不思議な関係は好きです。でも相変わらず、犯人側は救いがないことが多い。淀みまくり。でも爽やかも同居。変なの。(12/18)


『転・送・密・室』
      西澤保彦/講談社ノベルス/900円
売れない作家保科匡緒と神麻嗣子・能解匡緒超能力事件の数々!さらに人間関係はおかしく!

この最後の話でつじつま合うんだろうか。ちょっといらぬ心配。なんか奥さんに家事をしこまれているんだろうなーと察せられる短編とかありまして。それ自体はよいことの範疇だと思うけど、男性諸氏はこういう基本的な家事について、教わらないと考えるということをしないのだろうか、啓蒙といってもここからなのか、とちょっと不安になる。(12/19)


『猟死の果て』
      西澤保彦/ハルキ文庫/762円
女子高生が全裸で連続して殺される事件が起きた。犯人を追う刑事側にも病理が潜む。

うわ真っ暗。西澤作品によく出てくる極端に病気な考え方をする人たちがてんこ盛り。この文体は多分実験的に行ったのでしょうね。でも警察小説を模すのはやっぱり本格には向かないのでは……。あんまり警察の捜査っぽくない。もっと科学捜査と証拠主義によってがちがちに捜査は進むのではなかろうか、と昨今の読者は考えてしまうのだった。(12/20)


『死者は黄泉が得る』
      西澤保彦/講談社ノベルス/757円
死人が蘇る館に棲む女たち。もう一つの殺人事件と彼女らの正体はどう交錯するのか。

すっかり騙された! 事件の方より死者の方だ。殺人事件の方を語るのにこの設定はあまり必要ないような気がするけど、この仕掛けを語りたくなった気持ちはよくわかる。それにしても、ある意味、語られない場合は友情とかまったく信じられないよな、西澤作品って。(12/21)


『瞬間移動死体』
      西澤保彦/講談社ノベルス/800円
瞬間移動ができる俺は完璧なアリバイと共に妻を殺すはずだったが、不備に不備が重なって……

これはだいぶ読めた。ミステリとしての仕掛けも、物語としてのオチも。でも偶然要素が2つもあるのは新本格としてちょっと弱いのではないか。新本格で許されるのは、それから事件が導かれたとする偶然、もしくは蓋然性のない純然たる偶然1つ、ぐらいではなかろうか。彼と会ったこと、彼がそこにいたこと、この2つがもっとうまく理由があればなあ。(12/25)


『複製症候群』
      西澤保彦/講談社ノベルス/760円
触れると自分がコピーされる不思議な物体が空から降ってきて、密室空間になった中で起こる殺人。

そこはかとなくエヴァの匂いがする……。同一自分言い聞かせフレーズ三回繰り返しとか、年上の男勝りの女性が気になっちゃうとことか、最後の励ましとか。ここまでくると西澤作品のテーマは親子依存にあるというのがわかっているので、たぶん見なかったはずはないだろうから、影響を受けたというのはあり得る話だ。でも少年の最後の無我夢中の動き方はとてもあり得そうで人間くさくて好きです。(12/26)


『ナイフが町に降ってくる』
      西澤保彦/祥伝社ノンノベル/829円
謎にぶつかると時間を止めてしまう体質の人間の目の前で、男が刺されて倒れた!

ミスリーディングがいまいちうまくいってないような。なぜ気付かない!とずっと思っていました。すべての可能性を検討するという姿勢から、故意に隠されている可能性が見え見えで、ちょっと残念。しかし主人公老けすぎ〜。(12/29)


『ストレート・チェイサー』
      西澤保彦/光文社カッパノベルス/800円
酔ってトリプル交換殺人を計画した翌日、上司が殺されたとの知らせが!

私はイヤです、こんな男。←結構これは女性軍の本音だと思うが。よっぽど信頼がないと、こういうオチにはならないのではないだろうか。その信頼の根拠が描写からだけだとわからないから、いっそう頭抱えてしまう。母娘の関係はおもしろくて好きだな。(12/30)


『夢幻巡礼』
      西澤保彦/講談社ノベルス/1100円
連続殺人鬼の奈蔵の前で起きた、自分の手によらない殺人……。

この話を読んでいたら、『依存』を当然の如く受け入れただろうな、きっと仕掛けもすぐにわかっただろうな、と思う、同工異曲の作品。でも『依存』にはタカチがいたけど、こちらにはいない。その現在の環境による人間の変化の差違を語るうえで、なかなか興味深い比較ができるかも。最後のつぶやきはホントですかな。(12/31)


さて、今年も終わりました。合計214冊読んだ。去年たてた目標達成。来年は240冊ですかな。一月20冊。多ければいいというものではないけれど、自分の読書の仕方から言って、ゆっくり読もうが早く読もうが得るところはそう変わらないので、数打つ方がいいでしょう。

いちばん燃えたのは、ダントツで『火怨』。自分に蝦夷ブームを巻き起こした上に今年再読した唯一の本。これが突出してるので、後はイマイチ甲乙つける気がしません。

ところで、実は、数えてみたんです。買った本、267冊。仮にこの中の本だけを読んでるとして積読率20%。まあまあじゃないっすか? ちなみにマンガは163冊で、なんと、普通の本の方が100冊も多かったという、意外な結果。いつのまに逆転するようになったのだろう。ノンフィクション34839円、フィクション190388円、コミック97479円、しめて322706円。思ったより少ないような。でもやっぱり収入1ヶ月分よりも書籍代が多いってのは考えものかもしれない(^_^;。

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