読書日記(2000/11)


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『蒼夜叉』
      高橋克彦/講談社文庫/514円
怨霊伝説にまつわる地に現れる不思議な箱を持った少年と自殺体を結ぶ鍵は!?

正直を言えば、またかーという印象。異形のものが出てきたあたりが異なっているが、その分、説明している宇宙人伝説との関わりがイマイチはっきりしなかったわ。旅情ものとかいって、火サスドラマ化できそうなぐらいのフットワークの軽さはすごい。色気はちょっと出すよりない方がいっそすっきりしていいかもしれない。(11/01)


『根津愛代理探偵事務所』
      愛川晶/原書房/1400円
引退刑事の娘根津愛は女子高生にして現役刑事顧問!?

苦手なノリだった。トリック的なことは奇抜ながら身近でなかなかおもしろかった。だいたい、目次一発目の『カレーライスは知っていた』のタイトルにつられたようなものだし。が、バーチャルなキャラクターとしての根津愛の扱い方が苦手。自分の作品の中のキャラクターを誉める文章が載ってるってだけで鼻白むのに、その女子高生が書いたという設定の漫画とか載せてみたり〜ミステリ以外のお遊びが苦手なのだった。(11/02)


『偽史日本伝』
      清水義範/集英社文庫/743円
大化の改新をワイドショーがおっかけたり、天保の文化著名人がデカメロンならぬロック結びであったり。

歴史パスティーシュ。邪馬台国の位置がわからないのは、名前を真似した国がいっぱいあったからだと言ってみたり、鉄砲が渡ってすぐにコピーしちゃったり、ありそうな日本人気質で説明しちゃうんで、つい笑っちゃう。弁慶が義経だったという話はロマンチックでいいなあ。(11/03)


『千年紀末古事記伝 ONOGORO』
      鯨統一郎/ハルキ文庫/640円
古事記伝を鯨風に再解釈。

古事記なんざ読んだことがないので、途中で「……なんかちがう……」と思っても何が違うのか明確には表せない。それが脚色や翻案で許される範囲なのか、全然違う仕掛けが施してあるのか、わかりやすいところもあるが、わからないところもある。解釈自体は奇抜ではないが、そういうところを逆手にとって、読者を混乱させる遊び心に満ちている。(11/03)


『ファイアストーム』
      秋山完/朝日ソノラマ文庫/476円
火星の少年カズマが墜落した場所は、人食い魔女の伝説のある峡谷!

私にさえわかるSFネタが随所にちりばめてあるので、私にはわからないネタもいっぱい入っているのだろう。馴染みにくい用語があまりのも多いので異星感を出す前に読みにくさの方が際立つ。半分近くが記録をとびとびに読むことになるという形式も、イマイチ移入しにくいが、昔懐かしいSFの感じはする。(11/03)


『夜明けのロボット<上・下>』
      アイザック・アシモフ/ハヤカワ文庫SF/各660円
ロボットが殺された? 地球人類が宇宙に進出できるかはベイリがこの事件を解決できるかに委ねられた。

どうしたんだベイリ……。いつのまにそんなにロボット依存症になったんだ。捜査途中にロボット工学博士の下で不愉快な会話を交わし、「われわれは友情で結ばれている。テストするのはやめてください、われわれの――」この後に「愛の力を」って倒置法まで用いてシラフで言うなんてあんたも自分で驚いただろうけど読者も驚くよ。そのわりにダニールの影は薄く、機械型ジスカルドの頼もしさが増しております。話はクイーン風推理小説のようで一気に読ませる。この結末は、フレンドという呼び名にまさにふさわしいかどうかは意見がわかれそうだ。アンドリューとかスーザン・キャルビンとかにやっとする名前も出てきます。(11/05)


『0番目の男』
      山之口洋/祥伝社文庫/381円
クローンによって環境工学技術者が大量生産された。その成長した子供達を見たオリジナルは。

一言で言って「そんな簡単なこともやってみるまでわからなかったのか」って話のような気がする。学問的素質なんて遺伝形質とほとんど関わりなさそうなのに、こういうアイデアが元科学者から出てくるあたり、自分の学問成果を芸術家のように天賦の才能のもたらした唯一無二のものとして扱いたい願望の現れだろうか、とちょっと穿った見方をしてしまう。結末は可愛らしいけどね。(11/10)


『京伝怪異帖』
      高橋克彦/中央公論新社/1900円
平賀源内は死んでからも山東京伝とつるんで江戸を騒がしている?

帯に書いてあるような天狗、幽霊、神隠しなんてのを期待して読むと間違っている。京極よりも懐疑的でハナから仕掛けと思っているお人らだ。理性の伴侶。それに源内は傍観者っぽい。助言者という感じでもないどこか回される役、猫のようにある日はあっちにおり、見失うと全然別のところで見かける、そんな存在。最後を読んでいて「ああこれはもしかして永遠に続く楽しい夢なのかもしれない」と思った。ドラえもんのデマ最終回のような、起きたときに哀しくて絶望を知りそうな、永く幸せな夢。(11/12)


『ロボットの夜』
      井上雅彦監修/光文社文庫/838円
異形コレクション第17弾。

私の好きなロボットテーマだが、意気揚々とする物語には巡り会えなかった。猟奇描写などで怖がらせるのではない技巧的なホラーっぽい作品が増え、レベルもとても安定しているので安心して読める。だがそれは驚きが少ないということだ。不安定でも恐くなくてもいいから、衝撃のような感動がほしいなあ。『サバントとボク』『KAIGOの夜』がディストピアに残る愛された記憶、みたいな構成でほのかに痛みました。(11/13)


『帝国ホテル・ライト館の謎』
      山口由美/集英社新書/660円
印象的な意匠の帝国ホテルを造った建築家と日本人達の数奇な運命を辿る。

すこぶる面白い。建築探偵にでてきたので大雑把な経歴は聞きかじっていたが、この栄華と失墜。不遇の波に巻き込まれ、成功さえも運命に翻弄されて手に入れたもののように見える。建築としては優れているわけではなく普通もしくは並以下というホテルが、帝国ホテルというブランドを作った。それはまるで、ライト自身のことのようでもある。(11/15)


『レッド・ドラゴン<上・下>』
      トマス・ハリス/ハヤカワ文庫NV/各640円
満月の夜に殺人をおかす犯人を、次の満月までに捕まえられるか。

レクター博士が脇役としての分をわきまえている不思議さ。犯人はわかっているのに、頭脳ゲームとしてのおもしろさが、ページをめくらせる。上質のサスペンスとして読み終えた後、なんだか知らなくていいことまで知ってしまったような気持ちになる。それはいったい何なのでしょう。(11/16,17)


『コンフィデンシャル・パートナー』
      真瀬もと/ウィングス文庫/680円
スコットの悪意とジョイスの執着をモリアーティとワトスンは止められるか。

すっごく嬉しかった……! 故郷に戻ってきた安心感と凱旋した気分。見事、あるべき鞘に収めてくれました。これだけ話が違うんだから違う道に行くという予想があってもよさそうなものなのに、絶対にここへ戻ってくると、信じて疑わなかった。ベーカー街221Bへ、戻ってくると。まさに永遠に続く夢を、強化してくれた物語です。やっぱりワトスンとホームズは相棒なのです。ドルりー・レーンの舞台を見に行くという台詞があったり遊びも楽しいです。(11/18)


『あんただけ死なない』
      森奈津子/ハルキホラー文庫/629円
緋紗子が別れた恋人は必ず死んだ。たった一人、小雪を除いて……。

『西城秀樹のおかげです』に代表されるバカSFポルノめいた作品しか読んだことなかったが、うってかわってずいぶん落ち着いた文章だ。が、内容的には目的は似ている気もします(笑)。ある意味異端者の重さを描いているようではあるが、実は軽やかに解放されている。解放するのではなく、最初から縛られてはいないのだ。そして、それを読者にも移してしまう、それこそが森奈津子のテクニックっていうやつではなかろうか。(11/19)


『中欧怪奇紀行』
      田中芳樹・赤城毅/中央公論新社/1400円
中欧地図を眺めながら、怪奇の世界を空想する。

実際に出かけたのかと思ったら、語ってるだけだった。スタンス的には「こんなにおもしろい伝承の類やフィクションがあるんだー。調べてみ」という感じ。さすが学者肌の人たち……。私はやっぱり、そういうネタがあるなら創作してもらった物を読みたいなあ。ノンフィクションの部分は、自分で勝手に調べるからさ。(11/21)


『百万ドルを取り返せ!』
      ジェフりー・アーチャー/新潮文庫/629円
架空会社の株を買わされた男達が、損失を取り戻すため、計画を立てる。

コン・ゲームが好きだ。この話の場合、実は、4人の男達をペテンにかけるつかみの部分の方がおもしろいかもしれない。制約が強い方が克服してだましにかける楽しみがある。ただ、イマイチ腹黒いからさわやかじゃないけど。アンの秘密は暴露されたときびっくりしたなあ。もっと超困難っていう状況になると、おもしろかったけど、とてもうまくまとめられている。(11/24)


『みみずくとオリーブ』
      芦原すなお/創元推理文庫/520円
ぼくの友人達が持ち込む難事件を、料理上手の妻が解決する。

料理がうまそう……! 『粗食のすすめ』なんて本が出てたけど、田舎料理と作中で言われている数々の肴が健康的なのに抜群に食欲をそそる。謎がどうのより食べ物描写の方を期待しながら読んでました。ミステリとしては、現在の水準からいくと甘いと思う。何しろ途中まで戦後まもなくぐらいの舞台設定だと思っていたぐらい、警察の捜査がぞんざい。でも、そういうのはフィクションとして許容して、奥様安楽椅子探偵を楽しめる、そういう長閑な話。(11/28)


『ママ、手紙を書く』
      ジェームズ・ヤッフェ/創元推理文庫/540円
西部に引っ越したデイヴを訪ねてきたママ。そんなとき町に助教授殺しが発生する。

あらすじを読んだとき、デイヴは若いんだと思っていたら、恰幅のいいおっさんでした。それでもママには敵わない。いかにも元気そうで、口をついて出るのは皮肉ばかりという、映画によく出てくる雰囲気のおばあさんです。ママは安楽椅子探偵だけれど、その分、息子が精力的に動き回るので、材料は能動的に集められます。うーん、この結末、私はママには賛成できないんだけどなあ。(11/29)


『製造迷夢』
      若竹七海/徳間文庫/552円
一条刑事が困るところ、残留思念をリーディングする美潮が現れる。

なんだか普通です。リーディングとかいろいろ超能力系なスパイスがありながら、ちゃんと一条さんが自力で謎を解いている印象の方が強い。ちょっとずつ哀しい事件が多いので、エンディングは歓迎かな。バレバレだけど。連作としての仕掛けは特にはないみたい。でも、どこにでもいそうな女性を書いてやっぱりうまいです。(11/30)


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