読書日記(2000/10)


←9月11月→↑インデックスホーム

『壺中の天国』
      倉知淳/角川書店/1900円
地方都市に、電波による連続殺人が起こる。

そういうオチか! と思ったが、今までのほどのカタストロフィやほのぼの感はないかな。これだけの条件でよく論理的に解いたと感心するし、猟奇的&日常的という最近の流行を取り入れているが、倉知っぽいとはいえない。マニア的なものに優しいのか厳しいのか判別がつかない、それこそ諧謔的ところは倉知っぽいだろうか。種明かしはどちらかというと別種の方に「げー、まじか!」ときました。この表紙な理由もよくわかった。いいんですか、知子さん……。(10/02)


『決闘裁判』
      山内進/講談社現代新書/680円
権利と正義を求める苛烈な決闘という形式の裁判を、欧米型当事者主義の観点で読み解く。

なんとなし当然のように受け入れている決闘という形。最初のうちの事例と歴史は何ということなく読み進められるが、そのうち、決闘の特徴が露わになっていき、それがどんな精神に根ざしているかが明らかになる。それは闘争であり、自分の権利を勝ち取るための自助努力であり、それをしないものに正義はないのだ。そういう論旨があるから、決闘が裁判として成り立つ。そしてそれが現在の裁判形式の日米の違いにも如実に現れていることを知る。土壌の違いを意識せずに、同じ法文化は持ち込めないという論理には納得。うまい展開だ。(10/04)


『いつも心に好奇心<ミステリー>!』
      はやみねかおる・松原秀行/講談社青い鳥文庫/950円
三つ子と夢水・パスワード探偵団の夢の競演!

同テーマで青い鳥文庫人気の二つを競作させてみましたーという企画。パスワード探偵団の方は読んでないんですが、横浜が舞台なんですねえ。好みはやはりはやみねかおるの方だろうか。較べてみてわかったけれど、構造がミステリなんだ。パスワード探偵団の方は、少年少女小説にミステリっぽいような味付けをしたっていう印象。夢水は逆。ミステリを少年少女でやってますっていう印象。全然違います。それにしても、すでに子供の小遣いでって感じじゃなくなってきたよなー。(10/05)


『脳男』
      首藤瓜於/講談社/1600円
爆弾魔の隠れ家で見つけた男は感情のない人間だった……?

うーん、評ほどおもしろくない。感情の欠落した男の特異性があまり感じられない。女性の精神科医といい、無骨で一途な刑事といい、どことなく『DZ』を彷彿とさせるモノがある。思い出すのはいいんだが、違いは何かって明確に形にできないところが、インパクトに欠けるというか。『DZ』もそうだったが、都合のいい感が拭えないのだ。(10/07)


『新編・銀河鉄道の夜』
      宮澤賢治/新潮文庫/400円
宮澤賢治の名作を新しく編集し直した文庫。

岩手に住んでいたことがあるので、絶対読んだことがあるんだが、忘れている。こんなにきらきらしている独特な世界は宮澤賢治以外では読めない。ガラス玉や水晶が小さく輝いて、青い炎はちらちらと燃えて。空白があろうとも、見つからない原稿があろうとも、読者が絶えない理由もわかるというものだ。(10/10)


『大導師アグリッパ<グイン・サーガ75>』
      栗本薫/ハヤカワ文庫JA/540円
ヴァレリウスがアグリッパと驚嘆の邂逅を果たす一方で、ナリスは決断を迫られる。

ずりー。アグリッパの存在とその知識はずるいだろう。ヴァレリウスではなく、読者をめいっぱい意識した喋りになっとるやんけー。現代知識を全く出すなとは言えないが、あまりにもこちら側の言葉が多いので、ファンタジーを読んでいるときの、向こうの世界にいる感じが薄れちゃって残念だ。ヨナは何となく子供の時の印象が抜けないので、いきなりナリスに忠誠を誓っているのは変な感じ……。(10/13)


『竜の柩<1・2>』
      高橋克彦/祥伝社文庫/各619円
神話・伝説の謎を龍というキーワードで九鬼虹人たちが解き明かす。

3・4と毛色が違うのでここで分ける。『神々の指紋』は読んだことがないが、似たようなもんだろうか、と思った。小説の形態をとっているが、どちらかというとレポートという雰囲気だ。龍種と牛種の対立ってオカルトの世界では常識なんでしょうか。私は、全部解けちゃうっていうのはつまらないから、どっちかというと、反論を試みたいタイプです。そうやって、一生、古代史の謎で知的ゲームができたら楽しいだろう。(10/11、14)


『ミーカはミーカ トラブル・メーカー』
      大原まり子/集英社コバルト文庫/300円
超美女のミーカは弟の健ともめごと処理屋として暴れ回る!

最初のうちは頑張ってコバルトしてみたが、後半は仮面を脱ぎ捨ててオオハラ色を出してみました、っていう感じ。健ちゃんを弟にしたことで生じる躊躇いが、そこはかとなくイルクラ世界を思い出させる。一生越えないラインが色っぽい世界。能天気な中に笑っちゃうしかない哀しさが漂うというか。ああ懐かしい。再読したくなりました。(10/15)


『竜の柩<3・4>』
      高橋克彦/祥伝社文庫/600円・571円
龍に乗った虹人たちが辿り着いたのは古代シュメールだった!

ということで、前半に較べ一気に伝奇小説っぽさを増した。過去に遡り謎を解き自分たちの成したことが現代に影響するという、最近見ないぐらいオーソドックスな伝奇で何か懐かしささえ感じた。昔はこういう漫画がいっぱいあってわくわくしたっけ、そういえば。レポート形式の方が懐疑的になっちゃうけど、こうやってフィクションに仕立ててもらうと受け入れやすいのでその分おもしろく読めた。しかし、何でも書く人だな。一体どこまで手を広げているのかが気になってきた。(10/16、19)


『浪花少年探偵団』
      東野圭吾/講談社文庫/533円
小学校教師しのぶセンセの周りには事件と教え子と恋のさや当てが絶えないぞ。

あ、楽しい。まとまりのよい小振りの謎と、きっぷのよいしのぶセンセの人柄がマッチしていて、読後感安心。小学生の描写も無理なく自然体な印象を受ける。男二人の張り合いも古典的でさわやか。こういう堅苦しくないミステリを読みたくなるときがある。リラックスしてどうぞ。(10/21)


『霊の柩』
      高橋克彦/祥伝社/2500円
虹人たちがタイムマシンで辿り着いたのは元の時代ではなく大正時代だった!

霊が出てきました。すでに何でもありになっていて、乱歩や賢治と会ったり、ドイル交えて降霊会開いたり、いろんなことやってる。そしてそれはタイム・パラドックスを踏まえた世界になっているので、謎を検証するという竜の柩の始まりからは隔たって、フィクションとして楽しめという形になっている。感動するというほどのことはないが、遊戯心に溢れている。ところで、ホントに祥伝社かと思うぐらい、色気のない話ですな(笑)。女っ気がほとんどなく、40歳近い虹人がお姫様扱いされてるよ? いいのか、君たち。(10/22)


『しのぶセンセにさよなら』
      東野圭吾/講談社文庫/590円
内地留学中だってしのぶセンセを事件はほっとかない!

バイバイ、っていう言葉が似合っている短編集。ちょっと切ない。かつての教え子は遊びに来るけど卒業しているし、絶えず周囲の環境が変化している。変化に富むというのはミステリでは珍しい世界。先生が主人公なので、子供が関わっている事件ばかり。そして、子供を子供という役割でなく、ちゃんと1人格として描いているところがとても自然だ。読後感は堅実。(10/24)


『十月のカーニヴァル』
      井上雅彦監修/光文社カッパノベルス/895円
再録と書き下ろしホラーを集めた、異形コレクションの新シリーズ。

なんとなし<異形>の名につられて買ったので、まえがきを読んで「げ、再録あり!?」と思ったが、全然読んだことないのばかりだったので関係なかった。異形コレクションの方でも昭和初期やらを舞台に据えた作品はいっぱいあったが、実際にかつての言語やかつての風俗の中で書かれた作品はいっそう生き生きとしている。長編だと疲れや違和感の方が大きくなるかもしれないが、短編アンソロジーという形式の強みだろう。(10/26)


『なつこ、孤島に囚われ。』
      西澤保彦/祥伝社文庫/381円
官能百合作家森奈津子が誘拐され、孤島に幽閉された!?

西澤保彦ファンクラブのHPを覗いたことのある人には既知の交友関係に基づいた実名使用のフィクション。かなり内輪受けだろう。森奈津子の文体を真似、オチの荒唐無稽さまで真似ている。が、一応筋道が通っているところが西澤氏らしいところ。日記を読んだことがある程度の内輪でも楽しく参加できる。が、日記すら読めない環境にあるファンにとっては酷なんじゃないか?(10/27)


『嗅覚異常』
      北川歩実/祥伝社文庫/381円
嗅覚のない女性の実験協力を依頼されたが、実験対象の女性が失踪した。

すらすら読めるんだけど感情移入しにくいキャラクター達だ。ストーリーは覚えているが登場人物の名前は覚えていないという。推理に分類されているが、なんとなしコワイ印象が漂う。こんな人たちばかりだったら、生きていくのがイヤにならないかな、とちょっと思うぐらい、悪意がよどんでいる。(10/27)


『クール・キャンデー』
      若竹七海/祥伝社文庫/381円
誕生日の前日に兄嫁は死に、その原因のストーカーを殺した容疑者に兄が浮上。渚の夏休みはどうなる?

葉月市シリーズになるのかな。コージーと言うほど呑気な印象は薄いけど。中学生が主役なので、気持ちの展開が速く荒々しいせいもある。オチは結構読めた。若竹さんらしいというか。文章は中学生一人称っぽくしてるんだけど、どことなく背伸びしている感じが拭えない。潔癖症なあたり、この年頃〜って感じがするから、実は背伸びも計算かも。(10/28)


『空中鬼』
      高橋克彦/祥伝社文庫/381円
バラバラにされた死体の生首は、弓削是雄が昨夜魔物に見せられた首の一つだった!

またもや他社からのシリーズの越境。冷静なように見えて実は行き当たりばったりな是雄。人様の屋敷に忍び込むさまなどを見ていると、この人が偉いんだと言うことを忘れそうだ。でもついてきてくれる仲間がいるので心強いね。鬼の正体はいかにもありそうな話だが、それだけに、不変の正義。(10/28)


『文字禍の館』
      倉阪鬼一郎/祥伝社文庫/381円
難読苗字の編集者三人が招待された文字禍の館で起こることは一体?

400円の編集に喧嘩を売っているような特殊漢字や特殊レイアウトの数々。全部読めても絶対役に立たないだろうなという漢字が山ほど出てくる。ホラーとしては、道具に文字を使っているとはいえケレン味のない着実なホラー(なんだそりゃ)だなーと思っていたら、ちょっとミステリくさい仕掛けまで。個人的には顔写真が出たのがいちばん驚かされたことだったが。(10/28)


『蔡倫』
      塚本青史/祥伝社文庫/381円
紙を作った宦官の生涯。

おもしろい。無味乾燥な話になるかと思ったら、世継ぎの陰謀だのなかなかに派手派手しい事件が起こる。宦官が虐げられた後に台頭する時代の流れと、蔡倫が紙を実用にしていく様が交差する川のように描かれている。中編に収めてしまうのがもったいないぐらいの充実感だ。(10/29)


『やっとかめ探偵団とゴミ袋の死体』
      清水義範/祥伝社文庫/381円
ゴミ袋から死体の腕が発見されて、やっとかめ探偵団の活躍が冴える!

名古屋弁が心地よい。おばあちゃんたちが主人公なので、きつい名古屋弁も無理なく登場できる。それがいい味。ほのぼのとした、コージーミステリだ。清水義範はパスティーシュばっかり読んでいたが、こういう推理もいいかなあと感じさせてくれた。ところでこれも出版社越境。いいのか。(10/31)


←9月11月→↑インデックスホーム