蝦夷を平らげて何かいいことあったのか。もちろん「まつろわぬ民」だけあって、阿弖流為たちとの38年戦争後も、一筋縄ではいかない。政府の財政を逼迫し、ご機嫌取りのような真似までし、でも蝦夷は人間扱いされていないこと自体が不満だから、それでもまつろわない。そうしてどちらの得にもならない不安定だけが残る。それが三十八年間の抵抗の結果だとしたら、ちょっと哀しい。(09/01)
通常販売ルートに乗ってないけど、書店で買えるし本家が書いてるしおまけにパラレルのつもりじゃないって言ってるし、ってことでここに書く。ヴァレリウスがカワイイじゃないっすか! 翌朝の可愛らしさには胸きゅんながら「復讐のために勉強したんです」には笑った。そんな本まであるとはさすがパロ。ヴァレ熱が冷めません。自分がやってしまったことにおののいてビクビクしてるあたりが下剋上しきれない小心者で。ある一人に弱い以外では、上級魔道師、魔道師ギルドでもなかなか勝てる人がいないってあたりが好き。だから別にそっちじゃなくて、カイの話で一人称が俺二人称がお前になってる方がよっぽど抵抗がある。本編のあとがきでさんざん覚悟を促していたわりに、なんだ大したことないじゃないか、と思ってしまった私はドールの闇に一足先に行かせてもらいます(爆)。(09/02)
12年も前の本だそうで、現在ではなんて呼ばれているんだろう。真面目だった人が突然無断欠勤したり不真面目になる、そんなことは当たり前にあり得ることになってしまった気もする。不登校なども加えて退却としてくくる試みは成功しなかったようだ。突然逃げ出したくなる気持ちは誰にでもあるだろうし、それを実行しちゃうのも不思議はない。ただ、これのどこが病気かというと、責任回避に対する異常なまでの罪の意識のなさ、盲目ぶりを自覚しないところ。気に病んでいるうちは大丈夫ということ。どこか自分にあてはまるような、あてはまらないような、と考えているあたりは、もう境界線にいるようだ。(09/03)
ホラーじゃねえだろ、どう読んでも。自分の大切な守りどころを心得ている人たちばかりで、とてもさっぱりした読後感。領分と、領分を破らなくちゃいけないところと、領分のために曲げなくちゃいけないところ、この三つのバランスがとても好みだ。一応シリーズでこれの前があるみたいなんだけど、関係なくおもしろく読めた。お気に入りは髑髏鬼。こんなにいっぱい頼りがいのある味方メンツが出てくるのに、よりによって髑髏鬼。(09/04)
障害、なので悪夢で飛び起きる、なんてのも載ってる。一冊丸ごと、障害を列挙した本。ナルコレプシーも歯ぎしりも割いてあるスペースは同じぐらいで、この人は等しく睡眠が阻害されるもしくは睡眠状態によって健康が阻害されることを中心に危惧しているのだなとわかる。平易な文章だが、似たような内容が続くので、この本は一種の治療薬かも(^_^;。最後に睡眠に対する理解の程度をはかる○×クイズがついているので、あなたの知識の度合いをはかってください。(09/06)
モレが女だということでとてつもない衝撃を与えてくれた話だけど、終始カッコいい女だったのでオッケー。アテルイよりずっとカッコいい。蝦夷を率いていたのは、アザマロとモレだったような気がする。どうしても較べてしまうけど、前半はまったく違う物語で、後半は驚くほど似ている。頭になる者の苦悩を蝦夷の史実に結びつけると似てしまうのかもしれない。こちらの方が起伏が激しく物語性に溢れている。でもその分一体感は弱い感じ。子供の頃を振り返り、あの何も知らない頃がいちばん幸せだった、あのとき二人で森に住んでたら何か違っていたかな、って最後に思い出す哀しさ。全体的に女の子はこっちの方が魅力的。(09/08)
クトゥルー? 聖典読んでないからよくわからないけど、そういう雰囲気のグロさ。もっと看護婦が専門知識を駆使して戦う話なのかと思ったけど、そうでもなかった。ホラーアクションとしての描写に忙しくて、7人のカラーがうまく活躍に結びついてない感じがする。題材的にはカッコいいんだけどな〜。(09/09)
市場経済が発展して、地方が都市を支えるようになった江戸時代に起こった大飢饉は、流通の構造によりその被害が拡大。現在の輸入に頼るシステムは地方が発展途上国に変わっただけで同じ構造だと解く著者。しかも今や飢饉回避のシステムの半分ぐらいは道義的に推奨するわけにはいきません。それでどうするか、っていうのが課題なんだけど、確かに自分たちのエゴで外国の農家を飢えさせるのは本意ではない。でもそれで自給率を上げる他に、外国との関係性を改革する良策は話にものぼらないのはなぜだろう。(09/12)
まあ一種の妖怪ミステリだよな。鬼の仕業に見せかけた、政治的個人的事件を次々暴いていくのは、妄信とは無縁。陰陽師の冷静で一歩引いた姿勢が頼もしい。だからといって超常的世界を否定した物語じゃなくて、小道具としては妖も術も出てくる。なんか好きな世界観。(09/13)
できすぎの感があるタイトル。結構どれも真っ当に帰ってきた話。美しく終わらせているのは久美沙織『失われた環』だろうか。澄んだ金属音が聞こえるようなラスト。中井紀夫『深い穴』、五代ゆう『或るロマンセ』が気になる作品。やっぱアンソロはこれぐらい圧倒的な量がほしいわー。(09/17)
どうかしたのか菊地さん。再収録と追加合わせて完結までいくのだけど、そのこんがらがった流れの締め方がまるで少女漫画……。コミック原作とはいえ、掲載紙は青年漫画誌なのに。しかも人間側じゃなく怪物たちがロマンスの主導権を握っている。絶対どうかしている。わかりやすい情緒でコミックスだとたぶんとても好みだけれど、背を向ける冷酷さの中に宿る灯火、みたいな情感が好きなファンにとってそういうパターンがないのはちょっと物足りない感じ。(09/23)
絶対このエピソードが書きたかったんじゃないかと思うんだけど気のせいだろうか。私もこのわかっている完結を期待して読み続けたといっても過言じゃない。あちこちがひどく近親相姦的でその意味とても閉ざされた世界なのだけれど、それを読んで安堵をほしがるあたり、業というか世界が疲れているのを感じる。(09/25)
異なる世界。方向づけされない情熱を抱える苦しさはわかるが、唐突なほど陛下や北にその情熱が向かっていく。唐突と思うのは時代背景が全然わかっていないのが問題なのかもしれない。陛下に対し幻のような偽りのような恋慕を抱きたかった時代、という暗黙の了解が前提条件があるような気がする。時代の閉塞感がこの本から伝わってくるよりも強かったのだろうか。突破してそこで世界が壊れてしまう方が幸せに思えたのだろうか。徒花という言葉を思い出した。「こんなふうに感じる。これは何か。この感情はどこにいくのか」という思考方法が自分とあまりに違っていて、その点すこぶるおもしろかった。ところで剣持梓ってものすごく嘆美な名前だな。(09/27)