読書日記(2000/8)


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『隕石誘拐』
      鯨統一郎/カッパノベルス/838円
宮澤賢治の『銀河鉄道の夜』にはダイヤモンドの在処が隠されていた。その謎を奪おうとする組織を探し出せ!

宮澤賢治はカルトな人気があるらしい……という予備知識がないと、ホントに荒唐無稽ではないだろうか。いや知ってても荒唐無稽なんだけれど。解説で「これは童話として読むのがいい」とある。童話と言うにはディティールの黒さが目に付くので抵抗があるけれど、まあ確かにこれは童話。風の又三郎と話しているように描画して、科学的には薬打たれて朦朧としている状態のときの幻覚ってこともありうる、っていう解釈を全く書かない、その選択の仕方がどことなく童話チックというべきか。(08/01)


『サンタクロースのせいにしよう』
      若竹七海/集英社文庫/438円
変わり者のお嬢さんと同居することになった柊子の周りには騒動が続出。

というほどでっかい事件でもないのだけれど、どこかでありそうな、でも絶対なさそうな。これはどちらかというとお嬢さん銀子に感化されて、柊子の日常の方が変化していくのがポイントじゃないだろうか。最初は非凡だったことが、慣れからだんだん日常になり、それが大切なことになっていく。幽霊にまつわる話などその典型ではないだろうか。こういう微妙な変化がなんとなし嬉しいのだ。(08/05)


『D−邪王星団・1』
      菊地秀行/朝日ソノラマ文庫/476円
絶対貴族が5千年ぶりに復活し、ある人間を守る貴族と復讐に燃える貴族の間で戦いが始まる。

Dの愛想がとてつもなくいいです……。ホントに子供好きだな。保父になれば。前作からひきずったギャスケル将軍はあっさり退場。今回印象に残ったのは、珍しくいいところがまったくない飲んだくれの亭主と、その妻の悲劇。何しろこんなにだらしないキャラクターは菊地作品には滅多にいないって夫でも、妻は吹っ切れないでいるあたり、菊地さんらしさも覗いてなかなかおもしろかった。しかしDの口から「彼」とか聞くとは思わなかったな……。(08/08)



この間は『火怨』の再読とかしてるのだ。


『魔界医師メフィスト 怪屋敷』
      菊地秀行/講談社ノベルス/740円
往診に訪れた家は、メフィストの来訪を拒み続ける。果たして患者のもとに辿り着けるか?

ドクターって体育会系だよね……。せつらなら絶対、いまさら試験と言われたって「やだ」っつうだろうし、カンニングもするだろうし、師の首ぐらいさくっといっちゃうでしょう。でもドクターは敬意を忘れません。のわりに、最後には汚ねーよ(笑)。しかし、まさかかのお方が出てくるとはねえ。おまけにドクターったら無○○だったんすか! っていうのを置いておいても、家の仕掛けとか敵味方入り乱れすれ違いまくりの構成もとっても面白かった。非常にいろいろ楽しい巻でした。(08/21)


『ゆきどまり』
      高橋克彦ほか/祥伝社文庫/590円
9人の作家によるホラーアンソロジー。

あらすじでネタばらしすぎ。大減点。ホラーアンソロジーというとどうしても異形コレクションと較べてしまうが、質的にはそう変わらないのに、いかんせん数が少ない。この質であの数がないと満足感が得られない体になってしまった。先駆者がいると大変だ。篠田さんにつられて買いました。篠田さんにしては珍しいオチ。話がいちばん好きだったのは小林泰三『友達』だな。怖くはないけれど、さみしさにつかまえられる。(08/21)


『創竜伝・12』
      田中芳樹/講談社ノベルス/780円
宋に落ちてしまった青竜王を捜して白竜王が地上に降りる。

すっかり話を忘れてしまっている。なんで宋に落ちたんだっけ? 宋という一般に馴染みのない時代の人物を嬉々として書いてる芳樹さんが目に見えるようだ。すっかり趣味に走っていらっしゃる。偽悪的な発言を確信的にするキャラが出てきて、その評価がわりとよいというのが田中作品にはとても珍しいのではないだろうか。中華的な話は好きだけれど、芳樹さんの筆で読みたければたくさん本筋として出てるから、スパイス程度に留めて現代話を書いてくれないかなあ。あんまり竜としての前世(?)が強く出てくると、今ここに兄弟として生まれて生きてることの意味が軽くなっちゃいそうで。(08/23)


『嵐のルノリア<グイン・サーガ71>』
      栗本薫/ハヤカワ文庫JA/520円
聖王宮でリンダの行方が途絶え、ナリスは謀反を早める。

4冊も溜め込んでしまった。もうすっかりヤンダル・ゾックは表舞台に登場してしまい、レムスに憑いてるのもバラしてしまっている。実は私は疑っていました。だってナリスの言うことだから(笑)。おまけにヤンダルたちの正体と目的まで露わになって、逆に、ナリス達実際に闘わなくてはいけない人たちとは正反対に、読者としては怖くなくなったかな? (08/24)


『パロの苦悶<グイン・サーガ72>』
      栗本薫/ハヤカワ文庫JA/520円
決起したナリス軍。だがヴァレリウスは囚われたままで……。

ヴァレリウスだったらその場でホントに死んでも本望だと思う。あの魔道師墜死の場面。ナリスの反応はとても意外だったのだけれど、いつのまにやらすっかりスポイルされていたということかしら。なんていうか後手後手でナリスらしくない、戦略性のない、すっかりまずい戦をしている。作者がナリスは死ぬと明言しているぐらいだから負けることはわかっているのだけれど、ホントにパロはどうなるんでしょうねえ。キタイの手先として語られたことはなかったから、レムスが突然覚醒して自らの悪によってヤンダルを押さえ込みかつナリスを刎ねるというのが理想の展開なんですが。(08/25)


『地上最大の魔道師<グイン・サーガ73>』
      栗本薫/ハヤカワ文庫JA/540円
囚われたヴァレリウスを脱出させたのは意外にも!?

って表紙でネタ割れてるんだけどさ。ヴァレリウスが頼もしい……! 舞い戻ってナリスを助けた登場タイミングといい、まさに王子。王子様度が急上昇。グラチウスに対峙して貫禄で負けてない。ユリウスを相手にするや毒舌も飛び出すし。こういう彼はとても好きだ。さすが、結婚するならヴァレと言われた男。逃げ腰になってるナリスより全然甲斐性があるぞ! ナリスと破滅に堕ちちゃう後ろ向きな思考状態の彼は好きではなかったのだけれど、ここまできたらもういいや。姫と幸せに心中するまでに、どんどん男を上げてください。あとがきの『マルガ・サーガ』がとても読みたくなったよ(爆)。(08/26)


『試練のルノリア<グイン・サーガ74>』
      栗本薫/ハヤカワ文庫JA/540円
ナリスはジェニュアに本拠地を移し、ヴァレリウスはアグリッパ探索の旅へ。

もしかしてバラバラに死んじゃったりして。というぐらい、危急の際にして離ればなれのナリスとヴァレリウス。イエライシャの言うとおり、グインに頼った方が勝ち目ありそうな気がするんだが、やっぱりヴァレリウスは魔道師だね。肉体勝負の生物よりも魔道で勝負の怪物の方が頼りになると思っちゃうんだろうな。グラチウスの約束はほっといてもさ。ユリウスと漫才しているところがとても好きだったので、もう少し一緒に行動してほしかったわ。さて、4冊一気読み終了。すぐ次出るけどな。(08/27)


『屍凶街』
      菊地秀行/幻冬社ノベルス/800円
屍・夜香のコンビが再登場。不死身の殺人鬼二人を相手にどう挑むか?

コンビってほど共闘してないけどな。夜香の自分の特技を生かした戦いっぷりが好きだ。菊地世界において下僕を作って効果的に使う吸血鬼って珍しいのではないだろうか。しかしなんだってドクターは夜香の使いっ走りをしているんだろう。読者サービスだろうか。<区外>からの署長さんも結構骨があってキャラ立ってたんだけどねえ。話は魔界都市ブルースでもいけそうな感じ(だって要するに人捜しの話だ、これって)だけれど、この二人でも全然いいバランスになっている。最近すごく順調に読んで嬉しい本を出してくれて読者としては幸せです。(08/28)


『魔法探偵、総員出動!』
      ロバート・アスプリン/矢口悟訳/ハヤカワ文庫FT/620円
M.Y.T.H社の面々はヘムロック女王の世界制覇を阻止するためにスキーヴなしで頑張る。

スキーヴとオゥズがほっとんど出てこないの……(涙)。そりゃグィドとか大活躍だし仕事できる彼らは大好きよ。軍隊ものってことで、銀河おさわがせ中隊にダブるところもあるけど、そこはちゃんとファンタジーとSFの違い、金持ちと金なしの違いとかいろいろ楽しみはある。でもやっぱ主人公二人がいないと寂しいわ〜。次の巻はバニーと女王、オゥズという三つ巴のキャラが揃ってとっても楽しみなんだけど。(08/30)


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