すごく整ったプロットだ。泥棒探偵としてその鍵開けの腕も発揮されているし、それこそが事件解決の鍵でもある。ちょっとした冒険もあるし、恋もある。いまふうの派手な映画じゃなく、おとなしめにウィットの富んだ映画にしてみたい感じ。(07/01)
途中で「これはおかしい」と気がつくようにできている。謎解きパズルとしてはストーカー事件の方がメインなんだろうが、それはタックの過去を明らかにするための導入だ。それを背景にタックが自ら語る過去を聞いていると、読者は奇妙な点と真実を察するという構造。こんな過去と現在に出逢ってしまっては、タカチの強さが頼もしい。助けてというタックのメッセージを包容できるのはタカチしかいない。支えてもらって立ち直れることを嬉しく思う。ミステリって感じじゃないな。(07/04)
ライヘンバッハの滝から復活までやってきましたな! いよいよシャーロック・ホームズを名乗った。ここまで違う話になっているのに、なんか最後どう始末つけるのかわくわくする。滝はどうするのかと思ったら、彼もライバルも落ちずに、彼の過去が落ちた形になった。でもそこから苦悩が始まっているので、苦悩よりも開き直りの好きなワタシとしては、早く立ち直ってほしいところ。次で最終巻だっていうけど、まさか養蜂まではいかないわよね?(07/13)
終わってない。続く。記憶喪失とはいえ、メフィストをセンセイと呼ぶせつらが涙出そうなほど怖いです……。普通の応対にコワいとはいかなる心境か。メフィストと顔合わせるたびにごめんっ、記憶喪失なんだ、勘弁してくれという気持ち。幸いにも、この状況につけ込んだり怒ったりするのは名がすたるとでも思ったか、これは「私」とかけ離れていると興味をなくしたか、ドクター冷静。でも「私」の方もどうやら記憶喪失らしい。無防備なのに糸だけは相変わらず完全武装だから安心だが。人形娘はトンブの所業を知ったらキレるのではないだろうか。最初の忘年会といい、いろいろマニアックな楽しみの多い話だ。(07/14)
アーケードの透明人間はうまいな、と思ったけど、たいがいは他愛ない、不思議というほどのものでもない出来事。それでも満足できるのは、他の枝葉末節が性に合ってるからか。小学生という年齢設定をしておきながら、人が集まる=事件が起きやすい、学校という舞台を放棄する不登校児という設定。しかも本ばっかり読んでる出不精の6年生。この設定で後ろ向きじゃないと思わせる話に仕上げてしまう。加えてワトソン役の響子ちゃんを学校好きな明るい子、でも恭助に理解あり、というキャラにすることで、いろんな子供生活を評価してる。そういうところが好き。(07/16)
有栖川さんは短編まとめるのがうまいなあ、と実感。篠田さんは相変わらずどんなテーマも自分の土俵に持ってくる。二階堂さんは、ちょっとなあ。設定からいくといちばんエラリーっぽいのは法月さんか。にしても、いちばん好みではなかった二階堂さんに突っ込まれていたが、いったいどういう企画なんだ、これは。(07/17)
人類絶滅と西城秀樹と女学生。これになんの関係があるのか、考えると夜も眠れない人にお勧めかも。なんて嘘です。ホンットにばかばかしいんすよ(笑)。ポルノで笑える人におすすめだ。なにしろ4本はSFバカ本が初出だし。エロシチュエーションそのものでぼけて、ツッコミを入れる。絶妙なテンポだ。レズネタが得意で、そういう描写の気合いの入れようったら、ステキですわ、お姉さま。しかし、「YMCA」の真理って、本当ですかあ!?(07/18)
アオリの抱腹絶倒って一体何だ。重いぞ、このテーマは。おそらく西澤さんは共依存の親子関係が主テーマなのだろうと理解した。『依存』よりも時間軸上では前にあたるし、発行上でも前なのだが、確実に『依存』につながる波のようなものは見えている。もとがパズラーなので、動機などを他者の口に説明させるという手法にならざるを得ないのだろうが、このテーマは当事者の口から話を聞きたい。想像を踏まえた推測ではなく、私たち子供の真実として。それが『依存』という形になったのだとしたら、とても喜びたい気持ち。(07/22)
有栖川さんってマニア受けしてるのが不思議なぐらい、なんつーか、フツー人の話を書くんだよな。出てくる登場人物に特殊性を狙っているわけではないのだ、火村さんでさえ。会社員とかくたびれた中年のおっさんとかをフツーに書く。キャラクターもの全盛の現代ミステリの中で、「小説」を書いてる人だと思う。この表紙の字は多分ご本人のものでしょうが、めちゃうまい。書家のうまさではなく、読みやすい字だ。この字が作風を表しているといっても過言ではない。『登竜門は多すぎる』に出てきた一太郎に代わる製品名には大ウケしました。(07/23)
犯人を見事に隠された。まったく見当がつかなかった。動機や人間関係はともかく、パズルとしてはいまんとこシリーズ中でこれがいちばんうまいのではないか。恵が千帆の(この話に限っては千帆と呼びたくなる。いまや彼女はタカチなのに)視点でしか語られないのが残念だ。千帆が彼女に惹かれた点をモノローグだけではなくエピソードも織り交ぜてほしかった。千帆の視点でしか語られないところが効果なのかもしれないが。今気がついたけど、匠千暁と高瀬千帆って名前が酷似しているな。魂の双子であることは実は最初から決まっていたのかもな。(07/24)
若竹さんの話、すごく好きかも。特にこれっていう強烈さはないけれど、安心して読める。伏線は巧みに日常的な話に紛れ込んでいて、謎が明かされて初めてそれが伏線にもなっていたのかと気がつくという。みんないい人だしね。見返しの著者の言葉、コージー・ミステリは凶悪な犯人が明らかになったとき、関係者が「なにそれ、ひっどーい!」と反応する話、というのは言い得て妙だ。何とも等身大で、犯人が捕まらなくても、まあ、あの人ならいいか、と自分の矛盾さえ許しちゃう。ところでロマンス小説って奥が深いんすね。こんなにジャンルが分かれるものだとは知らなかった……。(07/26)
このプロフィールは本当だろうか。だったらちょっと嫉妬しちゃう。何しろ著者1986年生まれってなってる。なのに、カフェとチョコと古いレコードを巡る人々の思い出を、少し懐かしい調子で綴れちゃうんだから。まるで写真集のように、雰囲気のある小物や景色の写真を多く挟むあたりもしゃれている。神奈川の本屋でばかりよく見かけると思ったら、舞台は横浜。スタイリッシュな日常の物語。(07/27)
って言って幼稚園児なんである。地の部分が1人称なんだけど、「ベイビー・トーク」以上に人を食っている。ハードボイルドを普段読まない私だけど、パロディとして十分楽しめる。見たことないからわかんないけど、名前の相似はもしかしてクレヨンしんちゃんか何かの影響もあるんでしょうかね。現代的だが、どこかおとぎ話チックな家庭像。なんか二階堂さんのカー派と呼ばれる作品を全然読まずにこういう與作ばかり読んでいるな……。(07/28)
ミステリとしての謎解きで人としてのさがを思うより、ちょっとした性質の方を罪深く思う。出てくる女はみんな物書きなのだが、その中に出てくる台詞。「自分の作品を、物書きが捨てられるはずがないわ」と断言するその作品は、下手をすれば、罪にまでは問われないにしても道義的に社会的に非難を受けそうな性質のものである、とみんなが認識している設定なのだ。そしてそれにひどく納得する。破滅は死や断罪によってやってくるのではなく、書けなくなること、によってやってくるのだ。(07/30)
イラスト・あとり硅子につられた第2弾。恋愛ものはかったるいのでものすごーく久々なのだが、やっぱりじれったくなってくる。どうせそれは思いやりという名のものだ、すぱっと聞け! と背中蹴飛ばしたくなっちゃうのだ。実際に革新的に人とぶつかっているならまだしも、普通の行為から想像が突っ走って相手の気持ちを無視して、悪意というと言い過ぎかもしれないけれど、そう解釈しているわけでしょう。現実に行う逡巡を否定するものではないが、この系統のフィクションにおいてはラストがきっぱり予想ついてしまうため、余計じれったい。でも私のしょうに合わないってだけで、じれったいのが好きな人にはまあまあじゃなかろーか。(07/30)
美しいという感動の元で涙が出てくる貴重な本。光景が美しいのでも際立って描写や文章が美しいのでもないけれど、笛の音が響き渡ればその魅力は感覚で理解できてしまうし、舞台から美を捧げられたりされてしまう。美という概念が、文章の隙間から滑り込んでくるような。異星人の遺物とか出てきてSF謎明かし的な興味もあるけれど、心の中にキレイなものを抱いていることの喜びが溢れている。そしてフェミニズムSFでもある。美を享受するものは、絶対的母性で、誰の胸の中にもある。(07/31)