2月の読書日記

mteraが2月に読んだ本。

『どすこい(仮)』 京極夏彦 集英社
才能を浪費のばかっぷり。というより本領発揮か。京極作品はもともとモデルとなる事
物や人物があるのだけど、まさにありとあらゆる情報をこねくり回して原型とどめずと
いうところで焼き固め、投げつけたようにはちゃめちゃ。参加していない人間にはわか
らない楽しさがある。まさにパロディという名の祭りという感じ。しかも褌祭。いやー
んな感じ。私は大好きだね、このノリ。(2/4)
「ここは今――デブに包囲されてるのよ。村は脂肪に囲まれている!」

『未来の二つの顔』 J・P・ホーガン 創元SF文庫
ミンスキーに助言を仰いでいるようだが、ミンスキーっぽくない人工知能の話。「そん
な一発で進まない。普通はデッドロックに至る」という点は横に置いといて、推論する
機械は人間を攻撃しうるか?という命題の解決に、希望に満ちた答えを出している。機
械を説得するのは論理、そして人間もそんな無理解ではない。この人の話を読むと研究
者になりたくなる。基本的に異種族を敵としない思想が好き。(2/9)
「知能の名に値するほどの者ならば、報い合う以外のことはできないと知っていたんだ」

『ゴー・ウェスト 天竺漫遊記1』 流星香 講談社X文庫ホワイトハート
名前が違えば元ネタが何かさえわからないぐらいYAアレンジされた西遊記ネタの話。
西遊記でない、と考えれば悪くない。その分、本家に惚れ込んだ人間としては「ちがう
んだー」と呻きたくなる点が満載だけど。悟浄が河童的なのはもろ日本のテレビの影響
だろうけど、三蔵が悟空とキャラがかぶってしまっているのは気になる。西遊記の名を
かぶさないほうが得するではと思うのは私だけか。(2/10)
「俺様の弟子どもは、ちょっとばっかし器用な奴らなんだよ♪」

『魔剣街』 菊地秀行 祥伝社NONNOVEL
最近菊地さんは超時代物に凝っているらしい。しかも剣豪物。そんな古代に鉄はないだ
ろうとか鎧はないだろうとか、そういうことを考えてはいけない。何しろ<新宿>、何
があってもいいのだ。そしてそんな話に組み合わされる剣を求める女性は清純にして、
姿勢正しき人だ。そんな人でも通り一遍の幸せになれるとは限りません。<新宿>だか
ら。そんな彼女の陰で、今回出番多いわりに黒も白も脇役っぽい。(2/11)
「時間は忘却する役には立たないのよ」

『活字探偵団増補版』 本の雑誌編集部編 角川文庫
四六時中活字のことばかり考えている人は、きっとおもしろいと思える突撃ネタが満載
だ。今でも丸善にレモンは置かれているのか、とかナミビア共和国の書店事情とか、文
庫の背表紙の色がまちまちなのは何でだ、とか。そんな謎を軽く調査、軽い結論を出し
楽しみを得る。はさまれた活字中毒者ではない一般人へのインタビューを読むと実感す
るが、こういう楽しみ、実はとても内輪ネタチックな内容である。(2/14)
読み終えても、何の役にも立ちません。

『ブギーポップ・ウィキッド エンブリオ炎生』 上遠野浩平 電撃文庫
逃げようがかっこわるかろうが、生き残った方が勝ち、という考え方もわかる。生き残
ったのに、勝ったなんて思えない、なぜ自分は死んでいないのかという切ない疑問も、
わかる。そういう矛盾を全部許容している。自分の可能性やそれが昇華して力となった
ものが世界にまったく意味がなくても、自分だけはその意味を知っている。迷える子羊
に囁いている作者がエンブリオでないのか。(2/15)
「人は自分の中の可能性と格闘するために生きている」

『信長 あるいは戴冠せるアンドロギュヌス』 宇月原晴明 新潮社
帯の「この作者の頭の中は妄想に満ちている」という紹介文に笑ってしまったが、まさ
に、すべての事象に関連性と陰謀を認めたがるトンデモ本のような解釈をしておきなが
ら、人物の造形がしっかりしているのでおもしろい。会話にも雰囲気があって、説得力
があり、読みやすい。信長が両性具有であるという設定は結構枝葉末節で、彼の危うさ
はきっと孤独という形。彼の求めた石は意志に通じるのか。(2/19)
「石を持つ者は人を魅了しなければならない」

『魔物をたずねて超次元!』 ロバート・アスプリン ハヤカワ文庫FT
いなくなってしまったオゥズを探しにいった世界で、実業家から受けた鋭い助言に動揺
するスキーヴくん。オゥズの過去が玉ねぎの皮のようにむけていく状況で、彼は自分が
皆に悪い影響を与えている存在じゃないか、なんて自己嫌悪に陥り酔い潰れたり、騒動
の種は尽きません。でも誠意を見せれば次元一の彼の説得には誰も逆らえませんて。あ
んな一言気にせず、いつまでもそのままでいてくれ。(2/20)
「すべてを是非で類別するための鍵があるだろうなんて、くだらない……どころか、危険な妄想ですぜ」

『球形の季節』 恩田陸 新潮文庫
『屍鬼』に似ている。こちらの方が先なのだが、そう言いたくなる。悪くはないと思う
が、人がいっぱい出てくるわりにその誰もが行動に動機が弱い感じがして、最後の収束
のときに違和感が抜けない。噂の出所が狭まっていく過程は、どす黒い嵐がやってくる
のを見るようで結構恐ろしくなってくるのだが、寝てるうちに台風逸れちゃったよ、と
いうように拍子抜けで終わる。でもこの本は若書きらしい。(2/22)
「あんたは大人になろうとしているんだ。自分が異物なのではないかと恐れたままね」

『豹頭王の誕生<グイン・サーガ70>』 栗本薫 ハヤカワ文庫JA
いつにも増して、ハイなあとがき。そのわりには、豹頭王誕生のシーンはあっさり流さ
れてしまった。一人だけ幸せいっぱいのグイン。他のお二方の結婚生活は、すっかり壊
れている。イシュトの性癖についての現代心理学的解釈を作者が述べるのは反則と思う
が、このへん実は中島梓が書きたいことかも。にしても、70巻まで私はすっかり騙さ
れていた。アリの言葉を信じていなかった自分がショックだ。(2/24)
「俺は、陛下のお身代わりに働くために、ケイロニア王をお引き受けしたのだ」

『宝島』 スティーヴンソン 新潮文庫
うまくできている。ハリウッド映画とかにしたらウケるんじゃないか。キャラクターは
よく動くし、起承転結はっきりしているし、何より主人公のジムの冒険心が愛らしい。
味方側の人物の書き分けも自然だし、医者の使命感には惚れた。でも、一つだけ、いく
らそれが味を出しているとわかっていても不満があるの。片足の海賊で、恐れられてい
る男で、シルヴァーなんて嘆美な名前なら見た目も期待するじゃないさ!(2/26)
「そしてどんなことがあろうと首が助かることにしようぜ」

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